第5話 集団心理と目的と

横山ちゃんの仕事の速さはどうかしてる。


ボランティアで内申点アップを課された俺だったが、その日の放課後に活動する機会は早く訪れた。


進路指導室に集められた俺と望美と、横山ちゃんと、同じクラスの男女一名ずつ。


俺に向かい合う形で座ってるのが神崎龍之介。金髪で俺より背が高いやつだ。俺は170センチあるのだが、こいつは180センチくらいあると思う。


背が高くて髪が金髪だからって別に威圧感とかはない。所謂爽やかイケメンの部類だろう。


そして俺の斜め前に座る子は、柊優子という。黒髪編み込みロングのメガネ、所謂地味子だ。地味なだけで可愛い部類に入るとは思うが、今日初めて顔を見たのでよくわからない。


俺含めて目の前の二人に共通するのは帰宅部だってこと。俺の隣に座った望実は一応帰宅部だが、二年になってもたまに様々な運動部に参加していて、放課後の活動の仕方が純粋な帰宅部のそれとは違う。


「この場にいる者の共通点はわたしが担任で、全員の進路希望が大学進学であることだ。何か文句があるなら聞こう」


「先生」


「何だ五橋」


「ふざけたのは謝りますからわたしを解放してください」


「諦めろ。全て水谷のためだと思え」


「えぇ・・・」


横山ちゃんの無茶振りに望美がゲンナリしている。


これに懲りて他人を巻き込んだ悪戯は今度から止めてほしい。


「成績アップを先生に頼んだのは僕だけど、まさか五橋さんが出てくるとは思わなかったよ」


神崎の言葉に柊もうん、うんと頷く。


「君たちを集めたのは学力アップもそうだが、内申点アップも含まれている。基本的にこの四人で月曜、金曜の週二回行動してもらう」


「え、みんなそれでいいの?」


望美は顔を引き攣らせながらみんなに尋ねる。


「僕は助かる。恥ずかしいけどうちは塾に行けるほどお金が無くて困ってたんだ」


「塾講師並の能力をわたしに期待するのは流石に無理がありませんか?」


「先生、確かに望美は学年一位だし、教えるのは上手いけど負担がでかすぎます」


ここは可哀想なので援護してやる。


横山ちゃんは怪訝そうな顔で話し始める。



「おまえらは何か勘違いしてるようだが、五橋に勉強を教えてもらおうとするなよ?」


「「「「え?」」」」


「わたしがこの四人の中から推薦入試の学校選抜候補者を一人選ぶ。候補者は各クラス2名出され、全7クラスの合計14名の中から、2名の学校選抜者が選ばれる。詳しくはこのプリントを読んでくれ。期間は二学年終了まで。選考方法は中間、期末考査の順位の平均と奉仕活動だ。何か質問あるか?」


「無理だ・・・学年一位に叶うわけないよ」


神崎、俺も同意見だ。


「無理ゲー・・・」


柊さん、初めから放り出したい顔してるな。


「無理なら無理で結構。チャンスを潰すのも自分次第だ。では、君たちの頑張りに期待してるよ。この部屋は18時まで使ってくれ。わたしが鍵を閉める」


そう言って横山ちゃんが出て行ってしまった。


・・・しーんとする室内。気まずいな。


「何でこのメンバーなんだろうな?」


俺が口を開くと望美も続く。


「クラスでちゃんと部活やって無いのが私達だけってことだよね?」


「わ、わたし部活じゃないけど、図書委員で放課後残ること多いよ?」


「僕もバイトしてるから、まぁ曜日は調整できるけど、暇ってわけじゃないよ?」


はぁっ!?まさか純粋に放課後暇なのは俺だけかよ!!

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