第109話側に旦那様が居ないから

「成る程。乙女ゲームと今の奥方様の現状が酷似しているという事は分かりましたが所詮はゲーム内での話で現実ではない」

「しかしながらバカバカしいと一蹴するにしてもこの乙女ゲームのシンクロ率の高さは異常過ぎると」

「どの道さっさとくっつけよと思うけれども奥手で唐変木の旦那様にはぶっちゃけ荒治療じゃ無いと無理だから結局私たちの手助けが必要」

「全く、世話が焼ける旦那様だねぇ」


そして次の瞬間みんなの心は一つになったのであった。





まさか裏でそんな会議が行われていたなどとは全く知らないわたくしは、パニックになる寸前であった。


しかしながらここでパニックになったとしても事態が好転する訳もなくむしろ事態が悪化しかねない為わたくしはパニックになってしまいそうなのを深呼吸して何とか自らの感情を落ち着かせる。


そして改めて見る『いーおーん』はお洒落でも、綺麗でも、ワクワクでも楽しそうでも無く、今はただただ恐怖でしか無かった。


知らない国、知らない土地、初めて来る今まで来たことも見たこともない様な沢山のお店が入っている想像を絶する程大きな建物。


それら全てが来た時にはあれ程輝いて見えた世界が一転、恐怖心を覚えてしまう。


人は多く、皆私に無関心の様で、それがまた冷たく感じてしまう。


しかしながら今はそれが逆に有難い。


王国であれば恐らく既にわたくしの様子から迷子で無いにしても何かしらの事で困っていると判断した国民が声をかけてくれるだろう。


王国民として恥ずかしい話ではあるのだが、しかしながら声をかけて来てくれた人が必ずしも善人とは限らないのだ。


それでも心細いのには変わり無い。


きっと今頃旦那様はわたくしを探してこの広い建物の中を使用人達と走り回っているのであろう。


あれ程手迷子にならない様に手を繋いで行こうと再三言われたにも関わらずこの様である。


きっと旦那様も呆れたであろう。


もし、これがきっかけで旦那様にまで婚約破棄をされたらと思うと、何故だかわからないのだがシュバルツ殿下から婚約破棄をされた時よりも嫌だと思ってしまう。


想像するだけで心が千切れてしまいそうな程痛む。


今思えば良い事をしたと思ったらそれが全て裏目に出てしまった人生だったと思う。


シュバルツ殿下には疎まれ煙たがられ婚約破棄され、今では迷子である。


「旦那様………会いたい」


わたくしの、暖かな陽だまりのような旦那様。


そしてわたくしは気付く。


迷子になったから不安ではなく、側に旦那様が居ないから不安なのだと。


何故?


分からない。


不安と恐怖と後悔で思考が上手く纏まらない。

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