第4話 大事な人
羽咲の相談を受けた次の日。俺はとりあえず様子を見ていた。羽咲は、前に馬鹿にされた男子に話しかけるタイミングを窺っているみたいだった。
「あの……」
「きもいんだけど近寄らないでくれる?」
「でもこの本だって面白いし、読んでみてよ……」
「何? もしかして俺に気があるとか? きもっ」
羽咲はもう限界だった。涙目になって、こんなに苦しい思いをしながら頑張って、それなのに……
「おい、羽咲。ちょっと委員長が用事あるって言ってたぞ」
ちなみにクラス委員長は、クラとシンだ。まぁリーダーシップあるからな、あの2人。
「え」
羽咲は困惑した顔で見る。
(とりあえず避難だ、避難、避難、避難、避難、避難避難、避難、避難)
羽咲は俺の意思が通じたのか、教室から出て行った。クラとシンにもメッセージでも送っておくか。
まぁそれに、あともう1人頼れる人いるしな。
「助かったよ、伊野波。キモオタ女子に絡まれててさ」
「俺は別にキモオタとか何も思わなかったけどな」
「まあサンキューサンキュー」
「ちっ」
こういうやつは脳みそを忘れてきたのか? と言いたいが、そこは我慢して俺も教室を出た。ある所へ向かうために。
3階のセミナー教室、相談部部室。
「やっぱりここだったか」
「よく頑張ったよ、羽咲さんは」
「凛先輩、ありがとうございます」
「いやいや私部長だよ? 私もちゃんと活動しないとね」
「うっ……うっうっう……」
羽咲はこれでもかと泣いている。
「羽咲。俺は分かり合えばいいとか思ってたけど撤回する」
「え?」
「だから顔あげろよ。人間分かり合えない奴もいるっていうのもあるし」
「私、そんなダメなのかな」
「そんな奴らと分かり合えなくてもいいじゃん。だって俺らがいるから、でしょ清輝君?」
「ああ。お前には俺らがいるだろ?」
「うっうっうわぁぁぁぁ」
羽咲はついに泣き崩れた。まぁ元から結構泣いてたけど。よく頑張ったよお前は、ってお父さん目線かよってな。
「じゃ、後はよろしくっす、凛先輩」
「はいはい。後は私の出番でしょ」
「お願いします」
教室に帰るとクラとシンがやってきた。
「大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。これも部活の仕事だし。お前らにちょっと迷惑かけて悪かったな」
「まあ俺が誤魔化しておいたから大丈夫だぜ。で俺らも話してたんだけどよ……」
「羽咲さんを私達のグループに入れるのがいいんじゃないかなって」
「奇遇だな。俺もそう思ってた所だ」
羽咲はその後、教室には帰ってこなかった。どうやら保健室で休ませたと、凛先輩からメッセージが来ていた。そして放課後、羽咲を見に行くとまぁまぁ元気になっていた。
「元気になったみたいだな」
「まぁちょっとはマシになりました……」
「で、羽咲。お前は俺らのグループに入ってくれるか?」
「え、いいんですか?」
「いいに決まってるだろ?」
「あ、ありがとうございます!!」
「いいっていいって。これからよろしくな、羽咲」
「はい! 伊野波君!」
この笑顔が見れたらよかったと俺は思った。
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