吹雪の山荘にて

カラガシン

吹雪の山荘にて

 物好きな男の話



 死の予感がし始めたとき、僕はそれを見つけた。ここに至るまでの経緯はよく覚えていないが、数時間前までは確かに登山道の入り口にいたはずだ。


 「まさかこんな偶然があるなんてな……」


 僕は登山を趣味とする物好きな人間で、普段は色々な家に行って物を売っている。今日は張り切って初めて挑戦するような高さの山に登った。……はいいが、登って早々、頂上も見えない内に吹雪に見舞われてしまった。しかし、白く染まった視界の奥に、確かに家のような影が見えた。

 足を踏ん張って近づくと、赤く染まったレンガの屋根が映える、石造りの小屋があった。小屋といっても中々大きく、6人くらいなら楽に生活できそうだった。

 明かりが点いていたので、誰かが先に入っているのだろう。一応3回ノックをしてから扉に手をかけた。3回のノックは別の意味もあった気がするが、そんなことはこの際どうでもいい。

 木製の扉はやけに重く、疲弊した体には堪えた。



 しかし開けてみると誰もおらず、立派な暖炉が赤々と燃えているだけだった。

 おかしいと思いながらも、とりあえず雪に打たれて冷え切った体を温めた。薪は十分にあったので、遠慮なくくべた。

 ひと段落着いてから、小屋の中にあったものを物色した。吹雪がやむ様子はないから、しばらくここにいさせてもらうとしよう。こんな状況では人がいてもお互い様だ。

 小屋の中でまず目に入ったのが、中央の暖炉の左側にでかでかと置かれた悪趣味なツボだ。

 エジプト神話の壁画に出てきそうな能面のように表情のない顔と、不思議な文様が描かれてあった。しかも二つある。一方はもう一方よりも顔の皴が多く、一層不気味さを増していた。

 小屋には本棚もあったので本を読んで時間をつぶそう。そう思って適当に一冊取った。その本はまるで新品のような革のつやがあり、紙には全く読まれた形跡がなかった。

 引っかかるものがあったが、僕は気にしなかった。その本は中々に面白く、つい時間を忘れて読みふけってしまった。

 しかし一向に吹雪がやむ気配はなかった。持っていた懐中時計を見ると、時刻は夜の6時を回っていた。この懐中時計は昔くたびれた骨董品屋で買った所々に黒い石が埋め込まれたいい品だった。これを人に見せると揃いも揃って訝し気な目をするが、それが僕がいかに物好きかを表しているのだろう。

 6時を過ぎたとなるとおそらく今日はここの宿に泊まることになるだろう。僕は布団代わりになりそうなものを探したが、なかったので諦めて椅子で寝ることにした。椅子で寝るのなんて初めてのことだったから、眠れるか心配だった。




 物音で目が覚めた。体を起こすと節々が痛む。見ると、小屋の中に一人の老人がいた。老人は何をするわけでもなく、ただ暖炉の炎を眺めていた。


 「かなり降りますね。ここの管理人さんですか?」


 「いや、多分お前さんと同じだ。吹雪に遭っちまった」


 かなりしわがれた声だった。見かけはまだせいぜい70歳といったところだろうが、その声は今にも息絶えそうだ。


 「それにしても、この吹雪はまだやまないんですかね。僕は昨日からここにいますよ。」


 「そうかい…。それなら腹が減っただろう。こっちにこい。少しだが、食べ物があるぞ。」


 そう言われたので、老人のほうに近づいてみてみると、確かにそこにはパンのかけらが幾つかあるのと、干し肉がひもで縛られていた。ここら辺では見ないパンだったので、つい聞いてみた。


 「あなたはどこに住んでいるんですか?このパンはこの街に来てから見たことが無いのですが」


 「儂はここのすぐ近くに住んどる。パンなんて、人によって多少の違いはある。そういうお前さんだって儂が一度も見たことがないような恰好をしているが、何だいそりゃあ、変な模様の服だな。」


