第94話 アルビノの魔人の覚醒 ①
オリジナル・ブライの狙いは間違いなくピノアだ。
そして、レオナルドだった。
ふたりは放射性物質の浄化方法をすでに手にしていたからだ。
だから、ピノアとレオナルドだけは絶対に守り切らなければならない。
レンジはそう思っていた。
リバーステラから転移こそしてきたものの、しばらく沈黙を続けていた大艦隊は、突然動いた。
そして、まるで放射性物質の浄化方法など知ったことかとでも言うように、テラに対し宣戦布告をすることすらなく、数千という数の核ミサイルを平気で撃ち込んできた。
ピノアとアンフィス、そしてステラが、飛空艇に待機していてくれなければ、テラは核の炎に包まれていただろう。
核の冬が来ていたことだろう。
ピノアはまず、時を精霊の許可を得て、時を数分間だけ止めた。
仲間たちだけが、動けるように。
そしてアンフィスは、飛空艇オルフェウスの魔法人工頭脳であるソラシドに、攻撃に特化したオメガポリス形態へと移行させた。
世界中に点在していた9998人のブライを殲滅対象とした、あの「余剰次元エーテル超弦理放射砲『カラビ・ヤウ』による超拡散発射」によって、核ミサイルはすべて撃ち落とすことができた。
だが、それは誤りだった。
カラビ・ヤウには、放射性物質や放射能を浄化する機能はないのだ。
無数の核ミサイルによってテラが焦土と化すことだけは免れられたが、空中で爆発した核ミサイルは、世界中に放射能を撒き散らした。
ソラシドは、アンフィスに大気中のダークマター濃度の急激な増加を知らせた。
大気中のほとんどのエーテルがダークマターと化してしまっていた。
アンフィスとステラはすでに、ゴールデン・バタフライ・エフェクトの習得までは済んでいた。
だが、エーテルがなければゴールデン・バタフライ・エフェクトは使えないのだ。
だから3人は、魔人である自らの身体の中にあるエーテルを使わざるを得なかった。
それは、エーテルを使い尽くしてしまったら、魔人でなくなり、ただの人になってしまうというものではなかった。
魔人の身体は、その中にエーテルがただ存在するだけでなく、エーテルと一体化している。
一体化とはつまるところ、エーテルが細胞ひとつひとつと融合し、「エーテル細胞」というべきものに進化しているということだった。
放射性物質に侵され、全身の細胞がガン化し、さらに混沌化を繰り返した末、魔王の身体の身体を構成する細胞は、不老不死の「カオス細胞」となったように。
そのカオス細胞を浄化した際に、魔王の身体が滅したように。
エーテル細胞こそが、魔人を不老長寿の存在としている。
それを魔法の触媒とすれば、エーテル細胞は消滅する。
細胞分裂が間に合わなければ、その肉体は滅びる。
それは、危険極まりない行為であった。
それでも三人は、世界中を黄金の蝶によって覆い尽くし、放射能は浄化された。
すでにステラはもちろん、アンフィスでさえ満身創痍であったが、さらにピノアは「インフィニティ・セクシービームス」によって、艦隊の半数程を沈めた。
三人は、特にピノアは無理をしすぎた。
皆倒れてしまった。
飛空艇には、ニーズヘッグとアルマ、ケツァルコアトルとヨルムンガンドも待機していた。
「ぼくとケツァルコアトル、それにアルマとヨルムンガンドなら、時間はかかるけど、あの戦艦をひとつずつ落としていくことなら可能だ」
「三人ともお疲れ様。
あとはわたしたちにまかせて。
竜騎士と戦乙女の力を見せてあげる」
ニーズヘッグとアルマは、ドラゴンにまたがり、戦艦へと向かって飛んだ。
もはや立つこともままならず、甲板に寝転がっていたステラは、飛び立っていったふたりを見送りながら、
「こんなとき、あの子たちがいてくれたら心強かったのにね」
同じようにそばで転がっていたピノアに言った。
「誰かいたっけ?」
ピノアは、ステラの言う「あの子たち」が誰なのかわからなかった。
「ほら、あなたをずっと敵対視してて、いつの間にか魔術学院からいなくなっちゃった双子の兄弟がいたでしょう?」
ピノアは、「あー、あの生意気なクソガキ」と思い出したが、名前までは覚えてはいなかった。
「ライト・リズム・エブリスタと、リード・ビカム・エブリスタよ。
これからは、精霊だけじゃなくて、人の名前を覚えるんでしょ?」
ステラにそう言われ、ピノアは「そうだね。そうだったね」と言った。
あのふたりなら、ゴールデン・バタフライ・エフェクトをきっと覚えられた。
エブリスタ兄弟が、ピノアを敵対視していたのは、彼女が何度もふたりの名前を間違えたからだった。
いまさらながら、自分は本当に悪いことをしてしまったな、とピノアは思った。
あの兄弟にも、ステラにも。
ピノアには、ステラの身体が今どんな状態なのかがわかってしまったから、ひどく後悔した。
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