第五十話 胸騒ぎ

『続いてはDグループでーっす!』


 Aグループの試合が終わった後、B、Cと試合が終わり、遂にカルロスのいるDグループの番になった。予選は二日に分けて行われるらしく、明日にキアラたちが出るE以降の試合があるという事だ。ちなみに本戦は光駕祭最終日だ。

 キアラは、ようやく挨拶回りを終えフリーになったミアのために一緒に光駕祭を回っているところだが、カルロスの試合が気になったので俺はティミーたちと観客席にいる。

 

『それでは、はっじめ~!』


 始まりの合図とともに始まったのはカルロスの独擅場だった。

 奴は天属性の雷系統らしく、雷魔術も交えながら大ぶりの剣を振るい次々と人をなぎ倒していく。流石最高機関とも言われる一派のドンだ。


「カルロス……」


 ふと傍らにいるアリシアが名前を呟く。


「この調子だと本戦に来るな」

「そうですね」


 カルロスは本当にあの花壇の件とは無関係なのか、それともやはり関わりがあるのか。本戦で俺はそれを確かめなければいけない。確かめてどうするか……それはその時にでも考えよう。

 とは言え、もしカルロスが前者だとして本当の事を言うのかと聞かれればそうだとは言い切れないな。


「決まったな」


 アルドがそう言ったので今一度フィールドの方に目をやると、カルロスが最後の一人を斬り伏せるところだった。他の奴らは手も足も出せてなかったというところか。


『決まりましたー! 圧倒的な強さの前に本戦を出場したのは今大会の優勝候補、カルロス・マルテルさんでーっす!!』


 相変わらずきゃぴりとした司会が元気よく告げると、会場にはこれまで以上に大きな歓声が沸き上がる。それほど奴の戦いっぷりは凄まじいものだったという事だろう。


「あ、あの人すごかったんだね……」


 ティミーは食堂での一件の事を思い出しているのかどこか恐れた様子を見せながら呟く。


「まぁ確かに実力はあるみたいだな」

「そ、そうだね……アキ、頑張ってね」

「おう、まかせとけ」


 と口では言ったものの、あの強さの前に俺がどこまで食らいつけるか……正直勝てる気がしない。何せDグループは全員九年だったというのにあの圧勝ぶりだ。もちろんカルロスは優勝候補、俺の時のように全員が敵という状況になったにも関わらずに。


 その後、会場を後にすると既に日は傾きつつあり、店なども閉まり始めていたので寮に帰ることになった。光駕祭一日目、これにて終了。



♢ ♢ ♢

 

 二日目の朝、俺含む寮生はキアラが来るのを待っていた。どうにも紹介したい人がいるだとかなんとか。


「紹介したい人って誰なんだろうね、アキ?」


 待っている間、ティミーが不思議そうな表情で俺に聞いてくる。そんな事聞かれてもな……。


「親とかじゃないの?」

「そうなのかな?」

「まぁそうだろ」


 うん、きっと親なんだ。友達に親紹介するのってそんな珍しい事もないさ。光駕祭だからな、うちみたいなよほど遠方な土地に実家がない限り両親も来るに違いない。

 

「やれやれ、わかっていないなアキは」

「な、何がだよ?」


 聞き返すと、アルドが不敵な笑みを浮かべていた。

 まったく、急に口をはさんでくるから一瞬言葉に詰まったじゃないか。


「親なんかわざわざ紹介すると思うのかい?」

「するだろ」

「いや、こんな朝からわざわざ僕たちを親を紹介するだけのために呼ぶとは思えないな」

「じゃあ誰なんだ」


 問うと、アルドは一呼吸置くと、自分の前髪を払い悠々と言葉を吐いた。


「ふむ、僕の考えによるとこれはおと……」


 だが俺はその言葉を全部言わせる前に思い切り剣の側面を首に叩きこんでそれを制すると、アルドはたまらず地面に顔をめりこませる。

 なんか前髪を払う動作とかその他もろもろが鬱陶しかったからさ……。


「な、何をするんだアキ……別に痛くはないが精神的な痛さがだな……」

「知るか」

「どうしたのアキ……」


 気づくとアリシアとティミーが心配そうな目でこちら見ていた。別にどうもしないよ?

