第3章 復興編
第84話 荷造り
ロスリック王との交渉が終わったフェリクスは、アベルと共に一度、荷造りの為、レイヴァース国に戻っていた。
「それにしても、この学校ともお別れだと思うと少し寂しいな」
セイレン学院の前で、アベルは哀愁がある台詞を呟いていた。
「え?」
フェリクスは、アベルの発言に訝しげな視線を向けていた。
「いや、流石に勉学と一領土の運営、しかも復興をするのだぞ、どちらかしか、無理だろう」
「最初は無理かも知れないけど、1、2か月ぐらいでこっちと行き来できるぐらいにはするつもりだから、安心してよ」
「全然安心出来ないのだが」
最初から仕事が多すぎて無理と思っていたアベルだが、結局、最後まで仕事が多すぎたと思うのである。
「まぁまぁ、だって、アベルは精霊武装も取得してないんだよ」
「それは確かにそうだが、緊急時はどうするのだ?責任者不在では対応できない事態もあるだろう」
「それなら、親父にやってもらうから、安心して」
「・・・それは安心出来そうだな」
ダルクの力を目の前で見ている事と商会の噂から、アベルにはそれ以外の言葉が出て来なかった。
「ほら、早く、準備しに行くよ」
フェリクスはそう言うと寮の方へ歩いて行った。アベルもそれに続いた。
2人とも荷造りが終わり、寮から出てきたが、寮の入口には、とある人物が待ち構えていた。
「フェリクス君もアベルさんも私に何も言わずに行こうとするのは、ひどくないですか?」
入口で2人を待ち構えていたのは、アリサ・レイヴァースだった。
「なんのことか、全くわかりませんね」
フェリクスは肩を竦めるだけで、とぼけて見せた。
「そんな冷たい事、言うんですね、後で覚えておいてくださいね」
アリサの笑顔に軽く、フェリクスは寒気を感じたが、行ってしまった言葉は引っ込められなかった。
「休学する理由ぐらい言っても良いんじゃないですか?」
「ディスガルド帝国にレオンハルト国が勝ったんでそこの統治をしてきます」
あまりにも簡略化している説明にアベルすら、フェリクスを信じられないような目で見ている。
「統治ですか?」
「はい、そうです、自分はこれで」
早々に会話を切り上げるとフェリクスは、ダッシュでアリサ姫の横を抜けようとするが、首にラリアットを食らってしまう。
「ダメです、ちゃんと説明しないと行かせません」
首にラリアットを食らった、フェリクスは、そのまま地面に転げ落ち、あまりの痛みで悶絶していた。アベルはその様子を見て、怒らせていけない人物を怒らせてしまったと悟った。
「えっと、ですね、アリサ姫、確かにレオンハルト国がディスガルド帝国に勝ちはしましたが、その前に色々ありまして、レオンハルト国はクレソン商会に大きな借りが出来てしまったのです。それの借りを返すために今回の一時的にディスガルド帝国の統治権をクレソン商会に渡すことになったのです」
アベルは上手く兵器について濁しつつアリサ姫に説明したつもりだったが、アリサ姫の顔を見ると納得している様子ではなかった。
「それで、なんで、フェリクス君とアベルさんが、行く必要があるんでしょうか」
「それはフェリクスのかねてらの希望だったらしいので、自分はレオンハルト国代表で行きます」
「本当に私を置いて身勝手じゃないですか」
「そんな間柄じゃないだろ」
喉を傷めたのか、ガラガラの声でフェリクスは反論した。
「ちゃんと帰ってくるんですよね?」
「最初が落ち着いたら、学業と統治、両方両立させると言っていましたよ」
「なら、いいです」
戻ってくると聞いたアリサはあっさりと引いた。その一言だけで良かったのなら、何故、俺はラリアットを食らったんだと思ったが、声がガラガラすぎて、声を出すことをフェリウスは諦めた。
アリサに手を振られながら、2人は寮を後にした。
「もう、ディスガルド帝国に行くのか?」
「いや、商会に寄って行こうと思うから、先にアベルは向かっていてくれ」
ガラガラの声が直っていないが、アベルは何とかフェリクスの言葉を聞き取り、返事をした。
「分かった、先に待っているぞ」
「ああ」
そういうとアベルは転移結晶で転移していった。
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