第50話 VS ヤクザ屋さん その7

サイド:森下大樹


「ってことで奴らは金融屋を廃業。裁判では職業のせいで印象は最悪。情状酌量の余地は一切なくとことんまでやられる。まあ、これで一件落着だ」


 パトカーが大量に止まっている事務所の前で俺はうんと頷いた。


「……本当に? こんなに……簡単に? あの連中が……崩壊するの?」


 呆気に取られている委員長の肩に俺は掌をポンと置いた。


「まあ、今回はあいつらがアホ過ぎただけだな。っていうか、今時こんなヘタウチなんてヤクザ界ではレジェンド級だろう。基本的にヤクザ屋さんってのは国家におめこぼししてもらって存在している連中だからな。やりすぎた瞬間に袋叩きに遭うのは当たり前だろうさ」


「私たち家族の苦しみって……一体なんだったのかな?」


「だから言ってんだろ? 弱いものイジメっていうか、カモと見ればとことんまで連中はタカるんだ。で、委員長の家はカモだと思われたから超強気にタカられた。で、連中は強いものには――まあ、言い換えれば面倒くさそうな連中には圧倒的な弱みを握らない限りは絶対に手を出さないな。例えば警察や弁護士にはそれはそれは丁寧に頭ペコペコもんでクソ丁寧だぜ?」


「……そうだったんだ」


 何ともいえない表情を委員長が作った時、阿倍野先輩が現れた。


 ちなみに、阿倍野先輩の自宅は超高級マンションのセキュリティーバリバリの最上階なので強襲は不可能と踏んでいた。

 だから、狙われるのは俺と委員長の家なのは明白だった。


 で、阿倍野先輩にお願いして俺の家については警護についてもらっていたわけだ。

 かすかに先輩の服に返り血がついていて、まあ任務は完全に問題なく完了ということだろう。

 

 そして、大量のパトカーを見渡して、ゴルフバックを背負った阿倍野先輩は驚愕の表情を作った。


「誰が通報したの?」


 うんと頷いて俺はニコリと笑った。


「ここらが一番の落としどころだろうと思って……昨日……ちょっとね」


 阿倍野先輩はワナワナと肩を震わせる。


 そして俺に向けて残念なモノを見るような視線を向けてきた。


「どうしたんです? 先輩?」


「森下君っ!? 貴方? 自分が何をしたかを理解しているの?」


「え?」


 深くため息をついて、阿倍野先輩は肩を震わせる。

 コメカミに血管を浮かべていることから、どうやら怒りによるものらしい。


「貴方、本当に何と言うことをしてくれたの?」


「え?」


 阿倍野先輩は俺をキっと睨み付けた。


「この……ビヂグソ野郎がっ!」


 あれ?

 あれれ?

 確か、デレてピチクソ野郎にランクアップしたんじゃなかったっけ?

 ってか、これ……マジギレ状態ですか?


 と、そこで――



「私もノルわよ! 儲け話には一枚かませなさいっ!」


 サカグチさんが嬉々としてこちらに向かって走ってきた。

 ってか、面倒くさい奴が現れたな。

 っちゅーか……この前から儲け話儲け話って何の話だ?


 と、サカグチさんもまた事務所前のパトカーを見て顔を蒼ざめさせた。


「ちょっとこれどういうことよっ!? ゴールドラッシュって聞いたからこっちは来てんのよ!? どうして警察にヤクザを狩らせてんのよっ!?」


「申し訳ないわねレーラ=サカグチ。ヤクザの事務所の家捜しのアルバイトをお願いしたのに……このビヂグソ野郎が警察呼んじゃったのよ」


「家捜し!? 何言ってんですか阿倍野先輩っ!?」


 そこで、俺の右ほほに衝撃が走った。

 つまりは、レーラ=サカグチが放ったビンタが俺の頬にクリティカルで突き刺さったのだ。


「いくらアンタでもこれは許せないかんね!? どーして警察呼んじゃうの!? 空前絶後のビッグイベントが消滅しちゃうじゃないっ!」


 っていうか蹴りまで飛んできた。

 これはたまらないとばかりに俺はその場でうずくまって亀の状態になる。

 続けざま、サカグチさんはゲシゲシと俺を足蹴にするように踏みつけてくる。


「森下君。本当になんと言うことをしてくれたの!」


 阿倍野先輩までもが俺に踏みつけ攻撃を行ってきた。

 美少女二人に踏まれながら――ある種の連中にはこれはご褒美なんだろうなと思いながら――いよいよ俺の頭はクエスチョンマークで埋まっていく。


 あっ、パンツ見えた。


 と、それはさておき……その時パトカーの中から声が聞こえてきた。


「事務所の所長は逃亡。現金を詰めた大きな鞄を持っています。近隣の駅は固めているので遠くには逃げられないはずです」


 その言葉でパァっと阿倍野先輩とサカグチさんは笑みを浮かべた。


「森下君? 索敵のスキルで……ヤクザのボスの居場所を索敵なさい! いますぐっ!」


【スキル:索敵が発動しました】


「いました阿倍野先輩。2キロほど南のビジネスホテルです」


 満足げに頷きながら阿倍野先輩は言った。


「すぐに現地に向かうわよ」


「向かってどうするんですか?」


「今すぐあの金融屋の身柄をさらうのよ」


 女子高生の口から「身柄をさらう」という言葉が出てきた……だとっ!?


 一体全体どういうことなんだ?


「え?」


「奴は相当な額の逃走用資金を持っているはず……」


「……つまり、どうするつもりなんですか?」


「それを全部強奪するのよ。有無は言わせないわ! そう、ここからは――ずっと私達のターンよ!」


「……えええええええええええええええっ!?」




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