決戦前日 朝、昼。やめてあげろよ


「よう。今日のブラジャー天気は快晴だな」


「どしゃぶりなのに、何言ってやがる」


一足早く梅雨入りしたのか、と思わせるような窓の外の土砂降り雨模様。


目の前の薫はウキウキしている。いや、透けブラ見たいのはわかるけどさぁ。


「変態先輩、ブラジャー天気予報士の名が廃る。本当に透けブラが見たいのなら、雨のち晴れの予報でないとダメ。日光に照らされた透けブラは神秘」


「なにぃ!?そ、その通りだ・・・」


隣の席の亜香里も朝からノリノリじゃねぇか。変態同士、薫と意気投合してやがる。


「自然に見えちゃう状況が好みなら、予報は外せないはず。まだまだ二流」


「おみそれしましたぁーっ!」


薫が深々と机に頭を擦り付けている。あかりさんや、その辺で勘弁してやれ。薫まで親衛隊になってもらっちゃ敵わん。


「変態先輩は、明日の大会、来ないの?」


「ズル休みにはなるが、応援しに行かせてもらおうかな」


おい、まさか女バスの透けブラねらってるんじゃ無いよな?だったらここで薫を止めるぞ?


「そこまでして透けブラ見たいのかよ」


「違うわ!柊が応援に行きたいって言うから、俺も付き添ってやるんだ」


「変態先輩、優しい。脈はあるの?」


「あーほ。柊が好きなやつぐらい、わかるだろ?」


ふむ。柊は神崎のために応援に行きたいんだな?


でもさ、薫がわざわざ出張ることは無いんだ。望美が瑞稀先輩に頼んでくれれば、薫は付き添わなくていい。


まぁ、いいか。こいつは良いやつだし、自分が必要ではないとわかったら身を引くやつだ。


ほんと、早く薫にも彼女ができればいいのにな。


「良い人止まりはキツいぞ?大丈夫か?」


「お?一丁前に人の心配しやがって。別にいいだろ?柊が相談してきたんだ。俺は困ってる女子は助ける主義だから、今回乗ったんだ」


いまいちこいつの思惑がわからん。ただの良いやつにしては、犠牲が大きすぎる。普通、学校サボってまで観に来るか?これは柊にも言えることだが。


「学級委員長を使って紳士ポイントを稼ごうとしてるのが見え見え」


「亜香里ちゃん、俺はそんなことはしない!孤高の戦士だからな」


「お兄が、変態先輩の行く末を案じてる。早く彼女作って幸せになって」


「うるせーよ颯人この野郎っ!!」


「いでで!俺はそんなこと言ってねーよ!」


薫に左腕をバシバシ叩かれる。ったく、心配してるのは本当だよ。世話になってるしな。


お節介かもしれないが、薫は俺から見ても優良物件なんだ。早くみんながこいつの良さに気づいて欲しいな。




ーーーーーー


「ごめんっ、みんなの分作りたかったけど、わたし一人では、颯人とわたしと亜香里の分しか持って行けなかったんだ」


昼、望美の弁当はカツ丼だった。いや、カツ重?


月城の重箱までとはいかないが、なかなかのボリュームである。


昼、教室に水谷ファミリーとプラス瑞稀先輩が集結する事態になっている。


「亜香里は、すっかり馴染んだみたいだな」


「上田、亜香里がいなくて、もう寂しくなったの?良い人紹介しようか?」


上田が顔を引き攣らせている。おう、おまえが亜香里を好きなのがバレてるから余計に思うが、亜香里よ、それだけはやめておけ。傷口に塩を塗りつける行為だ。


「望美、この量は多いな。重箱2段分だぞ?」


「颯人とはんぶんこしたくて、ね?」


「甘い甘いラブの匂いがするわ。わたし、場違いじゃないかしら」


「まぁまぁ、瑞稀っち。こんなの序の口だから、気にしたら負けだよー」


瑞稀先輩が心底嫌そうな顔をした後、金森先輩がなだめている。


「月城さんっ、今日は、どんなっ、弁当で?」


薫は月城からもらう気満々じゃねーか。


「被っちゃったのぅ。カツ丼よぉ?」


いやいやいや!月城もカツ丼かよ!しかもまた重箱で5段とか!


