第二章

24話 筏で島を探索

「どっせーいっ!!」


 ザブンと筏が揺れる。

 今日はとうとう交易品を優先して伸ばし伸ばしになっていた島の周遊をするのだ。


「そらは快晴、風は凪ぎ! いい日ですね」


 セドリックがあたりを見渡しながらそう言う。

 本当はそこそこ風があった方がいいんだろうけど、彼の風のスキルがあればなんの問題もない。


「カラ、準備はいい?」

「うんバッチリだよ」


 ラリサは食事の用意があるのでお留守番だ。ヴィオも当然のようにここに残ると言った。

 お前な……。


「おい、ヴィオ! ラリサになにかあったらタダじゃすまんからな」

「あったりまえだ。ラリサさんは俺が守る!」

「お前が一番心配なんだよ」

「なんだと!」


 俺とヴィオの間に火花が散る。


「ちょっと二人とも! 喧嘩しないで!」


 カラがそんな俺達を引きはがす。


「アレン、行こう。グズグズしていたら日が暮れる」

「ああ」


 俺はズボンをたくし上げて海に入った。


「では出航です!」


 セドリックはそう宣言をして帆に風を当てた。すーっと漕ぎもしないのに筏が進んで行く。


「出発!」


 こうして僕とカラ、そしてセドリックは海に出た。


「本当に綺麗な海だよね」


 僕は足元に広がるエメラルドグリーンの海を見てそう言った。


「この辺はずーっと珊瑚礁だよ」

「へぇ」


 筏はやはり速い。あっという間に僕達が探索した平地が見えるところまでたどり着いた。


「もう少し進みます」


 筏はそうしてひょうたん型の島のくびれ部分にたどり着いた。


「降りて見ましょう」


 セドリックの言葉に従って、筏を岸に引っ張り上げる。そして岩に結びつけると、僕達は散策をはじめた。


「カラはここまで来たことある?」

「何回かしかないな。ほら、そこの赤い実。滋養にいいって病人のために取りにきた。美味しいよ」

「へえ、じゃあ少し貰おう」


 僕は試しにその実を食べてみた。木イチゴみたいに甘くてそれ以上に酸っぱい。


「くう……」

「砂糖と煮るといい」

「そうだね。ラリサにジャムにしてもらおう」


 小さめの籠一杯にそれを取って、筏のところに置いておく。


「さあ、もっと奥に言ってみましょう」

「そうだねセドリック」


 僕達はジャングルの中に入っていった。


「あっ……!」


 そしてその光景に驚いた。そこには海に半分沈んだ洞窟があって、上の方から滝が流れている。


「綺麗だ……」

「アレン様、まるで絵画のようではないですか」


 僕もセドリックも、その神秘的な風景にしばらく息を飲んで見入っていた。


「カラ、ここはなんていうの?」

「いや……ただ西の滝とだけ」

「それはもったいない! そうだな……」


 僕がなにかぴったりな名前がないか考えはじめると、慌ててセドリックが口を開いた。


「光彩の滝、なんてどうですかね!」

「うん、いいんじゃないか?」


 では西の滝あらため光彩の滝、よろしく! いずれセントベル島がリゾート地になったらここはいい観光スポットになりそうだ。


「では、そろそろ移動しましょうか」

「うん!」


 こうして僕達は再び筏に乗った。海岸線沿いに北西へ。


「森ばっかりですね」

「そうだなぁ」


 そのままくるりと逆サイドに向かった。


「降りて調べてみようか」

「そうだな、アレン」


 カラもこの森には来た事がないという。筏を泊めて、僕達はジャングルに入った。


「すごい木だ」


 カラ達の居る山も木ばっかりといえばそうなんだけど、生活のためや通り道に木を切ったりしている。

 ここは本当に人の入らない山みたいで獣道を辿っていくしかない。


「痛……」

「大丈夫か、アレン」

「うん、岩に引っかけてしまった」


 僕は自分に修復を行った。ここはゴツゴツとした岩と木ばっかりだ。

 はずれだったかな。


「お昼休憩にしましょうか」


 少し開けたところにたどり着いて、セドリックがそう言いながら僕たちを振り返った。


「そうだね」


 枯れ木を集めて、さっそく火を熾す。

 持って来た小さな鍋に茶葉を入れてお茶を淹れた。

 それとビスケットとバナナを昼食に食べる。


「アレン達の飲んでいるこのお茶、あたしは好きだ」


 カラはニコニコしながらお茶を飲んでいる。

 そういえば、連絡船から補充できたこのお茶なんだけど、これも僕は複製を試みたんだ。

 そしたら風味がカスカスのおいしくないものができた。

 他のビスケットも同様。一体どういう仕組みになっているんだろうね。

 この翻訳機も、もしかしたらこのオリジナル以外のやつはどっかおかしかったりするのかもしれない。


「はぁ、お腹がふくれた」

「それにしても人のいた気配もなにもありませんね」

「こっちは日当たりもよくないからあたしたちもめったにはこない」


 三人とも、何もないあたりを見渡した。


「降りますか」

「そうだね。あっちを回って帰ろう」


 僕達は諦めて山を下りることにした。少し西側に大回りして海岸に戻ることにする。


「アレン、ここは足元が悪い。気をつけて」

「うん」


 カラが僕を振り返る。セロン領は農地が連なるのどかな領地だ。そこで育った僕は貴族にしてはわんぱくに育った方だとは思うんだけど、それじゃ太刀打ちできない位の大自然!

 だから気をつけていたはずなんだけどな。


「あっ!」

「アレン!」


 僕の体がふわりと浮かんだ。そしてゴロゴロと斜面を転がっていく。


「いててて……」


 足を踏み外したみたい。木がクッションになったようで、大怪我はしてないんだけど。


「おーい!」

「アレン様!」


 セドリックの声がする。そこまで遠くに転がり落ちた訳じゃなさそうだ。

 だけど困ったな。この急激な斜面をどうやって登っていったらいいのやら。

 僕はうんざりして上を見あげた。

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