第12話  予想外

フェリクスは焦っていた。長年の経験が目の前の敵は危険だと警報を鳴らしていた。


「ソフィア、自分たちの周りに全力で防御魔法を張れ」


フェリクスは鍔迫り合いをしながら、大声で叫ぶ。しかし、その間にもゆっくりとだがフェリクスは後ろに押され続けていた。鍔迫り合いにしびれを切らしたのか、鎧は直剣を押し返し、後ろに大きく引いた。直後、鎧の姿が霞む。


その姿は目で追えるものではなく、気が付いたらフェリクスの目の前に居た。フェリクスに直剣が迫るがフェリクスは難なく反応する。今度は正面から直剣を受け止めるのではなく、刀身で滑らせ受け流す。鎧は攻撃を受け流されはしたが次々と剣戟をフェリクスに放ってきた。


フェリクスにはまだ余裕が伺えたがフェリクスは攻勢に出なかった。ただ、鎧の剣戟を受け流し続けるだけで相手の様子を見ていた。


「魔法、張り終わりました」


その言葉を待ったと言わんばかりに今度はフェリクスの姿が消えた。フェリクスが現れたのは鎧の死角と言える後ろに現われ、鎧に斬りかかるが鎧は直剣を後ろに回して難なくフェリクスの攻撃を防いだ。


周りの人たちが2人の姿を終えたのはここまでで、あまりの速さに残像が無数に見えるだけで、後は金属音が鳴り響いていた。


いつまでもその状態が続くと思われたが、その均衡はフェリクスによって崩された。同じように刀で撃ち合うように見せて、後ろに受け流しつつその方向へ体を捻り、相手の力を利用して回し蹴りを鎧に繰り出した。


鎧は回し蹴りを受けて、壁までぶっ飛び、砂塵を上げた。そこに隙を逃さず、フェリクスはさらにさっきの倍以上の電撃魔法で追撃をする。


「流石、若」

「やったわね」


レオナルドとクロエが喜びの声を上げたがソフィアとアルの顔は曇ったままだ。


「まだだ」


フェリクスは静かに声を出した。魔力を感知できる者たちは目の前で起こっていることが分かった。


「何、あの魔力・・・」

「まずいまずい」


砂塵の中で明らかに異常な魔力が巻き上がっている。勿論、その魔力の発信源は鎧だろう。砂塵の煙が一筋の線となって伸びた。フェリクスはそれに素早く反応する。


体を半身だけ動かすとその後ろには一筋に溝が出来た。目視不能の攻撃が砂塵で視界が奪われているはずなのにしっかりとフェリクスに向かって飛んでくる。しかし、フェリクスは体を最小限動かすだけでその攻撃を躱す。


砂塵が晴れて、鎧が何をしていたかが露わになる。鎧は直剣に魔力を載せて斬撃として飛ばしていた。しかし、魔力を探知できるフェリクスにとって、さっきより回避するのは簡単だった。


「魔力を使ったのが裏目に出たな」


動き感知できるようになったフェリクスは斬撃をくぐり抜け、刀の一振りによって鎧の胴体を切断した。


戦いは終わったように見えたが切断された鎧は液状になり一つに集まり出した。


「た・・・け・・・」

(何の声だ)


フェリクスは後ろに下がりつつも突然、聞こえた声に周囲を警戒する。しかし、そんな声を出しそうなものは目の前にしかない。


(しかし、攻撃してもきかなそうな相手にどう助ければいい)


これまでの戦闘で自分の攻撃はほぼ効かないとフェリクスは判断した。残る手段は相手が動かなくなるまで、持久戦の様に戦うか、それとも効果がありそうな高火力の魔法で一掃するぐらいしか方法はない。どちらの方法も安全には程遠い方法だ。


そこで突然、いつの間にか、懐に入っていた本がフェリクスの目の前に浮かび上がる。


「お前を使えってことか」


目の前に浮かんだ本が空中で開かれ、中から柄が出て来た。フェリクスはそれを迷わず引き抜いた。


本の中から出て来たのは半透明のだがフェリクスが持っていた刀と全く同じ形の刀だった。右手に自分の刀を持ち、左手に半透明の刀を持った。


それと同時に液状になっていた鎧は元通りになっていた。


「無駄だよ」


しかし、魔力を使用することを変えてない鎧の攻撃はフェリクスには通用しない。そのまま自分の刀で鎧の両腕を肘から切り飛ばし、半透明の刀で鎧を頭から真っ二つにした。


すると鎧の中から真っ二つに割れた光の玉が転がった。鎧はまた液状になって集まることなくそのまま崩れて藻屑となって消えた。


「ふぅ」

「若、そんな隠し玉があるなら、最初から出して下さいよ、ひやひやしましたよ」


鎧が消えて安心したのか、レオナルド達は防御魔法の中から出て来た。


「別にそんないんじゃないさ」

「またまた、そんなこと言って~」

「疲れたから、さっさと奥でお宝を見つけてきてくれるとありがたいんだけど、レオナルド」

「ほら、行くわよ、バカ」

「行きましょう、レオ」


フェリクスの疲労を察したのか、レオナルドを引きずって2人は奥へ消えて行った。

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