本当にあった病院の怖い話

結羽

第1話 死者からのナースコール

 ナースステーションに「エリーゼのために」が流れる。

柔らかな心地よい音楽に普通の人たちは癒やしを感じるのだろうか。

しかし、看護師である私たちは違う。


 響き渡る「エリーゼのために」が意味すること。

それは誰かがナースコールを押したのだ。

見ると鳴っているのは、ある個室からだった。


「どうしました?」


 明るくはっきりとわかりやすく。

ナースステーションにあるナースコールの受話器を耳に当て答える。

しかし、返事がない。

まぁそういうことはよくある。

認知症の患者さんだったり、耳が遠くなってて聞こえてなかったり、声の出せない患者さんだったり。

その場合は直接部屋に行き、患者さんに声をかける。

私はいつも通り病室に向かおうとした。


「今のナースコールどこから?」


 ナースステーションでカルテ記入をしていた先輩看護師に聞かれて部屋番号を答えた。


「私、行ってきます!」


「待って。行かなくていいよ」


 その先輩看護師は言った。

私をじっと見つめている。

だけど、ナースコールで患者さんが呼んでいるのだ。

行かなくて良いはずがない。


「ですが……」


「いいから。行っちゃだめ」


 先輩看護師は静かに言いきる。

そして、こう言った。


「その部屋の患者さん、昨日亡くなってるから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る