第17話 適正
ウンディーネの頭上にはこの空間を埋め尽くすほどの水が生まれていた。
水がフェリクスに殺到した。たかが水と思っているものもいるかもしれないが、高速で飛んでくれば、ほぼ石と変わらないし、何よりそれだけの大量の水の前では人は何も出来ずに呼吸困難になるだろう。
「死なないように手加減は仕上げるわ」
「それはどうも」
その言葉を皮切りにウンディーネの頭上の水がフェリクスに殺到した。
ウンディーネはフェリクスが水に飲まれる光景を頭の中で浮かべて、ほくそ笑んだが、そんな想像は覆された。
フェリクスの殺到した水は見事に左右に分かれ、水は一滴もフェリクスに掛からなかった。
いつの間にか、その手にはフェリクスの愛刀が握られていた。これで終わりだろうと思っていたら、思わぬ声が聞こえた。
「まだよ」
ウンディーネが声を出したと思ったら、フェリクスの周りの水が意志を持ったようにフェリクスに殺到した。
水はあっという間にフェリクスを取り囲む。今度こそ、やったわとウンディーネは拳を握るがあっけなく、フェリクスを囲んでいた水は弾け飛んだ。
「これで終わりかな」
「なんで、あの人間、水が一滴もかからないのよ~」
「ふふ~ん、言ったとおりでしょ、ウンディーネ、負けを認めなさいよ」
「いえ、まだよ」
「流石にそこまでよ、ウンディーネ」
2回もフェリクスに攻撃を止められたことに耐えられないのか、まだ攻撃を仕掛けようとしたウンディーネを止めたのはアリサ姫だった。
「なんで、アリサも止めるのよ」
「彼はもう十分な力を貴方に示したはずです、ここを水で埋めるつもりですか」
「わかったわよ」
「さて、ウンディーネの気も済んだことですし、貴方の精霊の力、神力を測ろうと思います、これに触れてみてください、フェリクス君」
アリサ姫がフェリクスに渡したものは指で摘まめるぐらいの小さな水晶だった。
「これは水晶ですか?」
「ええ、そうです、その水晶に術式を施して、貴方の神力を測ります、では行きますよ」
「はい、お願いします」
アリサ姫は宣言通り、何かの術式を展開していたが、フェリクスには全くそれが分からなかった。
術式が展開し終わったのか、フェリクスの手の水晶は小さく白い色の光を放っていた。
「そんな・・・」
「・・でこれはどのぐらいの神力を示しているんですか?」
アリサ姫が言葉を失っている中、後ろに控えていたアベルが言葉を発した。
「小さい白い光、どの精霊とも相性がいいのは居らず、神力も1人分に満たないってところだな」
「そんなはずがありません、もう一度、測ります」
しかし、何度測っても結果は変わらなかった。
「そんなにアリサ姫が落ち込むことないですよ、それに精霊使いとしての適性が全くないってわけでもないんでしょう」
「それはそうですが、貴方の力ではあまり強い精霊術は使えませんし・・」
「大丈夫ですよ、幸い俺にはシルフっていう頼もしい精霊がいるじゃないですか」
「しかし・・・」
アリサ姫の話が終わらないと判断したのか、アベルがフェリクスに助け舟を出した。
「アリサ姫、今日はここで終わりませんか、フェリクスもウンディーネとの力試しで疲れただろうし、訓練はまた明日ということで」
「・・・そうですね」
アリサ姫は何故か、フェリクスよりもショックが大きかったのか、とぼとぼと1人で帰って行った。そんなアリサ姫と違い、フェリクスの足取りはいたって軽かった。
「今日の夕食はなんだろな、アベル?」
「お前も大概だな」
いつもと変わらないフェリクスに笑いすら込み上げてきたアベルだったが少しだけフェリクスの精霊使いとしての運命が心配になった。出来る事ことなら、何にもトラブルに巻き込まれないことを心の中で祈った。
部屋に帰り、フェリクスは1番、気になったことをシルフに聞いた。
「なんで、シルフは俺と契約してくれたんだ?他にもっといい精霊使いを探しても良かったんじゃないか?」
「あたしは別に神力や相性で契約する趣味は無いの、そんなのはもうこりごりよ」
「・・・そうか」
何かを察したフェリクスはそれ以上事情を聞かなかった。
「あ、そうだ、シルフの知識を信頼して聞くんだけど、神力を増やす方法を知らないかな」
「知るには知っているけど、地獄を見ることになるわよ」
シルフは過去の記憶からそれには血反吐を吐く様な修行になることが想像できた。そして、修行が上手くいかなかった者は少なからず帰らぬ人となった。
「上等だ」
シルフが見たフェリクスの瞳には只ならぬ、決意が見て取れた。今まで見てきた中で、一番の決意を宿しているとシルフには分かった。何故、そのような決意がするようになったかは知らないが自然とシルフは神力を上げる方法をフェリクスに話していた。
それを聞き終わったとたん、フェリクスはその方法を試していた。
「ちょっと、今からなんて流石に早すぎない?」
「物事に早すぎるなんてことはないよ・・・いざって時に力が足らないよりはずっといいさ」
シルフにはその言葉の意味が分からなったが、何故、この人間がここまで強いのか、いや、強くなったのか分かった気がした。
フェリクスの修行は朝の学校が始まる時間まで続いた。
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