日曜日、ミーティングからの始動


「ユニフォームを配るから、みんな、今日はそれを着て練習してみてほしい。大会は明後日だ。楽しみにしてるからね」


相澤先生が俺に、どさっと段ボールの箱ごとユニフォームを渡してくる。


日曜日の午前9時、制服姿で体育館コートに集められたバスケ部。


大会のメンバー発表は俺がするらしい。なんで俺がやらなきゃならないんだ?


1人、手を挙げてるやつがいる。同学年の志多だ。


「水谷、俺をスタメンで出せよ。県大会出場は、地区予選でスタメンだった俺の貢献もある。水谷とか、ポッと出の神崎に、スタメンを譲るのは納得できない」


ほらな。予想通り、不満は出る。


地区予選でガードをやっていた志多はおもしろく無いに決まってる。


「ふーん。竜ヶ崎に対しては、文句は無いんだな?」


「そりゃあ、竜ヶ崎先輩とはずっとバスケやってるから、最後の大会くらい、出てもらいたい」


まぁ、そうだよな。俺と神崎の部外者感が半端無いのは知ってる。志多からすれば、面白くない。


どうしたもんかと考えていると、竜ヶ崎が声を上げる。


「志多、僕は水谷が決めたメンバーでしかやらない。僕が疲れたら、君と替わろう。それでいいかい?」


「なっ!?なんで新参者の味方をするんですか?」


「その方が勝てるからだよ。君は水谷のようなパスを出せない。上田のようなスティールはできない。神崎のように、リング下で争うことができない」


「・・・・・・」


「神崎無しで外4人にしてもいい。だが、リバウンドが弱くなる。マンツーマンディフェンスはキツいから、ゾーンディフェンスをしなきゃならない。君はそうして地区予選で負けたのを忘れたのかい?」


「勝つために、このメンバーなんですか?思い出作りではなくて?相手は優勝候補ですよ?」


「思い出作り、か。面白いことを言うね。僕は勝つために戻ってきたんだ。勝つ気が無いならいらないよ。最後に出してあげるから、綺麗なシュートを決めて満足してたらいいさ」


「ほんとうに?冗談ですよね?俺らを破った高校も、次の試合でダブルスコアで負けてるんですよ?無理ですよ」


「僕と、水谷と、高身長が加われば、いい勝負になるよ」


神崎がディスられているので、ちらっと神崎を見る。神崎は苦笑いだ。


「じゃあ、火曜日の一回戦、負けたら俺に部長の座をください」


どうぞ?あげるよ?部長の座。


他にやりたい人いなさそうだし、志多でいいんじゃないか?


「無理だね。水谷がどうしても部長になりたいらしい」


「言ってねーよ!」


「おや?男女揃って全国大会出場は嘘なのかな?」


竜ヶ崎が俺を見てほくそ笑む。


誰だよ。竜ヶ崎にそんなこと言ったやつ。


って、ひとりしかいねーか。


亜香里様のせいだー!!!


「えっ?全国?」

「ほんとに?夢じゃなくて?」

「上田と竜ヶ崎の力が合わされば、夢物語では無くなる・・・?」


「悪いことをした僕が、コートに戻れた理由は、全国に行きたいからだ。一番行きたいのは、水谷だろうね」


いや、全国行きたいなんて、言ってねーよ!


「俺たち、勝てるのか?」

「うおおおお!!全国大会とか熱いぞ!」

「弱小なんて言われてたけど、意外とジャイキリ狙えるんじゃね?」


男どもが勝手に盛り上がっている。


「みんな、勝ちたいか。僕も勝ちたい。勝つために、水谷がいるんだ。ほら、水谷くん?さっさとメンバーを発表して練習をしよう。時間が惜しい」


「「「うおおおおおおおおお!!!」」」


みんなのボルテージは最高潮に達した。


すげーな、竜ヶ崎。さすが元部長。有能なモチベーターになってやがる。


ここは、俺も決める流れだ。


「みんな、聞いてくれ」


しん、と静まり返り、バスケ部の男子みんなが俺を見ている。


「確かに、俺は新参者だ。だから、不公平感があるのはわかる。だけど、俺はガードとして、勝つためのメンバーを選んだ!」


ひとりひとりの顔を見る。みんな、俺の言葉に期待してくれてる感じだな。


「俺は全国大会を目指す。ようやく気づいたんだ。俺にはバスケしかないんだって。バスケをしてる俺は、最強だ」


「先輩、嘘はダメです。俺に何回1on1やって負け越してます?」


「うるせぇよ上田」


そう、俺が上田に負けてるところなんて、何度も見られてる。だけど、重要なのは、そこじゃないぞ?


「俺は、ガードとして、みんなのストロングポイントを最高の状態で引き出して見せる!そして、勝つんだ。俺たちは、県大会に出られただけで満足するような、ありふれた青春でいいのか?



俺はそんな、自分を納得させるような青春は嫌だ。どーせやるなら、1番を目指そうぜ?


全国、行くぞ?なぜならなぁ、このチームは、どこよりも、強い!!!」


「「「「うおあああああああ!!!」」」」


凄い熱気だ。


やっちまった。


啖呵切っちまった。


もう、取り返しがつかない。


やばい、怖いわ。自分にプレッシャーかけるの、半端無いわ。


でも、今、それ以上にさ。


やってやるぞ!っていう熱い想いが俺を奮い立たせるんだ。


竜ヶ崎、とりあえず、ありがとよ。許してねーけど。


さぁ!練習しよーぜ!!!

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