第150話なんだか不思議な気分だ

「そうだな」

「や、やはり────」

「と、言いたいところだがこの大都市を作ったのも、空高く伸びるビル群や電波塔を作ったのも魔法すら使えないただの、そこに住まう人々だ」


そう言うと旦那様はわたくしの整えた髪が乱れるからか今日は優しく頭を撫でてくれる。


少し乱暴な撫で方に慣れて来たわたくしは少しだけ物足りなく感じてしまうのだが、今からこの国のお偉い様に会うという事なので致し方無いと我慢する。


「魔法すら使えない人々が作った街………」


そしてわたくしは旦那様のこの言葉を聞き、まるで魔法の使えない人が夢見る夢物語を聞かされている様な、けれども実際に目の前に聳え立つ数多の建築物があり、頭が混乱してくる。


旦那様が嘘を言っているとは思えない。


というのもこちらでは魔法を使える者は魔法を使う事が出来ない、という事をここ『にほん』を来る際教えられ、魔法の使用はやむを得ない場合を除き使用を制限されているからである。


そして、魔法を使えない代わりに科学技術が進歩した事も。


「科学は、魔術よりも優れているのでしょうか?」


それは無意識に出た言葉であった。


もしそうであるのならば、科学ではなく魔術が既に浸透した我が国や周辺諸国は科学が進歩した国々に蹂躙されえる可能性だってあるのだ。


もしそうであればどれ程恐ろしい事か。


わたくしは今のこの暮らしを無くしたくないと、公爵家を追い出された時以上に強く思う。


「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」

「そ、そうなんですの?」

「俺の世界の言葉だ。結局のところ科学も魔術も発達すればするほどどちらも見分けがつかなくなるのかもな。王国の魔術は確かに日本の科学技術と見比べると見劣りしてしまうかもしれないが、後数百年後にはどうなっているか、それこそ今の日本よりも発展した街を作れる程魔術が発達する可能性だってある。日本だってほんの数百年前までは今の王国よりも明らかに劣っていた。魔術も無く、科学も発展しておらず、それこそ王国で魔術なしで生活するような暮らしだったくらいだ。ただ単にこっちの世界では科学が王国の魔術よりも数百年先に発展しているだけで、まぁ、そこに至るまでには数千年の歴史があるのだが、数千年もの歴史があるのは魔術も同じだろう?」


数百年、人間であるわたくしでは見届ける事の出来ない遥か先の未来。


でも今わたくしはここ『にほん』で数百年進んだ科学技術を見る事ができる。


なんだか不思議な気分だ。




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