 

「やっほーみんなー!」


 そこへ、少し向こうから手を振りながらキアラが――と歩いてきていた。……嘘だろおい。


「いやぁ、ごめんね待たせちゃって」


 キアラ隣に居る男の子は短くさっぱりとした髪型で、少しだけ俺達よりかは幼めの印象を受ける。

 まさかキアラは年下が好みだったとは……ていうかなんだこの短髪、仮に小五小六としてそんなガキが一つとは言え年上の女の子と一緒に居るとかなにませたことしてんの? 身長伸び無くなるよ?


「どれがアキさんっすか!? アキさんはどっちっすか!?」

 

 その短髪は静かにしていたかと思うと、急に目を輝かせ騒ぎ出し俺の名前を呼び出し地面に突っ伏すアルドと俺を交互に見やる。なんだこの子……あ、分かったぞ。キアラのお兄様(仮)である俺に挨拶をしようってのか、いい度胸だ。


「俺がそうだけど何か用か?」


 できるだけ突っ放したような言い方をしたつもりだが、俺の言葉を聞いた小僧はより一層目を輝かせたかと思うと、馴れ馴れしく手をとってきた。


「ちわっす!! 姉ちゃんから話はきいてます! すごいんっすよね!?」

「は?」


 今こいつ姉ちゃんって言わなかったか?


「いやぁ、夏休みに話を聞いた時はもう超リスペクトしましたよ! まさか姉ちゃん程強い同い年がいたなんて信じらないっす!!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 俺を置いてどんどんと短髪は話を進めるので、とりあえずいったん話を止めさせてもらう。


「はい! なんすか!?」

「まずそうだな、お前は誰なんだ?」


 聞くと、その小僧はばつが悪そうに咳払いをする。


「おっとすみません、自分とした事がついつい……。改めまして、キアラの弟のコリンと申します! 是非コリンとお呼びください!」

「え、そうなのキアラ?」

「うん、そういえば言った事なかったよね」


 そういえば髪の色もキアラと同じだな……そうか弟かびっくりさせやがって。てっきりどこの馬の骨か知れない彼氏的なやつかと。俺はキアラのお兄様、つまりコリンは俺の弟にもなるというわけだ。こんな目をキラキラさせて可愛い奴め!


「そうかそうか、コリンか。うん、改めて俺がキアラのおに……お友達のアキヒサだ。よろしく」

「はい! よろしくっす!!」

「ほう、キアラの弟か」


 先ほどまで地面に突っ伏していたアルドだが、急に立ち上がると見定めるようにコリンの顔を見る。


「アルド先輩っすよね、チーッス……」


 うわぁ、万人が分かるくらい温度差があるぞー? あれだな、お兄様は俺一人で十分って事だな。可愛い奴だなほんと!

 当のアルドの様子はいかがなものかと思ってみると、やはり涙をボロボロ流していた。


「先輩と……僕の事を先輩と……」


 こいつ感動でむせび泣いてたのか……おめでたい奴だな。まぁそれがこいつのいい所でもあるんだろう。

 ふと俺の目には侮蔑に似た眼差しでアルドを見ているアリシアの姿が映った。南無。


「改めて、弟のコリンだよっ。来年編入者枠でここに来る予定だから顔出しさせとこうと思ってね」

「はい! 皆さん来年はよろしくっす!」


 口々に皆が挨拶すると、しばらくコリンを中心としてわいわいと騒いだ。良き後輩かな。

 

 その後、午後に第二予選が開かれた。案の定というべきか、キアラもミアも本戦出場を決定させたようだ。

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