第183話誇らしい気持ちになってくる

 そして、最も変わった箇所は彼女のわたくしを見る目線である。


 それは憐れみ見下し、嘲笑といった感情を隠す素振りもせずその瞳から感じ取ることが出来る。


「何を言っているのですか。 私と貴女の仲じゃないの。 これでも私、あの噂が絶えない四宮家へと嫁いだと聞いて心配で心配で居ても立っても居られなかったんですのよ? でも、久しぶりにあなたの元気そうなお顔を見れてほっとしておりますの」


 口ではまるでわたくしの事を気にかけているような言葉を紡ぐのだが、その表情からは『笑いものにするために今日は貴女を招待致しましたの』というのが伝わって来る。


 彼女のその態度を見て、だからわたくしは貴族令嬢のお茶会に行きたくなかったのだと、再確認する。


「それで、その見たことも無いドレス? や髪型などはどこで仕入れた衣装なのですの?」


 そしてペトラは、恐らく会ったその時からわたくしが来ている着物や簪が気になって仕方が無かったのだろう。


 最初の挨拶(挨拶と呼べるかどうかも怪しい、ただただマウントを取りたいだけの威圧的な行動)もそこそこに、やはりというかなんというかいの一番に着物と簪の事を聞いて来る。


 元公爵家であったわたくしからしても、初めて見た時はあまりの美しさに言葉を失ってしまう程の物であるのだ。


 ペトラが反応しない訳が無い。


 出会った当初こそ、まるで意地悪な姑のような表情をしていたペトラなのだが、今では我を忘れてわたくしの着ている着物に見入っているみたいだ。


 そうでしょう、そうでしょう。 今日着て来た着物はわたくし一番のお気に入りである、桜吹雪ををモチーフにした淡いピンク柄の着物なのだ。


 ペトラが見入ってしまう気持ちも分かる上に、わたくしが嫁いだ四宮家はこれ程までに美しい着物(ドレス)を身に纏うことが出来るのだぞっ! と、誇らしい気持ちになってくる。


「これは四宮家に代々伝わる『着物』という衣服に『簪』という髪を纏める用途にも使う髪飾りですわ。 実は本日、お茶会の主催者でもあるペトラ様にこの簪と言う髪飾りをご用意させて頂きましたの。受け取って貰えるかしら?」

「も、もちろんですわ」


 そしてわたくしはペトラへと日本で購入してきた一本軸簪を本日のお茶会の主催者へのプレゼントという名目で渡すのだが、ただ満面の笑みで渡すだけである。


 決して、使い方を教えたりはしない。


 一本軸簪をプレゼントされたペトラは一瞬ではあるものの表情がほころぶのだが、次いである事に気付いたのだが困惑しだす。


 そしてわたくしはペトラに言われる前に、先回りして言うのだ。


「もし、使い方が分からないのであればいつでも聞いてくださいな」


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