 「よく言われますよ。でもね、この服の良さが分かる人が一人でもいるからこの服があるんですよ。」


 「まあ、考え方は人それぞれだな」


 老人の呆れたような言い方にムッとしたが、そんなことは散々言われてきているので文句を言いたい気持ちを抑えた。

 それから老人はくたびれた革のリュックから瓶に入ったミルクを温めて出してくれた。温度のあるものを口に入れたのは久しぶりだったので、それはとてもありがたかった。


 「この山に登るのは初めてですか?」


 「いや、ここへは何度も来ているよ。だがこんなに長い吹雪に巻き込まれたのは生まれて初めてだ。もうしばらく続きそうだぞ」


 そうだ、と言って老人が立ち上がった。

 「この小屋にも何回も来てな。気付かなかっただろうが、ここにはもう一つ、別の部屋があるんだよ。」

 そう言って暖炉の左側に顔を向けた。


 「ほら、これだ」


 「えっ?」


 そこには確かに扉があった。

 しかし……そこは元々あの悪趣味なツボが2つ、どっしりと置いてあったはずだ。第一、ここに扉があったのなら気付かないわけがない。

 困惑していると、老人は続けた。


 「だが、わしの力では開けられん。ちょっと、開けてくれないか。まあ中はただの倉庫なんだが」


 疑念が湧いてきたが、いったんそれを抑えて、老人の言うとおりにした。扉に気づかないこともあるのだろうか。

 しかしその扉は予想以上に重く、かなりの力が要った。



 開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。扉の先には、ここと全く同じ部屋があった。暖炉の位置から、細かい装飾品まで、全てが完璧に同じだった。