どんだけ縁起担いで勝ちたいんだよ。まぁ、絶対勝ちたいんだけどさぁ。


「ノゾミン、明日のケータリング、作って来ようか?一人じゃ大変じゃない?」


「亜香里も手伝ってくれるから、大丈夫だよ?」


「お姉、明日は6時に学校集合。つまり、3時起きで作らなきゃならない。朝が弱い亜香里は戦力になれない」


「今日、練習無いしぃ、みんなで今日中に準備しないぃ?買い出しは薫くんねぇ?」


「はいぃ!わっかりましたぁ!」


「はい!わたしもっ!手伝うよ?」


「柊が手伝うなら、僕もやろうかな?」


おっ?柊につられて、神崎が動いたぞ?さすがイケメンは違うな。


「そんなこと言ったら、わたしも手伝わなきゃならないわね」


「瑞稀っちさすがっ!お姉さんっ!」


「あんたも来るのよ?」


金森先輩を睨む瑞稀先輩。お?これは全員で行くムーブなのか?


「上田も来るか?」


「えっ、俺は・・・・・・」


気まずそうに亜香里をチラチラ見る上田。


どうしよう。2人の間になんかあったの?


「上田、亜香里に振られたからって遠慮しないで」


「おおおおまああああえさぁー!!!」


上田が発狂している。はーん。なるほどな。


「何?上田くん亜香里に告ったの?」


「無謀なことしたねぇ?わかって無かった系ぃ?」


望美が驚いた表情をして、月城がくすくす笑っている。


「俺でさえ、気づいていたのに・・・」


薫よ。上田は鈍感じゃねーぞ。ちゃんと気づいてたぞ。


むー。上田をフォローしたいのだが、俺が何言っても嫌味にしか聞こえないだろうし、困ったな。


「上田、全国行けたら、名前で呼んであげる。だから、頑張って?」


「ひどいやつだよな、おまえ・・・」


上田は恥ずかしいのか、真っ赤な顔してそう言う。かわいそうすぎる。


「だから、何回も言ってる。あかりの優先順位第一位は、お兄」


「おまえのために、俺はバスケをしてるんじゃ、ねぇ!」


「うん。大丈夫。上田なら、きっと勝てるって信じてる」


何が大丈夫なのか、わからない。月城以外、みんなポカンとした顔してるじゃねーか。


「ああ、今、もう吹っ切れたよ!絶対後悔させてやる。こんなナヨナヨ先輩なんかより、絶対俺の方が強いって見せつけてやるよっ!」


俺を指さすなっ!


「ありがと、上田。頑張ろうね?」


亜香里のスマイルに、上田はかくんと首を下に向けて項垂れてしまった。


なんていうやつだ。悪魔だ。小悪魔っていう生優しいレベルじゃない。亜香里はデビルになってる。


「上田くんは悪く無いよね。亜香里が悪いんだよ?」


望美の言う通りである。他のやつらも口々に言う。


「上田くん、優しすぎるよ。怒っていいよ?」


柊はガチで心配してるみたいだが、もう大丈夫だろう。バスケ一筋に戻っただけだ。


「水谷がちゃんとしないからじゃないか?犠牲者が出る前に、もっと付き合ってるアピールしないと・・・」


「わかってる。すまん、上田」


神崎はここに至るまでの経緯を何も知らないから、そんなこと言うんだろうけど、確かに上田に亜香里を任せていた俺の落ち度だ。


「ありがとう、上田。おまえのおかげで、亜香里を守ることができた。おまえには、一生頭が上がらねぇよ」


「よしてくださいよ。亜香里を泣かせたら、殴ります」


「ああ、わかってるよ」


はぁ、上田、悪かったよ。マジで、ごめんな。代わりに、お前にめっちゃパス出して活躍してもらって、モテモテにしてやるからな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る