※望美視点 彼がバスケをする時


「やっばぁ・・・はやちゃん、言っちゃったね。言い切ったね」


「お兄は、バスケのことを考えてる時が、一番かっこいい」


体育館二階のギャラリーで、わたしと亜香里は颯人の宣言を聞いていた。


このチームは、どこよりも、強い!だって。


その言葉のどこに根拠があるのかはわからない。でも、確かに颯人は、みんなの心を動かした。


わたしも、心を動かされちゃった人のうちのひとりだ。


うん、そうだね、颯人。颯人はすっごく、強い人だぞ?


「亜香里は、男バス、勝てると思う?」


「まだ、4対6くらいかな。負けそう。さっきお兄が言ったように、チームの強みを最大限に引き出しても、


「うちのディフェンスが未知数だよね」


「そう。例え失点しても、その分取り返す力があるのが、男バスの強み。だから、オフェンス次第」


「颯人なら、勝てると思う。なんとかしてくれるよ。なんだか、そんな気がする」


みんなに誤解されやすい颯人。わたしは、学校生活では、そのままでも良いと思う。


でも、バスケでは、ちゃんと周りに認められて欲しい。心配はしてないけどね。


「お兄はバスケでは一番になれないよ?シュートセンスが無いから。お姉もそれはわかるはず。なのに、どうしてお兄にバスケをさせたの?」


「颯人のパスにはね、意思があるの」


「どういうこと?お兄のパスは、シュートを打ちやすいプレゼントパスってこと?」


「それもあるけど、ちょっと違うよ。亜香里は違うけど、わたしにパスを出す人は、みんな遠慮するんだ。優しくしたり、自分のプレースピードを緩める必要があるようなパスだったりね。ほんとはもっと、ギリギリの、ドンピシャのパスが欲しかった」


「お兄は、お姉の欲しいポールをくれるの?」


「うん。初めてツーメンした時、びっくりしちゃった。颯人ってわたし相手でも、全然手加減しないもん。鬼パスばっかりだよ。でも、いつもギリギリ追いつけてた。そして、いつの間にか、男子の速さでプレーできるようになったの」


「それはお姉に対してだけだと思う」


「そうかな?だとしたら、それはもったいないよ。みんなには早く颯人の凄さをわかって欲しい。みんなが颯人のパスに追いついた時、このチームは強くなるよ?」


わたしは、颯人をパスだけの人だって思ってない。颯人が上田くんに期待する以上に、わたしは颯人に期待してるから。


「お姉、お兄のパスに誰も追いつけなかったら、どうするの?お兄が孤立するよ?」


「はやちゃんが孤立しても、ついていけない周りが悪いよ」


「鬼パス連発するガードって、嫌われそう」


「だから、最低限、上田くんと神崎くんとは仲良くなったでしょ?わたしができることはここまで。あとは、颯人がエゴイストになれるかどうか、だよ?うまくいけば、颯人はヒーローになれるよ」


「お姉、お兄に甘いよね?」


「亜香里にだけは言われたくないなー。どうなの?あとは亜香里の仕掛け、あるの?」


「もう無い。あとはお兄が頑張るだけ」


「そっかぁ。わたしも、もう無いんだ」


「あ、でも、ひとつだけ、お姉に頼みたいことがある」


「なあに?」


「男子の試合、お姉もマネージャーやって?」


「それはいいけど・・・どうして?」


「この一ヶ月、ずっとプレーヤーをしてたら、テーピングの仕方、忘れちゃった。お姉なら、できるよね?」


「できるよ。どんな部位でも大体はね。でも、誰も怪我しないのが1番いいなぁ」


「試合が始まれば、何が起きるかわからない。お姉がいてくれるなら、亜香里は安心」


亜香里は相変わらずだね。颯人の近くにいる権利を、独り占めしないんだね。


「亜香里は、颯人を独り占め、したくないの?」


「お姉。お兄には、どちらかではなく、わたしたち2人が必要なんだよ?」


「そこだけ聞くと、颯人って贅沢だよね」


「贅沢!ほんと、お兄はわたしたち2人がそばにいる意味をわかってない!」


わたしが、亜香里が、颯人を支える。それぞれ、違ったやり方で。


とんでもなく、支える方向が違う時もある。それはしょうがない。


だけど、方向さえ合えば、最強だよね?

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