ニャルラトホテプの異世界紀行
広瀬弘樹
覚醒と策謀
第1話メレアガンスの覚醒
あ、俺ニャルラトホテプだわ。
そう気づいたのは流行り病にかかって死にかけてる時だった。
俺はこの世界では貴族の長男として生を受けた。名前はメレアガンス・トーチ。今現在八歳の暴れん坊。そして長じれば悪の貴族として王妃を攫い、主人公ランスに打ち取られる敵役。
典型的なネット小説で破滅を回避しようとあがく主人公ポジだがしかしてその正体は無貌の神ニャルラトホテプ。いつもにこにこしているわけではない。働き過ぎてむしろ虚無。
なんでもかんでもニャルラトホテプの気まぐれのせいにすればいいってもんじゃないぞシナリオ製作者共。我を崇めよ。邪神ぞ?我、邪神ぞ?
嘘だろ。ここはトラックに轢かれて死んだとか原作知識を使って破滅回避とか言う所だろ?何で俺邪神なの?チート能力どころか世界滅亡一直線じゃん。
嫌だよ。ヒーローに切られて中身の邪神がこんにちはした挙句世界が発狂するの。いや原作漫画『マビノギオンの旋律』の大元のアーサー王物語の中じゃランス発狂するけどそうじゃねえだろ。
偉大なる外なる神の王の御前に侍る本体(これも怪しいが)に連絡を――あいつ連携切ってやがる。クソが。どっかにカメラ役いんだろ。ふざけんな殺すぞ。きゃあ自分殺し。
見つけたぞカメラ役。
そうかそうか。ノーデンスの城に紛れ込んでるわけか。身分はノーデンス付きの女官。そりゃ裏工作し放題ってわけだ。ノーデンスにチクるぞ。
今すぐ殺しに行きたい所だが現在俺は死にかけの子供である。呪文とMPは無限にあるがHPは気絶寸前だ。多分残りHP1とか2とかそんな感じ。は?これもう強制的に気絶するんじゃね?システムが違う。あっそう。
ついでに伝染病だからかいつ死んでもおかしくないような老人か身分の低そうな使用人に離れで看病されている始末。この世界の人権意識と科学知識がはっきりと分かる対応である。
「おお、メレアガンス!目覚めたのか」
「旦那様、まだ近づいてはいけません!坊ちゃまは告死病です!」
父親のトーチ伯爵が肥え太った身体でのっしのっしと病室にやって来た。慌てて止める爺やを意にも介さず自信満々という態度。まさに悪役を育てるに足るといった風情だ。
「はは!心配するでない爺や。その為に彼女を連れて来たのだ」
「彼女?まさか噂の聖女様ですか!?」
爺やが驚いて叫ぶ。
聖女とはこの世界――ノーディアスという――ではノーデンスの加護を受けた特別な尼のことを指す。聖女は各地を巡り、町々に結界と祝福をもたらし、病人を癒す。
この辺某一神教の聖女の定義と違うのでテストに出ます。ほらテキストに赤線引いて。別に殉教したり、奇跡を認められる必要はない。本人の魔法属性が光であるか、魔力量が一定以上の水準を満たしているか等の条件で決まる。
「噂になっているかどうかは存じませんが、聖女オロール参上いたしました」
ぼやける視界で鈴を転がしたかのような美声の主を見る。
豊かな金の巻き毛に筋の通った目鼻立ち。そしてすらりとした柳腰。百点満点の美少女がそこにいた。
見ただけで分かる。こいつチート転生者だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます