番外編100話記念SS〜お兄、浮気?〜
亜香里と付き合い始めた、その日の夜のこと。俺の部屋に当然の如く、というか待ち切れないといった感じに飛び込んできた亜香里はキョロキョロと周りをチェックしていた。
「最近、お兄何かあった?」
「え?いや、なんも?」
「なんも、って?お姉とイチャイチャするのがいかにも普通みたいな感じに・・・」
「ほぁっ!?」
日中の幸せオーラはどこへやら。あんなにキラキラしていた亜香里の顔が曇る。
「亜香里は、どんな気持ちでここにいればいいと思う?」
教えて?と懇願するように両手を俺の方に向ける亜香里。楽しい雰囲気ではない。が、重苦しくもない。中途半端なことをした俺への素朴な疑問だろう。
俺の部屋に来ただけなのに、こいつはわざわざ家で制服から私服に着替えて来たし、めっちゃ気合いを入れているのがわかった。着ているのは肩出しニットである。それとチェック柄のスカート。ニットは所謂童貞殺しと呼ばれているらしい代物だ。宝物庫の本に登場してたからわかる。
亜香里は多分、おそらくだけど、望美に先を越された分を取り返そうとしているみたいだ。
でも、本人はどうしたらいいかわからないらしい。ちゅーはしてる。じゃあその先は、というと、まだこいつはよくわかっていない。
亜香里は躊躇うように伸ばした手を引っ込めた。
「一度でいいから、わたしだけのお兄になって欲しかったな。・・・あっ、ダメだ。欲張りになっちゃうよ。どうしよう」
俺に告白されるまで精神の限界だった亜香里は、その気持ちを受け止めてあげることで崩壊を防げた。でも、付き合ってから何をどこまでやっていいかわからないらしい。
俺が言うのもなんだが、こいつはめちゃくちゃ俺のことが好きで、愛が重くて。
だからこそ、俺に好きと言ってぶつかるその強度や加減がわからないんだろう。
「なぁ、まずは言いたいことを言うことから始めようぜ。昼間にやったみたいにな。復習だ。俺のことは好きだよな?」
「好きっ!!」
即答でキランと静かに目を輝かせる亜香里。
「望美のことは好きか?」
「お姉のこと好きだよ?」
「3人で一緒にいられるように、頑張るからな」
「あんなにお母さんに否定されても?」
「どっちも好きだからな。っと・・・」
やべっ、付き合い始め初日くらいは望美の話しないほうがいいか?どうもさっきから独占欲が強そうな亜香里のうずうず感が・・・
「お兄、ごめんね。まだ、付き合ってる実感が無くて・・・」
あ、悩んでるのはそっちか。あんなにちゅーしたのにな。でも、こいつはひとつ大事なことを忘れてるよ。
「そりゃ、そうだ。亜香里からOKもらってないしな」
「えっ?そうだっけ?」
「これからのことを3人で話そうって言われただけで、俺はOKもらってないぞ?」
「ほ、ほんとに・・・?」
「本当に」
「きゃあー」
亜香里は真っ赤になった顔を手で隠そうとして、そのまま俺のベッドにひっくり返ってしまった。
恥ずかしそうに指の隙間から俺を眺めている亜香里。
「OKしてないのに、ちゅーしたの?」
「おう」
「亜香里がバカみたいじゃん」
「別になんでもいいけどさ、返事、聞かせてくれよ」
「・・・幸せにしてね?・・・はやとの彼女に、なる」
「おう、やっと言ってもらえたから安心したわ」
「そうなの?変なの。あかりが、嫌って言うと思う?」
「今日屋上で駄々こねてたのは誰だったっけ?」
「お兄〜?」
おっと、膨れっ面の亜香里にこれ以上いじわるするのはやめよう。
だが、まだ亜香里は言いたいことがあるらしい。こいつの顔に書いてある。
「どうした?人の目をじっと見てさ」
「お兄の宝物庫の中身、金髪の子に変わったよね?」
「んんん!?何のことですかあかりさん」
「前まではお姉に似てる子だったのに、似てない子になった。お兄の趣味、変わったの?」
「だから何の話、ですかー?」
「お兄、もしかして浮気?」
その時の顔を俺は決して忘れないだろう。一途を貫くこいつの、強い独占欲を追い詰めた部分。
亜香里は、氷のように冷たい眼と、絶対許さないという黒い憤怒の眼が合わさった表情をしていた。
それから、亜香里の誤解を解くまで1時間かかった。
宝物庫はもう鍵の替え時かもしれない。今度薫にでも相談しようと思う。
ーーーーーー
作者より、絵師さんに亜香里のイラスト描いてもらいました。カクヨムプロフィールのTwitterに飛んでいただくと固定ツイートにしてるイラストが見れます。
イラストはヤンデレにしてあるので、こんな一面もあるんだなと楽しんで頂けたらと思います。
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