秋の扇で風が立つ

燦々東里

招待状

 目の前に結婚式の招待状がある。白を基調としたデザインに、ところどころ華があしらわれている。シンプルなデザインのものだ。差出人は古川翔太。

 出席、欠席にはまだ何も書いていない。

「まーなーみ! お風呂空いた……ん?」

 大きな音を立てて、恋人の千香がリビングに入ってくる。真奈美が何か見ていることに気づいて、後ろから抱き着いてきた。

「招待状?」

「そう」

「あ! 古川翔太さん! なんでまだ出席に丸つけてないの?」

 千香が不思議そうに顔を覗き込み、笑顔を見せてくる。パーマのかかった栗色の髪が、千香の動きに合わせて揺れる。シャンプーの甘い香りがする。

 ペンを机に置いて、千香の頬に触れる。千香は幸せそうに瞳を閉じた。

「……千香に聞いてからにしようと思ったの」

「えーなにそれ」

「お嫁さんにあたしが惚れちゃうかもでしょ?」

「最低!」

 千香がけらけらと笑う。一方でその頬は無意識に真奈美の手にすり寄る。

「お世話になった先輩の奥さん寝とるとか、絶対だめだからね」

「するわけないでしょ」

 御出席の方に左手でいびつな丸をつける。真奈美の指先を甘噛みする千香。淡く微笑む。千香が嬉しそうに手を引いて、二人で寝室に向かう。

 彼女の恋人である真奈美は、レズビアンでしかなかった。

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