第五十三話 最強
痛覚を呼び覚ます、つまり加護の効果の一部を無効化にするという事だ。
そんな芸当が本当に可能なのか?
「この学院の加護は主に催眠と超回復で成り立っている」
催眠と超回復? つまり実際は傷を受けているという事か? そう聞くとなかなか怖いな。
「そしてそれぞれ催眠は痛覚を無くし、超回復は魔術的な力で傷を無かったことにできる」
無かったことに、か。まぁ実際傷を受けてそれが元通りになるよりは安全かもしれない。
「俺はそのうちの催眠に干渉できる。テメェみたいな馬鹿には理解できないだろうが、人間は魔術の特性に拘わらず脳内に微弱な電流が流れていてな、そいつをいじれば人間の感覚に干渉できる事を発見したのさ。そして雷系統の使い手の俺はそれができる。過負荷の事を度外視するなら理論上操る事だって可能なんだぜェ?」
おいおいマジかよこいつ……。それってもしかして科学的な分野の話なんじゃないのか? 俺は文系だからよく知らんが、なんかそういう話を元の世界のドキュメンタリーとかで聞いた事ある気がするぞ? そんな最先端な話、この世界の人間に到底辿り着けるものじゃないだろ普通。
でも現にカルロスは俺に痛みを感じさせる事に成功している。はったりなどと言って一蹴する事はできないだろう。
だが今は、それよりも大事な事がある。
「なるほどお前がすごいのは分かった、でもどうしてその力をよりによってさっきの試合で使う必要があったんだ?」
問うと、カルロスは一気に間合いを詰めてきて斬りかかってくるので、慌てて自らの剣でその斬撃を受ける。なんて重い一撃だ……!
「そんなの決まってんだろ?
「どういう事だ」
「人間ってのは本当に危ない状況にでもならねぇ限り最高出力の力を発揮しやがらねぇ。仮初めの力なんかよりもっと本物の力を打ち負かしてぇんだよ俺は!」
なんとかその剣を流し、いったん後方へ退きカルロスとの距離を置く。
「一体何のために!」
「決まってんだろ? 俺が最強って証明するためだッ! カレントヘーベン!」
半ば興奮気味に言い放ったカルロスは、地面に剣を突き刺す。
垂直に立てられた剣を源に稲妻が地を這いながら、猛進する。
「
身体の軽量化、すかさず跳躍。宙に避ければ雷の影響を受けないと判断しての事だった。
しかし思い通りにはいかせてくれない。
足元までたどりついた稲妻は、金切り声にも似た音を立てると、地面から宙へと上昇。
宙に身をまかせ自由の利かない肉体を急襲した。
「ッ……!」
純白に覆われる視界。全身を刺されたような激しい痛みが駆け巡る。
加護の力が無ければここまで痛みを要するものなのか!
