第四十一話 光る眼
時間になったので集合場所に着くとアリシアたちも同じタイミングでここに来ていた。
「お、丁度だね。アキもティミーもデート楽しんだ?」
開口一番これである。そういう言葉言うとティミーがまた変な世界に行っちゃうからやめろよキアラ……。
「アキとデート? デート? デート……デート……」
ティミーの様子を確認してみると、案の定、頬を赤らめながら顔を伏せている。
ほら見ろ、前に許嫁とかいうワードに過剰反応した時と同じ感じになっちゃったじゃないか。ティミーは年頃でそういうのに憧れて過剰反応する傾向があるんだからそういう言葉は慎んでほしい。
「何がデートだよ。ほら、起きろティミー!」
そう言って俺はティミーの目の前で思い切り両手同士を叩いてみる。
「はうっ!? ア、アキ? 起きてるよ? あれ?」
どうやら成功したらしい。ティミーはあたふたとしながらもしっかりと我に返ったようだ。
「まったく、そういう事言ったら発作起きるからこれからは自重してくれキアラ」
「ハーイ」
気の無い返事だな、ほんとに自重してくれるんだろうな?
それはさておき、アリシアにはお礼言ってかないと。
「ありがとうアリシア、キアラの面倒大変だっただろ? お疲れ」
「え、あぁ、いえ」
アリシアは少し俯きがちにそう言う。かなり大変だったんだろうなぁ……。
「楽しかったね!」
「そうですね」
キアラがそう言うのに笑顔で返したアリシアだが俺は見てしまった、その手に握られた若干光を帯びて今にも何か出そうな気配のある杖を……。
「とにかくあれだな、とりあえず飯にしよう」
「えー、お腹一杯」
「だから言いましたよねキアラさん?」
とびきりの笑顔には見て分かるほど殺気を感じることができるほどで、流石のキアラもそれに気づいたらしくひどく狼狽した様子で取り繕おうとする。
「じょ、冗談だって、ね? ほ、ほんとだよ? さ、さぁ、お昼ご飯食べに行こ!」
「はぁ、まぁいいです」
なんだかんだで許しちゃうアリシア優しい!
「お昼ごはんならあの店とかどうかな?」
ティミーが指さしたのは確かに飲食店のようだが出入りしている客ががたいのいい人たちばかりなのでこのメンツで入るのは少しはばかられる。そもそも入れるのかも疑問符だ。
まぁ一応確認はしてみよう。
「なんか子供だけで入れるか分からないし、ちょっと様子見てくるわ」
「うん、分かった」
ティミーたちを背にその店の前まで行くと、中から怒号が聞こえてきた。
「テメェ金払わねえか!!」
若干びびって店の前で立ち尽くしていると勢いよく扉が開け放たれ、中からフードで顔が覆われた人が俺に激突。お互い地面にしりもちをつく結果となった。
「ナイスだ坊主! 観念しろ」
後から出てきたがたいの良い恐らく店主と思われる人がそのフードの人の胸ぐらを荒々しくつかみ立たせる。
「てめぇうちの店で食い逃げとはどういう神経してん……あ?」
今にも殴りかかりそうな様子でそのフードの人に向かって話していた店長だが、どういうわけか最後まで言いきらず力強く胸ぐらを握っていたその手を緩める。
「あの、何を仰ってるの分からないんすけど。人違いでは?」
「あ、あぁ、すまねぇ」
このフードの人は男らしい。声は成熟した男性の声ほど低いわけではなくまだ青さが残っているが、もちろん女の高さではない。声質だけで考えれば年齢は十六、七くらいだろうか。
店主は完全に手を離すと、悪態をついて店の中に戻っていった。
でもどういうことだ、勢いよく飛び出してきたし明らかにこのフード男が食い逃げ犯だと思うんだが何故店主は見逃すような真似をした?
