第25話  褒美

そんなこんなで力ずくで王城に連れて来られたフェリクスは王様、もとい、アリサ姫のお父様のいるところに来ていた。しかし、奇妙なことに王様、アリサ姫、フェリクス以外は謁見の間にいなかった。


「今回、お父様にお願いして堅苦しいのはなしにしてもらったわ」

「それって護衛とか大丈夫なの」

「昨日、私を助けてくれた貴方が今更、私やお父様を狙う理由がないわ」

「そう入れればそうだけど、不用心すぎる」

「私がいれば、大体のことは大丈夫よ」

「なるほど」


フェリクスに対しての説明が終わったところで王様が話変えてきた。


「お前か、今回の事件を解決したというのは」

「そんなことはしていません」

「うん、話が違うぞ、アリサ?」

「いえ、精霊たちに聞いたので間違いありません、お父様」

「だそうだが、ダルクの息子よ」


ダルクの息子という言い方に違和感を覚えたが、フェリクスは改めて口を開いた。


「首謀者を捕まえていないのに、事件が解決したなんておこがましくて言えません」

「なるほど、そうゆういことか、お前は本当にあのダルクの息子か?」

「それは間違いありません」

「あいつなら、こんな機会があったら、王家の宝物庫から根こそぎ財産を持っていくか、何かの利権を要求してくるだろう」

「・・・まぁ、親父なら、そうするかもしれませんね」

「なのにお前は自ら、そのチャンスを投げ出そうとしている、父親と違い過ぎではないか」

「それは否定しません、自分は面倒ごとが嫌いなので」

「面倒ごとが嫌いとな、わははは、そんなことを理由に此度の褒美が欲しくないと」


あまりにも違うのか、王様は笑いが止まらないようだ。


「そうですね」

「いや、しかし、娘の命や民の命を救ってくれたことには変わりない、流石に何もなしというわけにはいくまい、それでは他のものに表しがつかん」

「そう言われても、欲しくないものは欲しくないですね、そんなものをくれるぐらいなら早く、ばら撒かれたアクセサリーを早く回収したらどうでしょうか」

「痛いとこを突くの、しかし、それとこれとは別だ、回収についてもかなりの数、人員を動員しているから今日か明日には終わるだろう」

「ほんとに、フェリクス君は何もほしくないの?どんな小さなことでもいいんですよ」


あまりにフェリクスが拒否するのでアリサが助け船を出した。


「欲しくないな、しいて言えば、今回、商会の所属している冒険者たちに支払う報酬分だけど、それも大した額じゃないから、わざわざ、もらうほどじゃない」

「ちなみに、その冒険者たちの報酬はいくらなのか、聞いていいでしょうか、フェリクス君」

「うん?別にいいけど、Sランクには金貨200枚、Aランクには金貨100枚かな」

「え、そんなに払うんですか」


金額を聞いて、アリサは驚愕の声を上げた。


「払うよ、緊急の招集にも応じてくれたし、彼らはちゃんと俺の要望にも応えてくれたからね、正当な報酬だ」


ちなみに金貨1枚あれば、一般庶民であれば、1年は軽く暮らせるぐらいの額だ。


「それを私たちが肩代わりするのはどうでしょうか?」

「いえ、このくらいの金額、いつも払っている報酬なので、いりませんよ」

「確かに、ダルクの商会なら、腐るほど金は持ってそうだな、わははは、しかし、金はいらんか、それなら、どうだろう、宝物庫で何か一つ好きなものでも取っていくがいい」

「いや、いらないんですが」

「何があるのか、見ていないのにいらないは早計過ぎだろう、1回見てから決めるといい」

「いや、だか――」

「アリサ、フェリクス君を宝物庫に案内してあげないさい」

「はい、お父様、行きますよ、フェリクス君」


王様はフェリクスの言葉を遮ったかと思うとアリサ姫にすぐさま指示をした。このままでは話し合いが平行線にしかならないと踏んでの判断だろう。


「え、ちょっ、またかよ、もう自分で歩くから放してくれ―――」

「大丈夫ですよ、フェリクス君、安全に運びますから、ふふふ」

「痛い、痛いって、どこ触ってんの――――」


宝物庫の入り口に移動した2人は大きな入り口を見上げていた。


「こんなので、だれも入らないのか」

「もし、無断で入ったりしたら、おそらく、生きては出れないでしょう、そもそもこの扉は王族以外が開けることが出来ないようになっていますから」

「へぇ、そんな仕掛けなのか」

アリサ姫が大きな扉に触ると何もしていないのに自然と扉が内側に向けて開きだした。

「さぁ、フェリクス君、手を出してください」

「え、なんで?」

「王族以外の人が宝物庫に入る時は、この扉をくぐる際に、手を握っていないといけないんです」

「はぁ、わかりました」


何でこんな仕様にしたのか、作成した本人に聞きたいもんだと思ったフェリクスだが、握らないと死ぬと言われたら、手を握るしか、選択肢はないので、出されたアリサ姫の手を握り返した。


そのまま、2人はゆっくりと宝物庫の入口を潜った。


宝物庫の中見はいろいろなもので溢れていた。宝石、剣、旗、指輪、本、何一つとってもそれだけで家を一つは変えるだけの価値はあるだろう。


「どうですか、フェリクス君、何か、欲しいものはありますか?」

「いえ、これといって何も」


入口を抜けて、フェリクスはすぐにアリサ姫から手を解こうとしたが、猛烈な力で解けなかった。


しばらく、宝物庫の中を歩いたが、ふと、フェリクスはあるものに目を止めた。それはモノの陰に隠れていた何も変哲のない指輪だった。


「ほんとにそれでいいんですか、ほかに価値のあるものならいくらでもありますよ」

「価値があるからって俺に必要なものとは限らないよ、俺はこれでいい、これを貰うよ」

「わかりました、学園に帰りますか」

「王様の所に寄らなくていいのかい?」

「別に大丈夫です、それにフェリクス君は寄りたくないでしょう」

「それはそうだけど・・・」

「なら、いいです、早く学園に帰りましょう」


2人は要件が済むと学園に帰っていった。

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