第13話 お婆ちゃん、街を訪れる2


「あのね。お父さんがここで馬車を止めたの。なんだか周りの様子がおかしいから様子を見るって言っていたわ。でも、この街に来るの久しぶりだったから、私は馬車を降りてあちらの店に行こうとしたのよ」


「それはいけない事だったね。お父さんの言うことを聞かなかったんだよね」


「そうなの。そしたらお父さんが馬車から降りて私を迎えに来たけど、その間に、馬車が走り出して・・・。その馬車には、知らない人が乗っていたわ」


「お父さんは、その馬車を追いかけたのね」


「そう、だから人の邪魔になるかもしれないけど、お父さんをここで待っているの」


「もうっ。クルムが邪魔だって言うからよ」


「すっ、すまない」

  

「それでお嬢ちゃん。馬車は、どちらの方向へ向かったの?」


「あっちの方だよ」


(こんな時は探索魔法だね)


「クルム、手伝って。チグサは、お嬢ちゃんを見てくれる?」


「あいよ」


「うん。わかった。ねぇ、お嬢ちゃん。ここは馬車が通るから道の端にあるあの店で待とうか?」


 チグサは、女の子の手を引いて、道沿いの店に入っていった。


 軽食が食べられる店だが、少々長居しても大丈夫だろう。


 その為のお金は、草原の魔女の家で見つけたものを渡してある。





 お婆さんは探索魔法を使いながら、女の子が示した方向へと進み、暫く歩く。


 街を出て、森の中へズンズンと入っていく様子から、まるで馬車の行き先がわかっているようだ。


 実際にお婆さんには、探索魔法で馬車の位置が見えているのだが、距離と方向がわかるだけのため、道なき道を進むことになってしまう。


 その分距離は短縮できるが、途中に川などがあったら迂回することになるので、それほど使い勝手がいい魔法ではない。


 お婆さんの使う魔法自体のスキルが上がれば違ってくるのだろうと期待しているが、どれだけやればスキルが上がるのかの予測は不可能だ。


 歩く先に森が開けると、そこにに現れた道には新しくついたであろう馬車の轍が残っていた。


 この道を通る者が少ないので、証拠が残ったのだろうと思う。


 少し道から逸れたところで、お婆さんが立ち止まり、クルムに視線で合図する。


 道から離れた、この先に見えている荒屋に、馬車の盗賊が居るようだ。


 そしてお婆さんから小声で、

 

「クルム。念のために、剣を」


と言われたので、クルムは背負っていた剣を手にして警戒した。


 お婆さんと魔女との戦い時にクルムが拾った・・・いや、手に入れた物である。


 お婆さんは、荒屋に音も立てずに近づいていく。


 荒屋の横には、うまく隠しきれていない馬車の一部が見えている。


「クルムはここで待機していて。もし、私が敵を逃してしまったらその時はお願い」


 お婆さんから小声で頼まれるが、クルムに逆らう気概はない。





 ここからお婆さんは、正々堂々と荒屋に向かう。


「ババア、どこから湧いて出た?ここは老人の来るとこじゃ無いぞ。もしかしてボケた徘徊者か?」


「若い女なら大歓迎だが、しわくれババアじゃ需要はないな」


 お婆さんに気がついて、からかうように騒ぎ出す男たち。


 酒が入っているからなのか、まったく警戒していない。


 見張りさえも置いていないので、盗賊というよりも、単なる荒くれ者の集まりかもしれない。


 そこに何も言わずに一人で堂々と近づくお婆さん。


 ここまですれば、さすがに盗賊たちに殺気がこもってきた。


「年寄りを殺すのは初めてだが、ここに来たのが運の尽きだな」


「おしゃべりがすぎる男たちだね。わたしゃボケ老人じゃ無いよ。人間のカスが」


 どうやら男たちは、お婆さんを怒らせていたようだ。


 クルムはそう考えると、先程のお婆さんの沈黙を恐ろしく感じる。


 クルムは、お婆さんと草原の魔女との戦いを見ていたので、お婆さんのその見た目に合わない実力は、ここにいるクルムしか知らないことだ。


 あまり手入れをしていない汚い剣を持ってお婆さんに襲いかかる男たちが、倒れて、地面の上で激しく痙攣し始める。


 お婆さんは、何をしたのだろうか?


 突然現れたお婆さんに手下をやられ、ヤバイと感じた男が、クルムのいる方向へと逃げてくる。


 森の中を通る道は一本だから、それは当たり前のことだ。


(出番だな)


と、クルムは緊張したが、『ゴガンッ』と音がして、男が何やら見えない壁にぶち当たった。

 

「逃げられるとでも思ったかい?」


 逃げ出した男の後ろから聞こえてきたお婆さんの低い声も恐ろしい。


 小柄な体からどうしてこんな威圧が出せるのか?


 そんなことをクルムが思っていると、逃げてきた男も同じように倒れてビクンビクンと体が痙攣し始めた。


「クルム。コイツらを縛り上げて」


 その一言とともに


「ホイっ」


とロープが飛んでくる。


 クルムは、お婆ちゃんに言われた通りに盗賊たちを1人ずつ縛り上げていった。


 お婆ちゃんは、盗賊の男たちに触れ、少し強めの電流を流したのだ。


 電圧の大小に関わらず、電流が痛みや生死を分ける知識を思い出していたので、スタンガンみたいにできないかと魔法を試した結果である。


 電撃系の魔法はあの数々の本にも載っていなかったし、今までも聞いたことがないから間違いなくお婆さんのオリジナル魔法になる。


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