第160話何でも美味しく感じてしまえそうだ
そして皆やいのやいのと旦那様をいじりつつも食欲には勝てないのか目の前に出された料理を食べ始める。
因みに「作ってくれた人に失礼だしね」という言葉も聞こえて来たのだが、その事についてはわたくしも同意見である為今すぐにでも食べ始めたいのだが、この『おはし』をどのように扱えば良いのか分からず固まってしまう。
「すまん、手を触れるぞ」
「は、はい」
そんなわたくしを見かねてか旦那様がわたくしの後ろに回り、わたくしの手を優しく包み込むように触れながらも『おはし』の持ち方を教えてくれる。
そしてわたくしは輪っかに指を通して上の『おはし』だけ上下に動かして行く。
ただ棒を一本上下に動かすだけなのだが、これがなかなか難しい。
「初めてにしては上手いじゃないか。あとはその動きを反復練習して、輪っか無しでも扱える様になれば大丈夫だな」
「は、はいぃぃっ!。わ、分かりましたわっ!!」
一体何が大丈夫だと言うのか。
こちらは旦那様に後ろから密着され、身体と右手をその大きな体と大きな手で優しく包み込まれ、更に耳元で囁かれては全くもって大丈夫ではいられないというのに。
「じゃぁ、とりあえず一度お箸を使って食べてみようか」
「わ、分かりましたわ………」
そして離れていく旦那様の温もりに、少しだけ寂しさと、もっと密着して欲しいという欲望を抑えながらわたくしは意識を切り替えて目の前の料理と『おはし』の扱いに集中する。
ただ、上の棒を上下に動かし、食べ物を挟み込む。
それだけの事なのにわたくしの手元はプルプルと震えてなかなかうまく『おはし』は開かないし閉じてくれないし、力が入らず、他の方がそうしているように『おはし』で焼き魚を切る事が出来ない。
それでも何とか焼き魚を押しつぶすように小さくカットして一口食べる。
「美味しい………」
時間はかかり、焼き魚は冷めてしまっていたのだけれども、『さば』という魚の味そのものはもちろんの事、それとは別にえも言えぬ美味しさが口いっぱいに広がって行くではないか。
初めて『おはし』を使って食べた。
それだけで何でも美味しく感じてしまえそうだ。
しかしながら、この『さば』という魚、魚であるのだから当たり前と言われればそれまでなのだがどうにも少し魚臭さを感じ、脂も多い様な気がする。
これは羊の肉が苦手という人が少なからずいる様に獣に関しても同じことが言えるのだが、この臭みを肉の味、脂を旨味と捉えるかどうかは人それぞれであり、そしてわたくしはこの魚の臭みと脂を少しばかりくどいと思ってしまう。
「シャーリーは食べ物の事となると表情がころころと変わって分かりやすいな。鯖の臭みと脂っこさ、その為の大根おろしだ。大根おろしで臭みと脂っこさを中和し、ご飯と一緒に食べる事でちょうど良い塩梅となる。物足りない場合は醤油をかければ完璧だな」
「だ、旦那様………ありがとうございますっ!!」
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