「おいおい、さっきの威勢はどこにいきやがったんだ?」
重力と共に、落下。
思わず倒れると、カルロスはどこか子馬鹿にするような口調で煽ってくる。
しかし最強を証明するためか……なめた野郎だ。
「……最強を証明するためとかさっき言ってたな? そんな証明に何か意味でもあんのか?」
起き上がりつつ、問う。
「意味か……」
カルロスの表情からは何を思っているのか読み取れない。でも何かが宿っている、そんな気がする。
「そんなもんは無いかもな。だが……俺が最強である事には意味があるッ!」
カルロスは最後に咆哮にも近い声をあげると、猛然と剣を目いっぱい引きながら、突進。
気付いたころには目の前まで迫ってきていた。
振るわれる刃。
剣で対処しようとするも、あまりにも力強い斬撃にいともたやすくはじかれる。
懐をがら空きにしてしまった。
殺気の籠った大ぶりの斬撃が再度、素早く、力強く、放たれる。
まさに目と鼻の先だった。
なんとか顔を仰け反らせ、回避。しかし急激な動作に脳の信号が追いつかず、身体の制御がきかず転倒してしまう。
太陽の光が人影に遮られる。
「がっかりさせやがって……こんな雑魚やったって最強なんて言えねぇんだよ」
こちらを見下ろすカルロスはただ無表情に剣の切っ先をこちらに向ける。
いつもバトルアニメとかを見て思う、敵味方に関わらず、何かを殺す前の奴らは大概もったいぶるかのように寸前で少しはためるのだ。すぐにケリをつければいいというのに。今回もそれは例外ではないらしい。
「クーゲル!」
一瞬の隙をつく反撃。
カルロスは咄嗟に反応しそれを避けようとするが、この至近距離ではもちろん避けきれるはずがない。俺の放った魔力弾はその肩に直撃する。
俺は咄嗟に飛び起き、落ちていた剣を回収。間合いを取るため後退した。
しっかりと握りなおしカルロスに焦点を当てると、クーゲルの当たった肩を、片方の手でかばうように抑えている。
なるほど加護は等しく無効化されるらしい。やりがいがあるってもんだ。
「ほう……なかなかの威力だ」
俯きがちなので顔の全体が見えはしないが、カルロスの口は両端に吊り上げられていた気がした。
「
その言葉を聞くと再びあの時の光景が頭を突き抜ける。あんなにも辛そうなミアは見たことが無い。でもそれは当たり前だ、学年は上でも彼女は
――必ず倒す。
「ピュール・ヴェレ!」
暴れる体内の魔力に従い、地面に剣で線を刻む。
描かれたそれを軸に、紺色の焔が大量形成。カルロスの元へと一斉になだれ込んだ。
圧倒的な量が雪崩込むその炎はさながら、荒れ狂う大波のようだ。
ピュール・ヴェレ。前方の超広範囲に炎を繰り出す上級どころといった魔術。
とはいえ恐らくカルロスはこの一撃で仕留められるほど甘くは無い。でも視界を遮るだけでも十分な隙ができるはずだ。
「
魔法で身体を軽量、すぐさまカルロスの頭上へと飛翔し、上空からしばらく緩やかに落ちながら炎が消えるのを待つ。
「なかなか高度な魔術だがぬるい……あ? どこに」
やはりなんとか防御してきたか。でも幸いまだこちらには気づいて無さそうだ。
「
炎の消滅と共にカルロスの脳天を捕捉。そこにむけて斬撃を叩きこむため今度は、
「チッ、上だったか。だがテメェの斬撃なんざ俺にとっちゃ赤子が拳をぶつけてくるレベルなんだよッ!」
余裕からか、笑みを浮かべるカルロスはどうやら俺の斬撃をそのまま受けきるらしい。それどころか大きく剣を引いていることからそのまま弾き飛ばすつもりでもいるんだろう。
まぁ、流石のお前でもそれはできないだろうけどな。
一瞬の間があって。
剣と剣は火花を散らし激突する。耳に届く鈍い金属音。
「なんだこの重さ……!」
カルロスは予想外だと言うように声を荒げる。
その様子を確認し、すかさず剣から手を離し思い切り地面を蹴ると、まだ軽量の効果が続いていたのでそれなりの間合いを取る事に成功する。
「ケオ・テンペスタ!」
やや溜めた後、俺の剣の重さで体勢を崩すカルロスに向けて魔術を詠唱。
旋回する紺色の焔は、一瞬でカルロスの身体へぶち当たった。
終わったか、そう思うにはまだ甘かった。
上級どころの魔術を受けたというのに視界の先にあるのは未だに立つカルロスの姿。
「ハハ……上等……上等だよ」
カルロスは若干よろめきながら殺気に満ちた目で俺の事を見据える。
「痛ぇな……ああ痛いさ……」
一人つぶやくカルロス。
身体の心拍数が増していくこれは、恐怖か?
まずい、早く奴を潰さないと。
募る焦燥。早々にケリをつけてしまおうと攻撃を仕掛けようとした矢先、いくつもの魔力弾がカルロスの手から放出された。
「俺が最強だァ!!」
化け物か、こいつは!
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