第二十八話 入寮

 ルーメリア学院行の馬車の中。流石に不安になってきたので、ヘレナさんがド田舎感満載の服装では流石に良くないという事であしらってくれた服のえりやらネクタイやらをいじりまわす。


 とは言うものの、寮に入るのが先で入学はもう少し先になるので学校生活の不安ではない。いや確かにそれもあるといえばあるのだが、俺がさっきから気が気でないのは同室の人がどんな人物なのかという点だ。


 俺はいい、相手はどうせ年下の子供だしなんとかなる。でも問題はティミーだ。当然ながら、寮は男子寮、女子寮と別れているだろうから必然的に俺達は離れ離れにならなきゃならない。もしティミーの同室が性格の悪い子だったらどうしようと思うと非常に心配で心配で……。


「どうしたのアキ?」

 

 動揺が悟られたらしい、ティミーがそんな事を言うのでてきとうな話を振る。


「い、いやなんでもない。……それよりお前、ヘレナさんと別れる時泣かなかったな。てっきりわんわん泣きわめくと思ってたんだけど」

「む、私だって大人になったんだよ?」


 少しおちょくってやると、可愛らしくふくれっ面を作るティミーだが不意に表情を緩める。


「でも、アキが一緒だからね」


 満面の笑みを向けてくるティミー。またそんな事言って!


「おっそうだ、ば、馬車も遅くなってきたし、もうすぐ着くんじゃないのか?」


 唐突にティミーがあんなことを言い出したので思わず挙動不審になってしまう。

 ほんとその笑顔は反則だからね? まったく、そんな芸当なんてどこで覚えてきたんだよ。お父さんは将来お前が悪女にならないか心配になってきました。

 とは言えティミーもまだまだちんちくちんではあるが、背も伸びたし、やっぱり大人になっていくんだな人間って。

 

「ルーメリア学院に到着でーす」


 感慨にふけっていると、馬車を運転していたおじさんの声が聞こえてきた。

 どうやらついたらしい。


「降りるか」

「うん」

 

 馬車を降りると、そばには綺麗なレンガ造りの校門があった。その前には鎧を着た人達が二人、無表情で立っている。恐らく警備兵といったところか。かなり訓練されてるだろうなこの人ら……オーラすごいもん。


「とりあえず行くか」

「う、うん」

 

 門に近づくと左右に控えていた警備兵らが目の前に立ちふさがる。


「学生証をお見せください」


 学生証……恐らくあの手帳の事だろう。警備兵の一人が言うので俺はポケットに入れてあった手帳を取り出す。ティミーもそれにならい手帳を見せた。


「魔力照合をしますので少し失礼します」


 そう言うと警備兵は肩に手をかけてきた。


「魔力照合確認。そっちはどうだ?」


 手をかざしてきた警備兵がもう一人の警備兵に話しかけると、無言でその人も頷いた。俺と同じことをされたのかティミーはすっかりおどおどした様子で警備兵を見ている。

 その様子に自然と口元が緩むのを感じていると、今まで無表情だった警備兵がおもむろに微笑みだした。


「ようこそ、ルーメリア学院へ。あそこの本館を右に曲がると図書館や他の寮が見えますが、それは無視してまっすぐお進みください。そうすれば建物があるのでそこが寮になります」


 おお、見かけによらず親切で感動! 好印象だよ君、きっと将来は出世するだろう。他の寮っていうのはたぶん学年ごとにでも分かれてるんだろう。


「よし、行くか」

「そ、そうだね」


 ティミーといえば若干緊張したおも持ちながら、微妙に口角が上がっている。

 けっこうワクワクしてるのかな? まぁ俺もだけど。


♢ ♢ ♢


 歩くこと二十分程度、洋館っぽい建物を見つけた。恐らく警備兵が言ってたものだろう。ここまで来る途中何人かすれ違ったが、全員同じような服装の事からあれは制服でこの学校の先輩のようだ。ちらちらとこちらを見てきたが制服じゃないから違和感あったのかもしれない。


 でもけっこう広いよなこの学校。俺の世界じゃ確実に私立大学レベル以上の敷地面積だと思う。流石は名門。あるいは案外この世界じゃ当たり前だったりするのかな。


「ここだよね」


 やや距離を歩いたので疲れていると、ティミーが確認するように俺の顔を覗き込んできた。

 それ以上進む先は無いので確かにそうなんだろうけど……普通男子寮と女子寮わかれてるもんじゃないのかな。まぁ寮生活ってしたことないけどそう言うこともあるんだろう。


「おや」


 声がかかったので振り向くと、少し太り気味だが快活そうなおばさんが後ろにいた。きっと学院関係者だろうから一応確認しておこう。


「えっと、この建物が寮なんですよね?」

「ああそうさ。お前たちはこの学院に編入する子たちだね」

「はいそうです」


 そのおばさんは俺達に「付いてきな」とうながすのでとりあえず付いていくことにする。

 ちなみに俺達は編入扱いらしい。この学院は本来は六歳から入るという。


「少し待ってな」


 寮の中に入るとおばさんはロビーで俺達を待たせ、間もなくして分厚い本を抱えて戻ってきた。


「さて、お前たちの名前を聞こうか」

「えと、アキヒサとティミーです」


 ティミーといえばさっきからかなり緊張しているらしく、とても答える余裕がなさそうなので代わりに答えてやる。


「えっと……あったあった。ディーベス村からだね」

「はい」


 バシリとその本を閉じるとおばさんはそばにあった長椅子にそれを投げ出しニッと笑った。


「私がこの寮の寮母エミリー・ワードだ。我が寮へようこそ、歓迎するよ」

「えと、よろしくお願いします」

「あ……よ、よろしくお願いしまふ!」


 あらティミーちゃんったら噛んじゃって……。まぁともあれ、とりあえず寮には入れたらしい。


「ティミーは102号室、アキヒサは201号室だ。荷物とか制服も部屋にあるからねぇ」


 そう言いながらワードさんはどこかへと去っていってしまった。

 ふと隣の方を見ると、ティミーが涙をぽろぽろと流していた。


「おま、どうしたんだよ!?」

「アキと一緒じゃない……」

「いやそりゃまぁそうだろうよ!? ほら泣くなって、同じ寮だしすぐに会えるから」


 必死でなだめ、今持ってる手荷物を置いたらすぐにここに戻るという事でなんとか落ち着いてくれた。

 寮内で男女分けはされてるようで、お互い違う方向にある部屋へ向かった。

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