第41話 異世界のスマートフォン事情

※ 2020/11/22以前から本作品をお楽しみ頂いてくださっている皆々様へ。


 今話から登場する、大気中のエーテルを計測する機械(マキナ)やカーズウィルス、エウロペの城内の様子、またレンジのスマートフォンに関することなどについては、2020/11/23に物語の序盤を大幅に加筆修正した際の追加設定を元に書かれております。ご了承ください。


 また、2020/11/24には、第28話「テラとリバーステラの暦、聖書、年表など、現在判明していることについて」と、第29話「外典 竜騎士ニーズヘッグ・ファフニールは乗り物に酔いやすい」①~④が追加されております。


 以上、作者からのご連絡でした。

 それでは第41話を張り切ってどうぞ!




 レオナルド・カタルシスを発動した後、レンジは空中で再び甲冑を身にまとった。


 ピノアは背中に相変わらずランドセルを背負っており、そのランドセルから天使の羽根のようなものを広げていた。


 ランドセルから天使の羽根だなんて、もはや狙ってやってるんじゃないかとレンジは思った。よく見たらリコーダーっぽいものもささっていた。


 そのラララ天使の羽根は、レンジの背にも生えており、きっと彼女を嫌っていた風の精霊が、彼女を認めてくれたのだとレンジは思った。

 いや、きっと認めてはくれていたのだ。

 ピノアが何度も名前を間違えるものだから、へそを曲げていただけなのだろう。


 だからふたりは、共に城下町の広場へと、問題なく着地できた。



 広場にはケツァルコアトルが戻ってきており、ステラとニーズヘッグがいた。


 ステラは疲れてはいるものの、元気そうだった。


 危険なことだと理解はしていたが、彼女にダークマターの魔法を使わせてしまい、想像していた以上の苦しみを与えてしまったことをレンジは後悔していた。

 しかし、レオナルド・カタルシスによって彼女の身体に取り込まれてしまったダークマターもまた浄化され、もう痛みはないという。

 今のところ、後遺症のようなものもないとのことだったから安心した。


 城下町のアンデッドたちはすでに彼女たちが片付けてくれていた。



 ステラはその手に、はじめて会ったときに持っていた、スマートフォンのような機械(マキナ)を持っていた。


 あのときは見たのが一瞬だったから気づかなかったが、それはよく見ると背面や側面を覆う、ゼンマイ仕掛けのクマのぬいぐるみが描かれたカバーがついていた。

 レンジの妹が小学校に上がる頃まで好きだった絵本に登場するキャラクターだった。よく絵本を読んで聞かせてあげたのを思いだし、こんな状況だというのに懐かしい気持ちになった。


 背面の上部の左側には、まるでカメラのレンズのようなものがあり、ケースにはそのための穴が空いていた。スマホリングまでついていた。

 その大きさは、レンジが使っていたものと同じくらいで、4~5インチといったところだろうか。


 ステラは背面のリングに中指をかけ、本体画面を親指で操作していた。つまりはタッチパネルだということだ。


 それは、スマートフォンのような機械(マキナ)ではなく、スマホそのものだった。


 違うのは、イヤホンジャックに、おそらくはエーテル濃度を計測するための別のマキナが取り付けられていることくらいだった。

 その形も、女の子たちが使う自撮り用のライトのような形状だった。小6になった妹が確か愛用していた。



「城下町の大気中のエーテル濃度は、二日前のおよそ三倍になってるわ。

 エーテルの枯渇が問題視されはじめる前と大体同じくらいかしら」


 問題視されはじめたのは百数十年前だと聞いていた。

 そのため、エウロペがランスを巻き起こんで戦争を起こし、その戦争によってエーテルの枯渇はさらに深刻化したのだと。



 レンジはステラの持つスマホについて聞いてみることにした。すると、ピノアもスマホを持っていた。

 ピノアのものは不思議の国のアリスをイメージしたであろうイラストの手帳型のケースがついていた。


 彼女たちによれば、100年前にレンジの父がこの世界に最初にスマホをもたらしたということだった。

 父は家電等に詳しく、行列に並ぶほどではなかったらしいが、新しいもの好きだったと聞いていた。

 確か、スマホも流通しはじめてすぐに手に入れていた。


 11年か12年も前のものだから、かなり初期型のものであり、レンジが中学生の頃から使っている格安スマホと比べたら、その機能の差は比べものにならないレベルのものだったろう。

 しかし、父は、同じ携帯電話でもそれまで使っていたガラケーとは全く異なる仕様のそのスマホを大変気に入り、レンジや生まれたばかりの妹の写真や動画をたくさん撮っていた。


 あのスマホは、今どこにあるのだろうか。

 魔王となった父が、今でも持っているのだろうか。


 リバーステラからテラへの一方通行のゲートがこの世界に出来たのは100年前であり、当時はリバーステラ側のゲートが大変不安定で様々な年代から来訪者が訪れたという。

 レンジの父の後の来訪者たちの中にも、スマホがリバーステラで流通しはじめた後の時代から来た者が多数いたということだった。


 しかし、ゲートが安定してから数十年の来訪者は、ガラケーどころか携帯電話自体持っていない者ばかりだったそうだ。

 3~40年ほど前の来訪者は携帯電話を持っていてもショルダーバックほどの大きさであり、2~30年ほど前からガラケーやポケベル(って何?)、たまごっち(これも何?)を持つ者が現れはじめ、10年ほど前からようやくスマホを持った来訪者が訪れるようになったということだった。


 ふたりが持つスマホは、そういった今は亡きリバーステラからの来訪者の遺品をエウロペの魔法学者たちが研究し、エーテルや魔法によって再利用できるようにしたものだということだった。

 おそらくは大気中のエーテルによって、置くだけ充電どころか、常時大気充電されるようになっているのだろう。


 レンジがこの世界に来たばかりのとき、スマホを見ているうちに勝手に電池残量が増えていた。

 ふたりが持つスマホのように、この世界で再利用が可能なように魔法による改良が施されたわけでもないスマホが、なぜ常時大気充電されていたのかは不思議だったが。


 それに、インストールした覚えのないアプリについても。

 確かそのアプリは、「異世界転移アプリ」という名前の、電源が入っている限り常時起動するような仕様のものだった。


 それについては、今考えるべきではなかったから、それ以上は考えないことにした。

 ステラの持つスマホについても今尋ねることではなかった。だが、多少でも皆が休める時間が必要だと考えたから聞いただけだった。


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