第96話  悪あがき

皆が屋敷の中に入り、大きな扉の前に来ると執事が恭しくその扉を開けた。


「さぁ、中で主がお待ちです」


中に入るとそこは談話室になっていて真ん中にはテーブルがあり、その両脇に長椅子が並べてあった。そして、その片方には貴族らしき男が座っていた。


「どうぞ、お座り下さい、レオンハルト国の代表の方、私は、エルガー・バンク、ここの土地を任されていた者です」


エルガーに言われ、フェリクス達も椅子に座る。ここで誰が喋るかという問題になるが、勿論、フェリクスが代表として口を開く。


「では、今回の戦争で、ディスガルド帝国が負けて、現在、レオンハルト国がここを統治しているのはご存じですね」

「ええ、知っていますよ、私たちには反撃する力もありませんし、全面的に貴方たちの決定に従うつもりです」

「この家が取り潰しになるかも知れないのに?」

「私たちにはどうすることも出来ないのでしょうがないです。今日はもう遅いですし、話は明日にしませんか、部屋は余っていますのでどうぞ、泊まって行ってください」


エルガーは早々に話を切り上げると、談話室から出て行った。エルガーと入れ替わる様に執事が入ってきた。


「では皆さんをご部屋に案内する前に夕食がありますのでどうぞ召しあがって下さい」


執事は、フェリクス達を別の部屋に案内された。そこにはもう用意していたのか、豪華な夕食が並べてあった。


「こんな豪華な食事を私たちが食べてよろしいんでしょうか?」


フェリクスにはこの食事が一般家庭の1か月分ぐらいに相当するぐらいの食費が掛かっているのが一目でわかった。商会員たちもそれが分かっているのか、口からはよだれが垂れていた。


「ええ、勿論でございます。レオンハルト国の代表と言うお方には相応しい食事だと私個人は思いますよ」


改めて、食事の許可を得たフェリクス達は夕食を食べ始めた。30分もすると、皆、綺麗に夕食を食べきっていた。皆のお腹も一杯になった事で軽い睡魔が皆を襲っていた。そこに執事がやってくる。


「それでは皆さんのご部屋の準備が出来ましたのでご案内いたします」


それぞれの部屋に案内され、皆、もう眠いのか、部屋に入るとすぐに眠ってしまった。1時間もしない内に全員が眠ってしまっていた。


1階のリビングにエルガーはいた。


「ふふふ、馬鹿な奴らだな、食事に睡眠薬が入っている事も分からずに食べるとは」


エルガーは、執事の報告を聞き、不敵に笑っていた。


「準備は出来たか?」

「はい、万事出来ています」

「ならば、奴らを殺し、国外に逃亡するぞ」


エルガーの姿はさっきの豪華な服装と打って変わって、軽装の移動がしやすい服装に変わっていた。


「まぁ、そんな事だろうと思ったけどね」


エルガーの後ろにフェリクスは突然、現れた。


「なっ、やれ、お前たち」


エルガーが叫ぶと、黒ずくめの者たちが物陰からフェリクスに向かって行った。


「暗殺者が姿を現したらダメでしょ」


フェリクスは飛んでくるナイフを手で掴むとナイフをそのまま暗殺者に数倍の速さで投げ返した。そのナイフに反応出来なかった暗殺者は地面に倒れる事になる。


「動くな、貴様、愚かな貴様に仲間が人質に取られているという事実を教えてやろう、それ以上、動けば、私が命令して仲間を殺してしまうぞ」

「ああ、上に眠っている仲間の事ね、それなら一か所に集めて結界を掛けといたから、殺すのは無理だと思うけどな」


エルガーは軽く首を動かすと暗殺者の一人に確認に行かせた。そして、フェリクスの言っていることが本当の事だと確認出来たようだ。それだけでエルガーにはかなりの動揺が走る。


「何故、貴様は眠っていない、貴様も食事をしたはずだろう」

「ああ、簡単だよ、色々毒とかを貰い過ぎて、効果の弱い薬が俺には効果が無いってだけだよ」

「そうだとしても何故、私の襲撃を予想できたのだ?」

「それはちゃんと自分の行動考えてみたら分かるんじゃない」

「いや、私はお前たちには何もしていない筈だ」

「本当に?この屋敷を囲まれるぐらい、住民に嫌われているのに?」


フェリクスはエルガーがこっちの決定に従うと言った時から、疑いの眼差しを向けていた。住民たちからあんなに集まるような者が大人しくこっちの決定に従うとは思えなかったのだ。


「さて、種明かしは終わったよ、それで大人しく投稿するの?」

「そんなわけがなかろう、行け?、お前ら時間を稼げ」


エルガーは、暗殺者に指示を出すと自分は後ろの扉から外に出て逃げた。


「あ、待て」


フェリクスは追いかけようとするが、当然、目の前には暗殺者が立ちはだかる。フェリクスはため息をつくとゆっくりと刀を抜いた。迫りくる暗殺者を淡々と切り捨てるが、不意にフェリクスの刀を止める者がいた。


「行かせません」


声からしてさっきまで執事をしていた男の様だった。


「惜しいな、本気じゃないけど、俺の刀を止められるような人物を使い捨てにするとは、貴方は浮かばれないね」


それだけ言うとフェリクスはさらに速度を上げ、執事を切り伏せた。もう他の暗殺者がいない事を確認したフェリクスは、エルガーを追いかけた。


馬に乗り必死に逃げているエルガーだったが、あっさりとフェリクスに追いつかれ、馬上からたたき落された。


「待ってくれ、何でもしてやる、何でもお前の望みを叶えてやるぞ」

「うるさい、お前に何もしてもらわなくても、俺は自分の力で自分の夢は叶える、それよりも自分のしてきた事に対して向き合うんだな」


フェリクスはそれだけ言うと、エルガーの顔を殴り、気絶させた。そのエルガーを馬に荷物の様に載せると馬に乗りエルガーの屋敷に返って行った。

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