第2章 争乱編

第47話  精霊の森

セイレン学院は夏休みを迎え、ほとんどの生徒が実家に帰省をしていた。肝心のフェリクスは王都のクレソン商会にいた。


「副会頭、いつまでそこにいるんですか?」


クレソン商会の一番いい椅子でずっと昼寝と読書をしているフェリクスに対してマリアンヌは呆れた声を出した。


「別に仕事はしているからいいでしょ」


しかも質が悪いことに、精霊たちの情報網とダルク直伝の交渉術でフェリクスが一番商会に貢献していた。


「確かに、副会頭が一番利益を出していますが、そんな態度では下の者に表しが尽きません」

「誰かにも見られてないから大丈夫だよ」

「私が見ております」

「マリアンヌさんなら、俺のこんな姿を見たとしても別にだらけないでしょ」

「それはそうですが・・・」

「文句は俺より稼いでからにしてくれ」


そう言ってからフェリクスは読書に戻った。それを見てマリアンヌは呆れ顔で受付に戻っていった。


これでゆっくりと読書できるとフェリクスは思ったが、すぐにドアをノックされた。


「どうぞ」

「フェリクス君にお客様です」

「誰なの?」


ここでフェリクスはマリアンヌがフェリクス君と呼んだことにもう少しだけ気を付けるべきだった。


「これへどうぞ」


恭しく礼をしながら、マリアンヌさんはお客さんを通した。


「こんにちは、フェリクス君」


姿を現したのは、アリサだった。


「げっ」

「げってなんですか、失礼ですね」

「そのままの意味で受け取って頂いて構いません」

「否定もしないんですか」

「それで何の用なんですか?こんな暇な夏休みの時に」

「ちょっと、遠出でもしませんか?」

「遠出?」

「はい、ウンディーネから面白い話を聞いたので」

「面白い話ですか」

「近くに精霊の森と呼ばれるものが来ているそうなんですか、一緒に行ってみませんか?」

「来ているか・・どう思うシルフ?」


呼ばれて、シルフがフェリクスの隣に姿を現す。


「えーあの婆に会いに行くの?」

「こら、そんなこと言わないの」


シルフを窘めるようにウンディーネもアリサの横に姿を現した。


「でも、どうせ行っても、私はいい顔されないわよ」

「たまには顔見せでも行きなさいよ」

「小言だけ聞きに行けって言うの?」

「あの、精霊の森ってなんですか?」


ひょっこりと机の下から土精霊のノチスが顔を出して質問をしてきた。


「そっか、貴方は、そこで生まれてないから、分からないのか」

「精霊の故郷みたいな場所よ」

「わぁ、そうなんですか、行ってみたいです」

「ほら、この子もそう言っているわよ、シルフ」

「はぁ、分かったわよ、行けばいいんでしょ、行けば」


完全に皆で精霊の森に行く雰囲気になってしまったが、その雰囲気をぶち壊すものが居た。


「俺はここで本読んでおきたいんだけど」


フェリクスの発言にシルフは呆れた表情を見せる。


「アンタ、よくこの状況でその発言が出来るわね」

「意見を述べるのは自由だろう、シルフ」

「そんなこと言わずに行ってみましょうよ、フェリクス君、どうせ、読書以外やることがないのでしょう」

「やろうと思えば、やることは無限にあるんだけど」


突然、ガチャっと扉が開いたと思ったら、マリアンヌが一言だけ言いに来た。


「私としてもここ居られるより、行ってもらった方が嬉しいです」


それだけ言い終わると、また、ガチャっとマリアンヌは扉を閉めて受付に戻った。


「俺の味方が誰もいない」


味方がいないとフェリクスはガックリと頭を落とした。


「ご主人様~」

「あーもー、わかった、行けばいいんだろ、行けば」


こうして、アリサとフェリクスの精霊の森への旅行が決まったのだった。

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