第172話悔しさと怒りから涙を零す



男爵令嬢のモーリーと騎士爵令嬢のアンナは今二人同じ馬車でタリム領へと向かっていた。


なんだかんだと、あれやこれやと考えた所で実際にシャーリーの置かれた環境をこの目で見ない限りは何とも言えないという事で、ならばいっそ二人でタリム領へと向かおうという事になったのである。


その道中、馬車の中では、普段であれば黄色い会話が繰り広げられるのだが、出発してから数日間殆ど会話が無い、異様な空間が出来上がっていた。


それでもお互いぽつりぽつりと会話はしていたのだけれどもタリム領へと近づくにつて、ただでさえ少なかった口数も一気に減っていく。


ただ、二人が感じているのはシャーリーの心配、ただそれだけである。


逸る気持ちを抑えながら、それでも一秒でも早く着いてシャーリーの現状をこの目で見て判断したいと思うが故、普段の馬車の旅とは異なり日没付近まで移動して、休憩も取らず観光もせず、会話もあまりせず、ただ省ける無駄は省いてできるだけ最速で目的地であるタリム領へと向かう。


あのような婚約破棄をされたのだ。


半ば強引に嫁がされた先で何をされているのか想像するだけでおぞましいと思うと共に、もし私が想像するようなおぞましい行為がされていた場合はシャーリーをすぐさま保護して騎士爵であるお父様へ報告、シノミヤ家を断罪するつもりである。


ちゃんとシャーリーの受けた心の傷等を癒してくれる優しい旦那様であれば良いのだが数多と耳に入って来る悪い噂を聞くたびに、そんな旦那様である確率はほぼ無い、むしろ最悪の事態も想像しなければならないという思いと共に怒りが同時に込み上げて来る。


それは一緒に同行してくださっているモーリーも同じらしく、モーリーが怒りを必死に我慢しているのが容易に分かってしまう程である。


そしてタリム領への道中、シュバルツ殿下が廃嫡されたというニュースが本日の宿がある街のギルドへ情報収集しに行った者から知らされるのだが、当たり前である。


国王陛下がまともな思考の持ち主で本当に良かったと安堵する。


これで暗殺される心配はほぼほぼ無くなったといえよう。


お父様が持っていた極秘の情報とはこれの事かと納得する。


腐っても第一王子であり派閥もある。


罰がバレて第一王子の派閥にうろちょろされたくない為、執行されるまでは極秘にしたかったのだろう。


どこの国のどこの王族または皇族で自身の婚約者を公の場で、それも正式な手続きをせず、思いつきだけで発言するようなバカが居るというのだ。


そんなものが国を収めれる訳が無いのは火を見るよりも明らかではないか。


それすらも分からないバカに嫁がなくて良かったという点だけは、今回の出来事の唯一の良かった箇所であろう。


そう思わなければ婚約破棄されたシャーリーがあんまりにも可哀そうすぎる。


そして私は悔しさと怒りから涙を零す。

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