しかし、違うところが少しだけあった。


 ……扉を開いた左奥、つまりあのツボがあったところに、人がいた。


 ………それは紛れもなく自分の後ろ姿だった。




 そして………その後ろに…………あの、皴の多い悪趣味なツボが置いてあった。








 高貴な女たちの話



 ……馬車に乗って長旅をしようとお茶会仲間を誘ったところまでは覚えているのだけれど。

 どうしてこんなことになったのかしら。こんな雪道を召使もつけずに地べたに足をつけて歩くなんて、皇族の片割れの私に似合わない。


 「ねえ、どうして私たちがこんな道を歩かなきゃならない訳?もう30分も歩いているわよ」


 「もう何回その話をしたの。30分なんて大したことじゃないじゃない。貴方そういうせっかちなところ、直したほうがいいわよ。」


 「何ですって?そういう貴方も足が震えているじゃない。お嬢様はこんな道も歩けないのかしら?一体あなたの家はどんな教育をしてきたんでしょうね。」


 「家の話は関係ないでしょ。今の問題はとにかく人を見つけることよ。」


 この二人はいつもこんな調子で言い合いをしているのに、なぜかお茶会をするとことごとく出くわす。いつも溜まりに溜まった鬱憤がこの状況で表に出ているようにも見える。

 そんな感じで騒々しい声を撒き散らしながら、私たちはまともに踏まれていない道を歩き続けた。防寒着を多めに持ってきてたとはいえ、この吹雪はさすがに堪えた。

 しばらく歩いていると、待ちに待った民家の光が見えた。


 「あれ、家から出た光じゃないかしら。きっとそうよ。早く行ってみましょう。」


 皇族と呼ぶには少々下品が過ぎる我の強い下級貴族はそう言って駆け出した。私もそれに続いた。



 「ごめんください。私たち道に迷ってしまって。ここに一晩泊めてもらえませんか。この頃はほら、狼も出るっていいますし。」


 彼女は矢継ぎ早にそう言ったが、扉の向こうから返事はなかった。


 「何よ。貴族の私がこう言ってるのに。報酬は弾むわよ。」


 「うるさいわね。もう寝てるか、いないだけじゃないの。ここでいくら言ったって仕方ないわ。」


 「うるさいとは何よ。大体貴方ね、こんな時間に外に出る人がどこにいるのよ。」


 この二人に任せていても一向に事が進まないので、しょうがなく私が開けた。

 しかし、家の中には誰もおらず、煌々と暖炉の炎が燃えているだけだった。


 「あら、本当に誰もいないの?まあしょうがないわ。遠慮なく使わさせてもらうわね。」


 この家にはとても奇妙なツボが三体、置いてあった。顔と服が描かれているようだ。


 「何よこのツボ。芸術の欠片もないわね。きっとこのツボを作った人は一つも作品は売れなかったでしょうね。」


 「それには私も賛成するわ。貴方に同意見なんて、なんだか水晶にひびが入ったようだけど。」


 「聞こえたわよ」


 「あら、ごめんなさい。貴方の服の着こなしも似たり寄ったりなのも可笑しくて。」


 二人の貶し合いはエスカレートしていく。その声を背にして、私は尽きかけていた薪を黙々とくべる。


 「あ、ごめんなさい。道にスカーフを落としてきたみたい。すぐに戻ってきますから。ごめんなさいね。」


 「貴方、扉はすぐに閉めなさいよ。今やっと暖かくなってきたっていうのに、部屋に吹雪が入ってきたらたまんないわ。」


 「はいはい、分かりました。」


 そう言って、もう片方よりは数段上品な賢い上流貴族は、扉に手をかけた。


 「…どうしたの?行くなら早く行きなさいよ。早く貴方のいない空気を吸いたいのだけれど。」


 「……扉が、開かないの」


 「はあ?貴方、扉一つ開けられないほど力が弱いの?これだから******家の人間は………………あれ、嘘、ちょっと!どうなってるのよ、これ!」


 さすがに私も異常を察知し、扉を開けるのを手伝った。けれども、3人がかりでも扉はびくともしなかった。

 しばらくそうやって扉と戦ってやっと諦めがついたのか、うなだれた格好で扉らを凝視している。その姿があんまりに不憫だったので私は言った。


 「多分、扉の外側に雪が固まってるのよ。朝になれば溶けるわ。最悪、窓からでも出られるのだし。」


 しかしそう言ってもどんよりとした空気が流れたままだった。




 「………ねえ、何か声が聞こえない?」


 急にそう言い出したので、私は耳を澄ませた。すると微かに、男性の声がした。



 「……よく……………すよ………でも……………ふく……よさが…………るから………ふく…………………ですよ……………」



 何と言っているのかはほとんど分からなかったけど、確かに小屋の外から何者かの声がした。


 「もしもし!あの!誰かいるんですか!?」


 口々に叫んだが、声の主は相変わらずぼそぼそと喋るだけだった。

 段々と、3人の間に恐怖感が襲ってきた。この声の主は一体誰?窓から覗こうとも考えたが、吹雪のせいで窓が白く染まっており、それは無理だった。




 かなりの時間が経った。声はまだ聞こえていた。恐怖に耐えられなくなった私たちは暖炉の前で縮こまっていた。全員の体が震えているのが分かる。

 吹雪はまだやんでおらず、風の音がうるさいはずなのに、その声は鮮明に聞こえていた。




 「よく言われますよ。でもね、この服の良さが分かる人が一人でもいるからこの服があるんですよ。」




 ……この言葉を延々と繰り返していた。

 そのうち、下級貴族の娘が叫びながら扉に突っかかっていった。


 「もう!いい加減にしてよ!早くどっか行きなさいよ!!そこにいるんでしょ!!」


 完全にパニック状態に陥っていた彼女を、急いで止めに入った。扉を開けようとしていたので、腕を抑えて、開けないようにした。なぜそうしたのかはわからない。ただ漠然とした恐怖がそうさせただけなのかもしれない。

