第141話美味しいは、正義
そして何よりも、透明のカップ型の容器からお皿の上へと移した時からわたくしの鼻孔を刺激するこの匂いから断言できる。
この一見すればスライムの様な『ぷりん』なるデザートは間違いなく美味であるという事を。
そう思えばこのぷるぷると震えている見た目も可愛く見えてくるというものである。
そしてわたくしはテーブルの上へ『ぷりん』の乗ったお皿を置くと、この『ぷりん』を食すべくスプーンを手にする。
『ぷりん』はわたくしの想像していた以上に柔らかく、何の抵抗も感じないままにスプーンが刺さって行き持ち上げたスプーンには『ぷりん』の欠片がぷるぷると動きながら乗っていた。
そのスライムの様な姿には騙されてはいけない。
何故ならばこの『ぷりん』は王国ではなく、ここ『にほん』で出されたデザートなのだから。
何度目かになる自問自答を繰り返し、わたくしはこの『ぷりん』というデザートを口に含む。
そして口の中一杯に広がって行く幸せ。
わたくしはきっとこの『ぷりん』なるデザートを食べる為に生まれて来たと、そう思える程の衝撃であった。
そしてその幸せは噛んですらいないにも関わらず、気が付けば口の中から消えてなくなり、そしてわたくしの手はまた『ぷりん』を掬っては口へと入れていく。
シュバルツ殿下には悪いのだが、今わたくしは婚約破棄をされて良かったとすら思える。
美味しいは、正義なのだ。
そしてわたくしは、例え嫌われていたとしても、わたくしは今もご友人だと思っている二人に、この幸せを体験して欲しいと心から思い、一回だけで良いのでどうにかこうにかして三人でまたお茶会を開く事ができないかと考え始める。
この時わたくしは、そうして開いたお茶会のお土産として軽い気持ちで渡した『わさビーフ』なる揚げ芋で貴族界、特に美食家達を虜にしてしまいひと騒動が起こるなど想像すらしておらず、今は使用人たちと姦しくおしゃべりやお菓子類等を楽しむのであった。
◆
朝、わたくしは側使えのメイドでは無く、聞きなれない電子音によって目が覚める。
たったそれだけ。
一人で朝を起きたというだけなのだが、何だかそれが誇らしく思う。
そしてわたくしの起床に合わせてマチルダとナターシャが入室すると、着物を着せてくれる。
この着物を一人で着れる時は来るのだろうか?
マチルダとナターシャ曰く覚えてしまえば簡単だと言ってくれるのだが、覚えるまでが大変そうだなと思う。
しかしながら覚えないという選択肢は無いのでマチルダとナターシャに着せてもらいつつ、同時に着もの着方を教わって行く。
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