34話 巨大ロボット

「ガウル! 僕の仲間達を連れてきた! 挨拶して」


 僕がそう叫ぶと、キーンとベルのような音がしてその大きな卵のようなものは光った。


「おおっ!? なんだ」


 後ろでヴィオの素っ頓狂な声がする。


「安心して、僕達に危害は加えないよ」

「お、おう……」

「あっ、見て兄さん。動いたよ!」


 カラが指差す先を見てヴィオは固まった。


「なんだありゃあ……。あれは手か?」


 卵型だったそれはギリギリと音を立てて人型に変形した。


「彼はガウル。マリーと同じからくり人形だ」

「へぇ……ずいぶんごっついね、アレン」

「うん。マリー達とは役割が違うからね」


 すると、ガウルがその大きな体に似合わないスマートさで、カラの前に跪いた。


「お嬢様、私はこの居住棟の管理・保全・警備を担当する人型ロボットです。困った時はいつでもお呼びください」

「うん! すごいねアレン」

「ああ。彼にはこの建物の周りに庭園を造って貰う。それから……」


 僕は手を叩いた。


「みんな、こちらに!」

「「「はい」」」


 カゴンガコンと音を立て、やってきたのは三体のガウルの複製。


「わぁ、複製したんだね。でもこんなに作ってどうする気?」

「彼らには海岸に港を作って貰う」

「港……」

「うん。そうすればグェンの船が直接島に停留することができる」


 そうしたら大型の船も、気軽にこの島に遊びにくることができる。

 リゾート地として利益を上げるなら、最低限欲しいものだ。

 本土の物品も運び入れやすくなるしね。


「そうかー……この島にお客さんがくるのか……」

「カラ達集落の人にはおもてなしをしてもらいたいんだけど」

「うん、もちろん! 心をこめておもてなしさせてもらうよ」


 カラは心良く快諾してくれた。

 ずっと人の訪れることのない閉じられた生活をしていた割に、彼らがフレンドリーなのはやはり村に伝わるあの伝承が影響しているんだと思う。

 彼らについてちょっと気になっていることがあるんだった。


「ああ、そうだ。カラ、村長さんに会いに行きたいんだけどいいかな」

「いいよ。アレンならいつだって大歓迎だよ!」

「良かった」


 僕は遺跡の案内をそこまでにして、カラとヴィオと一緒に集落に向かった。




「どうしたんじゃ、急に」

「遺跡の中から興味深いものが出てきたので、村長に話しを聞きたいと思って」


 そう言って僕はバッグから革張りの手帳を穫りだした。

 これは遺跡の中から出てきたものを僕が修復したのだった。


「あの遺跡に住んでいた人の日記です」

「ほうほう、それはそれは。でもわしらは文字がないもんでの」

「知ってます。でも、ここにこの集落のことらしきものが載ってるのです」


 村長の細い目が僅かに開かれた。


「ほおお……それは」

「読んでもいいですか?」

「ああ、聞かせとくれ」


 僕は日記を読み始めた。

 あの建物に住んでいたのは本土……これはルベルニアのある大陸のことだと思う。

 そこで起きた戦乱から逃げてきた人達だったらしい。


「食料を巡って何度も争いが起きたそうです。その中から、あの建物を捨てて森で生活する人達が出てきたとか」


 日記の最後は一人になった自分を嘆きながら、森に消えて行った人たちが無事かどうかを心配していた。


「……それがわしらだと」

「ええ」

「だとしたらわしらは良い選択をしたのだな」

「……そうですね」


 村長の迷いのない言葉に僕はほっとした。


「島の恵みを戴きながら、わしらは平和に豊かに生きている。その文字を書いた者もそんな暮らしを求めてここにきたんじゃろうて」

「ええ、きっとそうです」


 僕はその日記を村長に預けた。読めはしないけれど、元々は同じ国の人だし。

 それにしても……平和を求めてきた人達の子孫の彼らには継続して平和に生きて貰いたい。

 僕らの存在がその妨げになるようなことのないようにしなきゃ。


「僕、領主として頑張りますね」

「ああ、ああ。頼みますよ」


 村長さんに笑顔で見送られながら、僕は灯台の拠点へと戻った。


 それからの日々は忙しかった。

 出来上がった山の中腹の館に家具や生活用品を入れて泊まれるようにしたり、ガウルの複製で港作りや、井戸を作ろうとしたり。


「……アレン様」

「……セドリック」


 僕達は呆然としながら見つめ合っている。

 なんで呆然としてるかというと……。井戸を掘ってたら急に温かいお湯が沸き出してきたんだ。


「そういえば、この島の山は火山だったね」

「ええ……ってことは……」

「「温泉だーーーー!!」」


 遺跡ホテルの給水塔に水を入れるつもりで掘ったところは、図らずも温泉になってしまった。


「はーあ……いい気持ち……」

「最高ですね」


 僕とセドリックは頭からザブンザブンと豊かなお湯を浴びながらしばらくうっとりとしていた。

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