 しかし、前開けようとした時とは違って、扉は簡単に開いた。急に開け放たれた空間に、吹雪が一気に吹き込んできた。

 あまりに急だったので、思わず目をつぶった。


 扉があいた瞬間に、声はすっと消えた。




 目を開けると、吹雪が吹き荒れる外の地面、開いた扉の前に………ツボがあった。


 ……小屋の中にあったツボに似ていて、下半分に薔薇の模様がびっしりと描かれていた。




 振り返って小屋の中を見ると、そこに2人の姿はなく、…………華やかな模様の、2つのツボが置いてあるだけだった。








 几帳面な探偵の話



 序

 正式に自分の探偵事務所を構えることができた。叔父の事務所で雑務をしていた期間も懐かしく感じられるようになった。仕事が直接自分に入ってきて、それを自分一人で処理する。単純なことだが、それは私にとってこの上ない幸福なのだ。軌道も安定してきたところで、この手帳に日々の調査の成果と日常の風景を書き記そうと思う。これは全く私の自己満足であるが、人生を色褪せたものにしないためにはそういうことも必要である。

                      1***年*月*日 書斎にて




 76

 最近、私の住む地域の近くの+++山で遭難事件が起こった。遭難事件の依頼は苦手である。若いころは沢山の民家を飛び回っていたが、年を重ねてからというもの、そういったことをすると私の体が悲鳴を上げるからだ。最近は、古びた事務所で書類に目を通すだけで疲れるようになっている。年を取るとは悲しいことだ。




 82

 +++山での遭難者が6人まで増えた。しかし、あの山はとても遭難するほど大きな山だろうか?しかも今度の被害者はかの有名な******家の令嬢と、その友人たちらしい。もしかしたら、あの山では何か異常気象が起こっているのかもしれない。それとも、山賊がここに拠点を移したのだろうか。国の統治も進んできたとはいえ、そんな愚者がいないとも限らない。今度からあの山の近くを通り過ぎるときは護身用の銃を持っていくとしよう。




 83

 ******家の現当主から正式に捜索の依頼が来た。恐らく、この街で探偵と言ったら私しかいないからだろう。それにしても、こんな老いぼれに頼まなくても良いのではないか。一応義理として依頼は受けたが、それはあくまで報酬目当てであって、到底見つけられるとは思わない。受けてしまったものは仕方がないので、万全の準備を整えてから出発しよう。




 84

 行こう行こうと言ってから5日が経ってしまったが、いよいよ明日出発だ。その間にあの山について詳しく調べたが、目立った点は見当たらなかった。明日の調査で成果が出なかったら、潔く****侯に報告しよう。報酬はほとんど出ないだろうが、金のかかる趣味などないので、特に問題はないだろう。




 

 ……なぜ自分がここにいるのか分からない。私の最後の記憶は馬を借りに行った気立てのいい店の店主の顔で止まっている。私ももう歳とはいえ、ここまで記憶力は落ちていない。

 記憶が一部欠けていることよりも奇妙な点がある。この雪山で気が付いた時に何の迷いもなく雪道を進もうとし、そしてその先に休憩できる小屋があると信じて疑わなかったことだ。事実、この手帳に気が付かなければそのまま進み続けたであろう。私はそのことに危機感を覚え、この手帳に、自分の身に何が起こったかを記していく。これは自分の為ではなく、この奇妙な現象の存在を後世に遺すためなのである……




 私が予想した通り、道の先には小屋があった。場所の特定の為に特徴を述べておくと、壁は少しの木材と石でできており、屋根は赤いレンガ。長い雪道にポツンと1軒だけ建っている。失踪した6人はこの小屋に居たのだろうか。調査の為には入るべきだろうが、小屋に明かりが点いている割には人の気配がせず、不気味な雰囲気を醸し出している。ここはいったん落ち着いて、小屋の外から様子を窺うとしよう。

 吹雪は一向にやむ気配がない。




 考えた末、この小屋は無視して道を真っすぐ進むことに決めた。恐らく失踪した6人はこの小屋に入った後何かがあったのだろう。私にもこんな奇妙な現象が起こっているのだから、何か想像もできないようなものがあの小屋の中にあってもおかしくない。吹雪はかなり強まっているが、きっちりと準備をしてきたお陰で何とか進むことができている。何とか吹雪だけでも抜けられないだろうか…




 ……おかしなことが起こっている。いや、もう充分おかしいのだが、こんな風にいざ目の前にしてみると凄まじい恐怖が襲ってくる。色々な体験をしてきたが、ここまで足が震えたことはない。

