第40話王国一と言わしめた実力

 そして件のメイド風の女性は手提げ鞄を開くと一つの丸められた羊皮紙を取り出し俺に見える様に見せる。


 そこには『シュバルツ殿下の命は今後一切いかなる場合においてもタリム領内及びその周辺では無効とし、またシュバルツ殿下の命を理由に強引に動こうとした者には反撃してもよい』という内容の文章と、国王であるラインハルト陛下のサイン及び陛下にしか扱うことが出来ない魔術印がしっかりと記されており、魔術印からその存在を知らしめるかのように歴代の国王の中でも飛びぬけて魔力保有量が多いとされるラインハルト陛下の魔力が漏れ出ていた。


 そして先ほどの門番へと目線を向けると『だからあれ程止めろと言ったのに』という哀れみの表情をしてこの俺様を見つめているではないか。


 これ程の屈辱を味わうのは産まれて初めてであり、怒りで我を忘れ気が付いたら噛みしめていた唇から血が流れ落ちて来ていた。


「シュバルツ殿下とラインハルト陛下、どちらの命が上か流石に分からない貴方では無いですよね?この頭の緩い賊を捕らえなさい」

「止めろっ! 放せっ! 俺は次期王国騎士団団長のダグラスだぞっ!! 貴様ら下民が触るんじゃないっ!! 放せっ!!」


 そしてメイドの一言で門番たちが一斉に俺及び俺と同行していた騎士団達を捕え始め、手に鈍く黒光りする固い手枷を嵌めて行く。


 しかし、われら騎士団をこの様な玩具みたいな手枷で拘束できると思っているあたりやはり下民の頭は下民止まりなのであろう。


「こんな玩具でこの俺様を拘束できたと思ってんじゃねぇぞっ!! ぐぬぎぎぎぎぎぐぃっ!! 何で壊れないんだよっ!!」

「残念ながらそれについては奴隷時の契約事項に触れる為お答えできません。 では、連れて行きなさい」

「「「「ハッ!!」」」」

「おいこのクソ女っ!! ふざけるなよっ!! 絶対後悔ぃっ!? おい引っ張っるんじゃ────」

「さっさと歩け。 これ以上は不敬罪で首が飛んでも知らんぞ? 物理的に」


 そしてメイドがそう言うと門番たちが俺を強引に引っ張り始めた為止める様に言おうとすると、いつの間にか現れた老齢の執事により遮られ、俺はその老齢の執事の顔を見て言葉を失う。


 何故ならばその執事は元王国騎士団団長であり、今現在行方が分からなくなっているあのローゼン・グフタスであったからだ。


 そのローゼンを前にして俺は、年老いて尚王国一と言わしめた実力は未だ健在であり、本能で勝てないと思ってしまうのであった。





「お疲れ様。 実に見事であった」

「ありがとうございます。 ローゼン様が見守ってくれているからこそ心に余裕が出来て上手く立ち回れたのだと思っております」

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