第65話  ディスガルド帝国

フェリクスとアランが転移したのはレオンハルト国のクレソン商会だった。フェリクスとアランを出迎えたのは、初老に近い白髪のおじいさんだった。


「副会頭、急にどうしたんですかな、そのドワーフは?」

「あ、コナーさん、久しぶり、色々あってね、彼は今度からこの商会に所属することになるアランさんだよ」

「何かの職人希望ですか?」

「いや、行商人になって、色んな場所を見てみたいらしいよ」


眼鏡の位置を戻しながら、コナーはじっくりとアランを見た。


「ほう、それは珍しいですな」

「最初は見習いとして、入ってもらうから、教育をお願いするよ、コナーさん」

「わかりました、ではそのようにしましょう」

「よろしくお願いします」


アランはコナーに対して挨拶を交わした。


「こちらこそよろしくお願いしたします」

「それじゃ、俺はまだ用事があるから、行くね」

「はい、行ってらっしゃいませ、副会頭」


フェリクスはアランの事をコナーに頼み終わるとすぐに商会を出て行ってしまった。


「すぐに行ってしまった、まだお礼の言葉のちゃんと言えてないのに」


アランは名残惜しそうにフェリクスの後姿を眺めていた。


「副会頭はいつもあんな感じのお方なのです、安心して下さい、ああ見えて面倒見のいい方です、すぐに会いに来てくれますよ」

「はい、それまでに成長を見せられるようにします」

「その意気ですぞ、私も教育係として、しっかりと務めを果たさせてもらいます、ささ、中で今後の説明をしましょう」

「お願いします」


こうしてアランの商人としての第一歩が始まった。


フェリクスは商会を出た後、すぐに南を目指して街道を走っていた。


「また、急な移動ね」


移動中のフェリクスにシルフが喋りかけてきた。


「夏休みがあと一週間を切っているからね、俺が自由に動ける時間がないんだよ」

「戻る時間あるの?このまま南に行くんでしょ」

「大丈夫、転移があるから」

「何で今から行く場所には転移しないよ、時間がないんでしょ」

「それは今から行く場所、ディスガルド帝国にクレソン商会がないからだね」

「え、貴方の商会ってそこそこ有名じゃないの」

「一応、周辺国で一番の商会って言われているね」

「じゃあ、何で、ディスガルド帝国に貴方の商会が無いわけ?」


普通に考えれば、支部国ごとに合ってもおかしくないはずである。


「それは治安があまり良くない国だからだよ、だから支部を作らなかったんだよ」

「治安が悪いね、そのぐらい貴方たちの商会ならどうにか出来そうじゃないの?」

「別に地域の治安じゃないよ」

「じゃあ、何の治安が悪いのよ?」


直ぐに答えを言わないフェリクスにシルフはイライラしながら質問した。


「国の治安だよ」


シルフにはフェリクスの解答が信じられないようだった。


「なによ、それ?国は治安を維持するものでしょ」

「普通はそうなんだけどね、あの国は貴族や役人の腐敗が横行している国だからね、まともに商売しようと思ったら、多額の賄賂を渡さないと成り立たないんだよね」

「だから、その国には支部を作らなかったわけね」

「そういう事だね、そんな国だから、ドワーフを捕らえて、無理やり働かせている可能性があるって事」

「だからって、わざわざ、足を運ぶの?ドワーフの王って人も無理しない範囲で言っていたじゃない」

「別に無理はしないよ、ただ、ドワーフが捕らえられているのなら、もしかしたら、その中に遺跡について知っているドワーフがいるかも知れないと思ってね」

「もうその国にドワーフが捕らえられている前提で、どれくらい腐敗しているのか、目に浮かぶわ」

「それについては否定しないね、ほら、もう、国境だよ」


フェリクスの目の前にはレオンハルト国とディスガルド帝国の国境が見えて来ていた。


国境の抜けようと詰め所でフェリクスが冒険者のギルドカードを提示しようすると国境を守っている兵士が喋りかけてきた。


「あんた、この先のディスガルド帝国に行くのか?」

「はい、そうですが?何か」

「悪いことは言わん、行くのはやめときな」


どうやら兵士は親切心で話しかけてくれたようだった。


「大丈夫です、自分はこの通り、Sランクの冒険者ですから」


この前のダンジョンの功績でフェリクスは晴れてソロのSランク冒険者になっていたのだ。


「強くてもどうにもならん事の方が多いぞ、やめときな」

「安心してください、自分はこの国に何度か足を踏み入れて、何度か戻ってきているんです」

「はぁ、これ以上引き留めても無駄なようだ」


兵士は渋々とフェリクスの名前を手帳に記入し、フェリクスが通るのを許可してくれた。


「必ず帰ってこいよ」


心優しい兵士に見守られながらフェリクスはディスガルド帝国に足を踏み入れるのだった。

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