 ……さっき通ったはずの小屋がまた現れた。間違いない。完全に同じだ。この手帳に書いた以上に特徴を覚えているが、どこを取っても寸分のずれも無い。

 これは……もはや元の世界に戻ることすらできないのだろうか。いや、まだ同じだと決まったわけじゃない。誰かが趣味で―――――かなり悪趣味だが―――――全く同じ家を建てて芸術としているのかもしれないし、私の記憶が違っているのかもしれない。人はこういった緊迫した状況に置かれると、記憶など簡単に作り替えられてしまうものなのだ。事実、私はこの雪道に至るまでの記憶を一切合切失ってしまっているじゃないか。そうだ。きっと何かの思い違いなのだ。さっきはそのまま前に進んだが、今度は少し危険だが道の横に延々と続いている針葉樹の森に入ってみよう。今度こそ、雪道以外の景色を見れるはずだ。




 私は何を考えていたんだ。夜の森に入るのが‘‘少し危険だが‘‘だと?1年でいったい何人が森に入って行方不明になっていると思ってる。もうどの方角を見ても同じ木しか見えないようなことになっている。今からでも引き返すべきだろうか……

 吹雪はまだやまない。木々には限界まで雪が付いている。万全の準備をしてきたとはいえ、もう進み続けるのが難しくなってきた。もうとっくに日は落ちているはずだが、いくら私でも雪山で眠るのが死に繋がることぐらいは知っている。日が昇るまで待って、吹雪がやんでから進もう。




 凍えている。この手帳を読むことだけが私の気分を落ち着かせる。もしもの時のために、今この瞬間までに分かっていることををできるだけ書き残そうと思う。まず、この雪道に入ってから1度も生物を見ていない。これほど広い森なら、鹿や熊がいるはずだ。次に、生えている木はここに来るまで同じ種類の木しか生えていない。草も石もないから、つまりまったく同じ景色を延々と見てきたわけだ。常人なら精神に異常をきたしてもおかしくないだろう。しかし私はとうに死ぬ覚悟ができているから、そんなことにはならなかった。おかしいことはまだある。これが最後なのだが、一番信じがたいことだ。

 雪の深さが少しも深くなっていないのだ。これほど吹雪いているのだから、1時間もすれば膝の高さくらいには積もるはずだ。しかし雪はいまだに私のブーツが半分ほど埋まるくらいの高さで止まっている。


 眠気がしてきた。だが眠ってはいけない。

眠らないように。眠らないように。











 おかしい。もうすう時間たったはずだ。なのに日が昇るどころか、吹雪が弱まっ


てすらいない。まさかこの空かんには、時かんのがい念がないのだろうか。もう私


の体力も限界だ。ペンのインクが固まり始めている。今ここに文字をかくのも一苦


労だ。だが私はこう世にのこさなければならない。




 この きみ ょうな げ んしょ うを 。





 わ た し の 死 を 。










 散歩好きな青年の話



 ……手帳にはここまで書かれてあった。この手帳は、俺が小山を散歩していたときに見つけた、明らかに不自然なツボの中に入っていたものだ。このツボが何なのかわかるかと思ったが、どうやらそんなことはないらしい。それにしても不気味なツボだ。その手のマニアに売れば高く付くんじゃないだろうか。

 手帳の背面に描かれていたので分かったが、この手帳は*****氏のものらしい。*****氏といえばここらで名を轟かせている名探偵じゃないか。最近は姿を見なくなったけど。なんにせよ、あの几帳面で有名な*****氏がこんなところに手帳を落とすはずがない。きっと何かのいたずらだろう。*****氏に対してこんなふざけた真似をするとは性根の腐ったやつもいるものだ。しかもいたずらの完成度が低い。文章や筆跡の細かさは評価するけど、書いていることはめちゃくちゃだ。そんなことが現実に起こるはずがない。






 …………第一…………+++山には………………山小屋なんてないし………………



 ……雪が降ったことなど、一度もない。

 

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