第17話 亜香里が教室にいる昼食

「颯人!お弁当食べる?食べるよね?」


昼休み早々に望美に声をかけられる。


「え?俺、薫と購買行こうと思ってたんだけど」


「ダメよ。今日はダメ。明日の勝負のために勝負飯作ってきたから!」


「いや、勝負飯って前日食べるもんだっけ?ま、いいか」


望美の席に向かって歩き出した俺。


だが、がしっ、ミシッと肩を掴まれる。振り返ると、鬼の形相の薫が泣いている。


「颯人。俺ら友達だよな?」


「ほらー、見てー?望美さーん?めちゃくちゃ薫が泣いてるわ」


「そう言うと思って、わたし、もらってきたよ?」


「え?何を?」


「じゃーん!これ、沙耶香っちのお弁当。さっき、教室に来てわたしのと交換したの。色んなお弁当食べて勉強したかったから、丁度良かったわ」


「ま。まじで・・・?それ、大丈夫?」


昨日まで敵だったやつの弁当食べるのか。心情的にどうなんだろう?俺だったらできそうにない。


あからさまに引いていた俺だったが、望美はふふんと楽しそうに続ける。


「そう、颯人がその反応をするのも折り込み済みよ。だから、はい、福山くん」


月城の弁当が薫に渡される。


「え?くれるのか?」


「うん、全部食べていいよ?一緒に食べよう?」


毒味勧めてきたー!!


まぁ、そうだよな。昨日まで恨んでたやつの弁当なんて食べられないよな。薫が何ともなければ次回から食べられるし、薫の感想をそのまま月城に言ってあげれば解決するしな。


「まじ・・・?これ、月城さんの?」


「そうだよー。さささ、座って座って。ごめんー、机動かしてもいい?」


あっという間に4人で囲む食事スペースが出来上がる。


ん?あとひとつの席は誰が座るんだ?


「あー、もしかして月城が来るのか?」


「颯人。あとはいつも通りだよ?」


それって・・・


「お兄、入りづらいから迎えに来て」


振り返ると、教室の入り口にはこちらを凝視する亜香里の姿があった。


い、行きづれぇ〜。


「お兄、放置プレイはやめて。早く来て」


「おい、今お兄って言ったよな?」

「あんな可愛い子、いたっけ?」

「誰の妹だ?なんか、五橋に似てる気がするが・・・」


平穏を保っていた教室に激震が走っている。


亜香里、めちゃくちゃ注目されてるじゃん。


教室に呼ぶなんて、オラ聞いてねぇぞ。


俺はしぶしぶ亜香里のところまで歩く。


「は?水谷?あいつ妹いたっけ?」

「顔似てなくね?もしかして付き合っててそういう性癖的な呼び方だったりとか・・・」

「噂通り、水谷くんは女たらしかもね」


なんか気になる声が聞こえたけど、気にしないでおこう。


「二年生の教室に入るのは丸腰でダンジョンに入るのと同じこと。つまりわたしはいつ襲われてもおかしくない」


例えがよくわからんが、亜香里が緊張してることはわかった。


「いや、屋上でいいだろ・・・。それか断れよ」


「そろそろお兄の交友関係を確認しに来た。その男の人はだれ?」


「友達の福山だ。ブラジャーに気をつけろ」


「わたしの下着は今日新品。問題ない」


大問題だよ。亜香里に少し黙っていて欲しかったからあえてエロ話題振ったのに!


「よ、よう。颯人、その子は誰なんだ?」


「最近昼飯を一緒に食ってる、望美の、妹だ」


「はじめまして変態先輩。五橋亜香里です」


「第一印象最悪じゃねーかふざけた紹介すんなあああ!!」


うるさいなぁ。薫はとりあえず滲み出る変態臭をどうにかしろ。


「そんなことより福山くん、早くお弁当開けなよ」


望美は月城の弁当の中身しか興味がないようだ。まぁ、気になるよな。


「それにしてもこの弁当箱厚くね?」


パカっ。


アルミの箱から出てきたのは、海老、蟹、レバー?金時?すげーな。ゴージャスだ。


望美はこのおせち級弁当から何を学ぶつもりでいるのだろうか。


「見ただけでお腹いっぱい」


亜香里がそう言うと、望美もうなずく。


「やっぱり。お詫びも兼ねて渡してきたのね。こんな豪勢なの食べられないなぁ・・・。さやかっちに渡した今日の弁当、気合入れといて良かったぁ」


「月城さんちってお金持ちなのかな?」


薫が小刻みに震えながら聞いてくる。


安心しろ、誰も取らないぞ?


「違うと思うぞ。多分、今日なんかの記念日だったんだろう」


「中身が重すぎて、嬉しさ半分、怖さ半分だ」


薫、大丈夫だ。嬉しさ半分なら気合いで食えるぞ。


「福山くん。早く食べて?海老が福山くんを見てるよ?」


望美様が煽っておられる。海老に見られたって嬉しくないだろ。


「行くぞ、うおおおお!ぱくっ。もぐ・・・美味いっ。美味いぞぉっ!」


泣きながら夢中で食べる薫。もうちょっと普通に食レポできませんかね?


「変態先輩、泣き虫?」


変態泣き虫って響きがヤバイな。


「泣くほどおいしかったって言っとくね。じゃあ、うちらも食べよっか?」


本日の弁当は、地鳥と野菜たっぷりの黒酢あんかけ弁当だった。名前がやけに凝ってて気になったが、めちゃくちゃ美味い。


「もぐ・・・ん?望美の分の弁当無いって思ったんだけど・・・余分におにぎりあるんだな」


「今日は放課後、颯人のバスケの特訓の相手をするつもりだったの。これは颯人が小腹空いた時用だったおにぎりだよ」


「特訓って?俺と?聞いてないんですけど」


「はやちゃん、ボール触らないまま明日の勝負する気?」


「あー・・・」


うん、まぁバスケ部に混ざって練習しても良かったんだけどさ。


「あそこで竜ヶ崎先輩と一緒に練習したくなかったんだよね」


「お兄のシュート練習、手伝う」


「負ける気でいるなら手伝わないからね」


「負けるつもりはねーよ。つーか、許可とったのか?」


「金森先輩には許可とったから。女バスと練習になるけどいいよね?」


まじかよ。


あー、それよりも上田にまた疑われそうでめんどくさい。


「大丈夫か?この金時食うか?」


「いらんわ」


薫、大丈夫だ。最後まで毒味してくれ。何かあったら保健室に連れてってやるよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る