第104話 鞘

転移によりレイヴァース国に戻って来たフェリクスたちは、マリアンヌに事情を説明していた。


「で、その方が異世界から呼ばれた勇者様と言う事でしょうか」

「自分ではよくわかりませんが、教会の人たちはそう呼んでいました」

「ってことで彼を元の世界に返す方法を探そうと思う」

「それなら、伝承で勇者は元の世界に帰ったと言いますし、古代の遺跡を探してみてはどうでしょうか」

「俺もそれがいいかなと思っているよ」


3人が話していると1人の人物が部屋に突然入ってきた。


「え、アリサ姫、何故ここに?」

「え、もう帰って来たんですか、フェリクス君。せっかく、父から許可をもぎ取って来たのに」

「もぎ取ってきた?」

「副会頭は気にしないでください。こちらの話ですので、ね、アリサ姫」

「そ、そうです。こっちの話ですので気にしないでください」

「はぁ、そうですか」

「所でこちらの見慣れない服装の人は誰でしょうか?」

「こちらの人は訳あって、暫く、この商会に滞在することになった光さんです」


光は突然入ってきた、美女のアリサに目を奪われていた。


「光さん?どうかしましたか」


フェリクスが動かないでいる光に声を掛けると、その声に光は我に返る。光は我に返った後、フェリクスを捕まえて、部屋の角に行き、マリアンヌとアリサに聞こえない様、小さな声でこそこそと話し始めた。


「だ、誰なんですか。あの超絶美少女は?」

「え、アリサ姫の事ですか。ただのこの国の王女様です」

「王女様なんですか。僕が気軽に話しかけていいのものでしょうか」

「別に公式の場のではないので、そこまで気にしないでいいと思いますよ」

「と言うか、フェリクスさん、何でそんなに落ち着ているんですか」

「いや、ただの学友ですし」

「学友だとしても、もっと敬語とかあるでしょ」

「別にいいと言って貰っているので」


2人がこそこそと喋っているとマリアンヌが怪しむ様に割り込んできた。


「そこの2人、こそこそ話と何を話しているんですか」

「な、何でもないです。そうですよね、フェリクスさん」

「ええ、たいした話ではないので気にしないでください。それでは、自分は光さんを元の世界に返す方法を調べてきますので、光さんの話をマリアンヌさんにしておいてください」

「わかりました、宜しくお願いします」


フェリクスはそれだけ伝えるとクレソン商会を出て行った。


「あ、待ってください、フェリクス君」


その後ろをアリサは、すぐに追いかけた。その様子を見た光は目でマリアンヌさんに何かを問いかけた。


「ああいう関係ですので気にしないで下さい。それよりも話をお願いします」

「わ、分かりました」


フェリクスが向かったのは、学園のいつもの空間に来ていた。


「それにしても休日までここにきて何をするつもりなんですか、フェリクス君か」

「別について来なくていいのに」

「面白そうなので」

「はぁ、仕方がないですね、エクス出て来てくれ」


フェリクスが声を掛けると、本の中から、聖剣とその精霊エクスが出てきた。


「おう、意外にすぐ呼ぶな、お前さんは」

「まぁ、この聖剣の力を試したいから勘弁してくれ」

「おうおう、そういう事なら存分に使ってみてくれ」

「え、聖剣ってまさか、もしかして勇者の聖剣ですか」

「やっぱり、気付きますよね。そうです、失われたと言われている聖剣エクスカリバーです」

「おう、エクスだ、よろしくな」

「えっと、頭の処理が追い付かないんですが」

「簡潔に説明すると、ユグドラシル様に、勇者召喚の気配を教えてもらったので調べた結果、勇者召喚がされていて、聖教教会が聖剣やら勇者召喚の魔法陣を秘匿していたと言うことです」

「えっとそれじゃ、商会にいた人はもしかして、召喚された勇者様ですか」

「察しが良くて説明の手間が省けますね」

「それって魔王が誕生する予兆って言われませんでしたっけ?」

「そうですよ。でも、光さんには聖剣は使えないようだったので、こうして俺が聖剣の性能を試しているわけです」


喋りながらも、フェリクスは、聖剣に神力を流し込んで振り下ろした。すると聖剣から光線のようなものが剣の軌跡通りに飛んでいった。しかし、ここは、空間が捻じ曲がっているので、反対側からフェリクス自身が飛ばした光線が飛んできた。フェリクスはそれを聖剣で弾くと満足そうにした。


「なかなかの性能だな」

「あったりまえよ、特に、魔族に対しては、俺の効き目はピカイチよ」

「つまりこういう事ですか。フェリクス君が光さんの代わりに聖剣に選ばれたと」

「正解」


フェリクスの言葉にアリサは頭を抱えた。


「何かは起こるだろうと思っていましたが、想像の斜め上過ぎです」

「あ、そうだ。エクス、勇者が元の世界に帰った時に使った魔法陣の場所とか分かる?」

「おう、それなら、俺が封印されていた所から、山2つほど離れた場所にあるはずだぜ。しかもそこには鞘が一緒に封印されているはずだぜ」

「鞘ですか?と言うことは、それにも精霊的なものがついているんでしょうか」

「おうよ、アイツは防御的な役割をしてくれるぜ」

「それは一石二鳥ですね。ぜひその封印を解きに行きましょうか」

「あの、また、軽くとんでもない事と言っていません?フェリクス君」

「そうですか?これくらい普通ですよ」

「聖剣に選ばれるのが普通とは言いませんよ」

「それじゃ、魔力がもったいないけど、また、カトリーナ国に行きますか」


突然のフェリクスの発言に張り合う様にアリサも発言した。


「次こそは私もついて行きます」

「まぁ、別に許可を貰っているなら、構いませんけど、疲れるかもしれませんよ」

「遺跡を掘り起こすぐらいなら、なんてことないです」

「それだけで終わると良いんですが・・・」


フェリクスの最後の一言が気になりながらも、アリサはフェリクスと一緒にカトリーナ国へ移動するのだった。

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