「やれやれっと」
一言フードの男は呟くと、そのままメインストリートの脇の裏路地へと入ろうとする。
「おい」
ぶつかっといて詫びの一つも無しとは上等じゃねぇか。
呼びかけるがそのまま裏路地に入っていくので急いで後を追いかけると、ちゃんとその男は歩いていた。幽霊だったとかそういう事ではないらしい。
「待てよ」
今度はきっちりと聞こえるように大きめの声で呼びかけると、そのフード男は足を止めこちらを振り返る。
「なんか俺に用か?」
「用も何も、まずぶつかっといて謝らないとは礼儀がなってないんじゃないのか?」
「ああ、そりゃ悪かったよ。でもさ、お前も礼儀なってないよな? 俺、年上なんだけど?」
「それはすみませんね、先輩とでも呼べばいいですか?」
「分かってんじゃねぇか。まぁいいや、これでお互い様だよな? バイバイ」
そう言ってフード男は立ち去ろうとする。
だが用はまだ全部片付いていない。と言っても教えてくれるか分からないが。
「食い逃げ犯の先輩がどうやってあの店主を説得したんですかね?」
疑問をぶつけると、再度俺に向き直ったフード男は口元に笑みを浮かべる。
「教えてほしいか?」
「是非お願いしたいですね」
言うと、ゆっくり歩いて俺の元へ近づいてくるフード男。最悪の事態を想定しつつも俺は目を離さずただ一点にそいつを見据える。
ちょっと後悔だな。ここ学院じゃないから加護無いんだよな……。とは言えここまでしといて逃げ出すのもなぁ。
「こういう事だ」
俺のすぐそばまで来たそいつはそう言って少しフードを上げると、鋭い眼光でで俺を射抜く。
だがその眼はただの眼ではなく、青白い光を放っていた。
「ってあれ? どちら様ですか?」
気づくとその男はおらず、代わりにさっきのとは別の男が俺をじっと凝視していた。え、ちょっと待ってこの人、もしかしてあっち系の人とかじゃないよね?
「あの、通るんだけどどいてくれない?」
この裏路地は真ん中を歩けばばまともにすれ違う事も出来ないほど狭い。だからこんな状況になっているらしい。今の俺だと相手は年上のようだし、ここは俺が壁際にどけるべきだろう。何はともあれあっち系の人じゃなくてよかった……。
「ありがと」
俺が壁際に避けると、その男は礼を言いそのままメインストリートの方へ歩いて行った。
それにしてもあの食い逃げ犯どこに行きやがったんだ? なんかいつの間にか消えてたけど……もしかしてあれかな、魔法を使ったのかもしれない。テレポートとかでもしたのだろう。俺とした事がまんまと逃げられてしまった……。まぁテレポートを使いこなせるくらいの魔法を扱える相手だ、逆に助かったかもしれない。
「アキ?」
俺を呼ぶ声がしたので振り返ると、キアラがそこに居た。
「どうした?」
「どうした? ってこっちが聞きたいってば……気づいたらここに走っていったんだからさ」
キアラが呆れが混じった感じでそう言う。
「ああ、それか、ちょっと食い逃げ犯を追いかけてな」
「食い逃げ犯?」
「ああ、あの店から出てきたんだよ。まぁ逃げられちゃったけどな」
「食い逃げ犯か……もしかしてさっきのここから出てきた男だったりして」
さっき出てきた、といえばあの人か。残念ながら別人だ。
「違う、たぶんあの食い逃げ犯はテレポートで逃げたと思うからな」
「テレポート? 学院でも習得できる人がいないあの魔法?」
「ああ、正直そんな奴と戦う事にならなくてよかったよ」
「ほんとだよ! ……まったく、つくづくアキヒサさんは無茶しますなぁ、無鉄砲といいますか向こう見ずと言いますか」
キアラは困ったように笑みを浮かべながら茶化してくるキアラ。
というか無鉄砲も向こう見ずも同じ意味なんじゃないですかね?
……とは言えまぁ今回は確かに無茶したかもしれないな、反省反省。まだまだこの世界の事に関して無知な部分も多いのによく考えもせず行動するべきじゃないよな。
「悪かったよ、とりあえず戻るか。あとあの店はやめよう、店主が怖そうだった」
「オッケー!」
その後、高すぎたり未成年禁止だったりであまり入る事ができる飲食店が無かったので、適当に露店で昼飯を済ませると、今度は四人でぶらぶら歩いて時間を過ごすと寮に帰ることにした。
砥石とかも買ってみたし、帰ったらこの農具にされていたと言われる剣を磨いてみるとしよう。まぁ、どうせすぐ折れるんだろうけどな……。
何はともあれ有意義な一日だった。
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