第4章 勇者召喚編

第100話 勇者召喚

フェリクスは一人寮の部屋で、豪華な装飾の本の1ページを見ていた。


「アルテミスね」


そのページはアリア王女に神落としで落とされた神の名前だと予想はついていたが、肝心の神本人はフェリクスが呼んでも出てくる気配が全くなかった。出てくる力が無いのか、それとも単純に出てきたくないのか、フェリクスには見当がつかなかった。そのまま理由が分からないフェリクスは諦めてベットに身を投げ出した。


そんな時、部屋全体が明るくなった。


何事だと、フェリクスはベットの脇に置いてある刀を握るが、光が収まり、フェリクスの目の前に現れたのは、普通の人の大きさになったユグドラシルだった。


「こんばんは、フェリクス君」

「ここに来られるとは驚きました、ユグドラシル様」


光の原因がユグドラシルと分かったフェリクスは手に持っている刀を床に置いた。


「いつもの3人にやり方を聞いたら、すぐに出来ました」

「あいつらですか」

「と言っても今見えているのは、姿を映しているだけで、本体ではないんですが、まぁ連絡だけならこれでいいかと」


ユグドラシルはそこでフェリクスに向かって頭を下げた。


「この前に、この前の異変に気づけず、すみませんでした」


ユグドラシルが言う、この前とは当然、ディスガルド帝国が使った兵器の事だろう。


「いえ、敵の用心が凄かっただけでしょうから、気にしないで下さい」

「そう言って頂けると有難いです」

「それで今日はどのようなご用件なのでしょうか」

「あ、そうでした、今日は大陸の中央で大きな神力を感知したのを言いに来たのです」

「大きな神力ですか」

「はい、数百年前にも同じような神力を感じました」

「ちなみにその時は、神力は何が原因だったのですか?」

「確か、その時は勇者召喚だったと思います」

「勇者召喚ですか、いったい、それは何なんでしょうか?」


知らない単語にフェリクスは首を傾げた。


「魔物を操る魔王が出現した際、人間が最後の切り札として使った儀式の名称です」

「それは神落としのようなものなのでしょうか?」


神力を使う儀式と聞くとフェリクスに思いつくのは神落とししかなかった。


「似たようなものです、違う点は、呼び出すのが、異世界の人間だという所でしょうね」

「異世界の人間ですか?」

「はい、そうです、人間です。その分、神などを呼び出した時のような危険はありません」

「しかし、何故、わざわざ異世界の人間を呼び出すのでしょうか?」

「それは異世界の人間は魔力を持たない代わりに神力を多く持っているからです」

「神力ですか、レイヴァース国以外に精霊術を教えられる環境があると言う事なのでしょうか?」


精霊使いは数が少ないと言うことは、教えられる人間が少ないと言うことだ。レイヴァース国でさえ、1人しか教えてくれる人はいなかったのだ。他の国でそんなに精霊使いがいるのか、フェリクスには疑問だった。


「多分、そんな環境はないでしょう」

「では、神力の高い人間を呼び出しても無駄じゃないでしょうか」


神力も使えなければ意味がない、ただの宝の持ち腐れだ。


「恐らく、神器、勇者であれば、聖剣を使うのでしょう」

「つまり、異世界から神器を使える人間を呼び出すと言う事でしょうか」

「正確にはそうなります」

「しかし、前回は魔王と言う存在があっての召喚のはずなんですが、今回は何故なのでしょうか」

「似ているというだけで、勇者召喚と決まった訳ではないですよ、丁度、秋の祝日で暇があるので調べてきますよ」

「よろしくお願いします」

「それにしてもわざわざ情報ありがとうございます」

「いえ、約束ですから気にしないで下さい、何かあれば、いつもの三人に伝えて下さい、それでは」


それだけ言うとユグドラシルは来たと同じような光を出し消えていった。


「勇者召喚か」

「あのババアはもう行った?」


フェリクスが勇者召喚について考えていると恐る恐ると言った感じでシルフが出てきた。


「ユグドラシル様なら、もう行ったみたいだよ、そんなに会いたくないの?」

「会いたくないわよ、何を言われるか分かったもんじゃないわよ」

「無理に会う必要はないと思うけどね、それより、今度の休みに遠出するからよろしくね」

「まぁ、そんな事と思ったけど、急よね」

「時は金なりだよ」

「また一人?」

「そうだよ?何かダメ?」

「また、姫様に何か、言われなきゃいいわね」


シルフの最後の言葉は小さすぎて、フェリクスには聞こえなかった。

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