モックアップ小説置き場

てよだはよねろ

第1話 ワットワットファック

ああクソ……!

そう思いながら自分は頭を掻きむしった。


目の前には問題用紙が広がっている。

鉛筆を持った手を持ち上げると紙がまとわりつく感覚が、余計自分のことを焦らせた。


自分は第一志望校の試験会場にいる。そして社会の答案を埋めている最中だ。


自分はある一つの問題につまずいていた。


「このロゴマークが表す環境保全団体を漢字八文字で答えよ。」


その下では白と黒のみで構成された、その割には立体感のあるパンダのマークが、こちらを見つめていた。


なんで自分はあの時勉強しなかったんだろうな。それは漠然とした後悔ではなかった。




ある昼休みのこと。自分は友達とスマホを見ながらだべっていた。


SNSを見ているとふとパンダのアイコンが目に入る。

「なぁ、これさあ。」

友達に話しかける。

「WWFってさー、ワットワットファックだよね。」


友達のサラダの咀嚼音だけが耳に入る。

「あ、知らん?あの、英語のスラングでさぁ、WTFって書いてわっとざふぁっくっていうさぁ。」

友達が次の一口を置いて、今の一口を飲み込んで、しゃべりだした。

「いや知ってるわ。」

「なんだよ知ってるんかい。」

「あほくさくてなんも言えんかったわー。」

「うわ!ひどぉ!」




そんな昼下がりの教室から、試験会場に自分の意識が戻る。

ああ、なんで自分はあの時、本来の名称は何なんだろうかと検索しなかったのか。

変えられない過去にすがらずにほかの問題を見返せばいいのに、どうしてもワットワットファックに戻ってしまう。

この一問が解けてたら合格だったのに。

そうなりませんようにと願うほかない。




「っていうことをずっと試験中考えてたわぁ。」

「うわぁ。」

「だって、解けんからさぁ。もうあきらめムードよ。

かよちんは解けた?あの問題。」

「いや……、実は。」

「なになに。」

「うわぁなんだけど、全く、おんなじこと思い出してたわ。」

「うっわぁ。」

「二人して、ほんと、あほくさ~。」

「ほんとだわ。」



「高校でもさー。」

「うん。」

「こういう馬鹿言いあって過ごしたいね。」

「そやね。」

「って思った。」

「ふふ、そやね~。」

「うん。」

「うん。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

モックアップ小説置き場 てよだはよねろ @teyoda7

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る