第二話 衝撃の事実
いい匂いがする。何かの料理だろうか?
目を開け上半身を起こし、辺りを見回すと、女性が暖炉の前で何やら作業をしていた。どうやら匂いの元はそこらしい。
「あ、よかった目が覚めて!」
その女性はこちらに気づくと、俺のそばへすり寄ってきた。ゆるい三つ編みにまとめられた琥珀色の髪、張りのある肌からは若さを感じさせられる。
「昨日は本当にありがとうね。ティミーを魔物から救ってくれたって。なんだかすごい炎をだして蹴散らしてくれたとか」
魔物? あぁ、あの二本角の。正直実感は無いけどやっぱりあれは俺が出したのか……。まぁそれは置いといて、この人は誰だ? 髪色とかもそうだし、どことなくティミーと似ているし、お姉さんかな?
「いえいえ。ところですみません、あの、ティミーのお姉さんですか?」
疑問を投げかけると、その女性は少し驚いた表情を見せ、クスリとおかしそうに笑った。
「うれしい事いってくれるわね、私はティミーの母親よ?」
「冗談でしょ!?」
思わずすっとんきょうな声をあげてしまった。とその時、何やら自分の声に違和感を感じる。しかし次のティミーのお母さんの衝撃発言ですぐその違和感はかき消された。
「三十も超えたおばさんよ?」
「なんと……」
嘘だろ、三十路ってこんなんじゃないよな? 少なくとも俺の記憶では三十を超えたらどんなにきれいな人でも小じわが見え隠れするものだ。しかしこの女性にはそんなものが一切ないのだ。二次元の世界でもあるまいのにこんな事もあるらしい。
「でも大丈夫? あなた、丸一日寝てたのよ? なんならまだ寝ておいてもいいけど」
そんなにも寝てたのか。でもまぁ確かにひどく疲れたからなあの後。慣れない目に遭ったと思ったら炎出してたらしいし。こんな体験、俺の世界では俺しか味わった事も味わう事もないだろうな。
「おかげさまですっかりよくなったみたいです」
ブンブン手を回してみせ、回復した事をアピールする。それが可笑しかったのか、ティミーのお母さんは優しく微笑む。
「ふふっ、それはよかったわ。ちょうど夕飯ができるところだったのよ。ちょっと待っててね、ティミーを呼んでくるから」
「あ、俺が呼んで来ましょうか?」
「それもそうね、ティミーあなたの事を気にしてたし。表にいると思うからお願いしてもいいかな?」
「はい」
完全に起き上がり軽くお辞儀をすると、外へ出るドアの方へと行く。
「よくできた子なのね」
去り際、ティミーのお母さんは何やらつぶやいたが、あまり気にしなかった。
そういやドアノブってこんな高かったっけ?
外に出ると、ほとんど夜とも変わらない空が広がっていた。ちらほらとだが、明りのついた一部屋くらいしかなさそうな小さな家も何軒か確認することができた。それは改めてここは異世界だと語り掛けてくるようだ。
ぐるりと辺りを見回してみるとずきんをとったティミーが、近くで何やらしゃがんで見ていた。
「頑張って生きてねお花さん。……はぁ、私がもっと治癒魔術を使えたらアキも今頃元気だったのかなぁ」
「ティミー?」
「ひゃっ」
ティミーは例のごとく肩をピクリとさせると、軽くしりもちをついた。
何これどこの小動物?
「ご飯ができたらしいから……」
「アキ!」
こちらを見るやいなや、なんとティミーは俺に抱き付いてきた。うわぁ可愛い……すっごくよしよししたい! でもそんな事したら社会的立場が終わりそう……いや待て、異世界だからさほど気にする事でもないかもしれない。だったら少しくらい……。
「……ってあれ?」
撫でようとその頭に手をのけようと考えた時また妙な違和感を感じた。
なんかおかしいぞ? 普通これくらいの歳の女の子に抱き付かれればおのずとつむじなり見えるはずだが今はそれが見えない。おかしいな? 同年代女の子に抱き付かれたみたいになってるぞー? あっれれー? いやそもそも同年代の子に抱き付かれた事ないんだけどね!
「あ、ごめん……」
ティミーは俺の身体を離すと、少し顔を俯かせ頬をほんのり赤く染める。うわぁ可愛い……。
「あ、いやあ、うん。大丈夫。と、ところでさ、俺って歳いくつだと思う?」
いきなりなんの脈絡もなくそんな事を訊いたからか、ティミーは少し不思議な表情をしつつもその質問に答えてくれた。
「私と同い年の十歳くらい、かな……」
遠慮しがちならがも鋭く放たれた言葉に驚愕すると同時に、感じた違和感の正体に気付き始めた。
ふと、そばにあった水たまりに映った自分の顔を、家から漏れ出す明かりのおかげでかろうじで捉えると、それはもう確信へと変わった。
俺、小学生くらいに若返ってる……。
普通声とかその他もろもろが色々違うし気づくだろとか思うかもしれないが全然そんなことはない。若返ったとはいえこれは紛う事なきかつての自分であり、ほとんど違和感を感じないのだ。見た目は子供、頭脳は大人、その名は、変態帝明久! いや別に変態じゃないし紳士だし!
「あ……も、もしかしてお兄さんでしたか!? ご、ごめんなさい……」
「え? い、いや違うよ。大丈夫。うん、同い年だよ。改めてよろしくね!」
「よ、よろしく……」
頬を赤らめ、髪の毛を触りながら尻すぼみ気味にティミーは言った。
しかし本当に同い年なのかねぇ? 正直なんとも言えないがまぁどちらにせよ九歳でも十一歳でも身体はさほど変わるまい、どれにせよ精神年齢は同じなんだし……。
「ふーぅ」
ほっとしたのかティミーは深く息をつくと、表情を和らげ笑みをたたえる。俺もそれを見て少し笑みがこぼれる。
「でも、よかった二人とも助かって……」
「あぁ……俺もあの時はどうなる事かとヒヤヒヤしたよ」
お互い顔を見合わせると、安堵からか自然と笑い声がこぼれた。
いやしかし、いろいろと起こりすぎだろ。知らない可愛い少女に出会ったり、魔物と遭遇して死にかけたり、それを俺が撃破したり。
これはチャンスなのだと思う。誰が与えてくれたのか分からないが、今度は元の世界のように挫折などしない。このまたとない機会、絶対にむげにはしない。そう、絶対に。
俺はここで人生をやり直すことにした。
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