第121話何だか吹っ切れた気分になった
一応パジャマを持っていない訳ではない。
以前から着ていたパジャマ用の衣服を一着ここへ持って来ているのだが、今までの経験から恐らく使用人達はここ『にほん』で購入したであろうパジャマを持っているに違いない。
そして『にほん』で売っているパジャマは公爵家の娘として過ごしていたわたくしが着ていたどのパジャマよりも間違いなく上質かつそれでいて圧倒的に可愛らしいパジャマであろう事が窺えるというものである。
そして、わたくし一人だけ『にほん』で購入したパジャマではなく王国で手に入れたパジャマを着て、パジャマパーティーに参加している光景を思い浮かべた時、わたくしは思わずパジャマパーティーの開催を断ってしまう。
いくらわたくしが着ているパジャマが王国では最新の流行りを取り入れた貴族御用達の高級店で購入したパジャマであろうとも一人だけ浮いてしまう光景が目に浮かぶ。
それも良い方で浮くのではなく悪い方でだ。
そしてわたくしはこの時初めて社交界へ行きたくないといつも言っていた男爵令嬢のモーリーと騎士爵令嬢のアンナの気持ちが痛い程理解できた。
わたくしや彼女達の家で行う三人だけのお茶会等は二つ返事で来て下さるのだが、男爵令嬢のモーリーと騎士爵令嬢のアンナとは親同士が仲が良いので幼いころから良く遊んでいたのだけれども決まって社交界のパーティーは立食パーティーであろうとダンスパーティーであろうといつも何かしらの理由をつけて欠席する彼女達の気持ちが今になって痛い程分かってしまう。
そして彼女達へ毎回お誘いの連絡をしていたわたくしはなんて酷い事をしていたのかという事も。
これではわたくしにそんなつもり等なくとも彼女達からすればただの嫌味の一つでしかなかったことであろう。
彼女達には酷い事をしたと今更ながらに後悔するし、誰一人として結婚をお祝いする手紙が来てくれない事も納得がいく。
むしろシュバルツ殿下から一転、こんな辺境かつ悪い噂しか聞かない旦那様の元へ嫁がされているにも関わらず嫌味の一つもお手紙が来ない事が、どれ程嫌われていたのかという事を物語っている様な気がしてならない
「あー、そうか。そう言われてみればそれもそうだな。今まで気づかなくて申し訳ない。イーオーンに来たついでだからこのままシャーリーのパジャマも購入するとしようか」
そんなわたくしの沈み切った気持ちなどお構いなしに旦那様がいつもの様に頭を撫でてくれてパジャマを買ってくれるというではないか。
そしてわたくしは先ほどまで沈んでいた感情が、何だか吹っ切れた気分になった。
パジャマが無いと落ち込んでいるわたくしに手を差し伸べてくれる旦那様の様に、打開策があるのであれば上手くいくかどうかは一旦置いておいて、一度それを実行してみれば良いのである。
そしてわたくしには今、手紙を書ける環境であり、道具は今手元に一式揃っているではないか。
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