第33話 VS九尾の狐 その8

 さてと、どうするかな。

 そろそろサクっと終わらせるか……と俺が思っていたとき、九尾が急に俺に向けて拍手を始めた。


「しかし、ぬしは本当にとんでもないの。まさか我が鼻骨と前歯を折られるとは……このようなことは古代中国で殷……いや、インドで追いやられたとき以来じゃ」


「ああ、まあ……お褒めに預かり光栄だな」


「が、一点気になることがあるのじゃ」


「気になること?」


「うむ」と九尾は頷いた。


「まさかとは思うが……ぬしは我が本気を出していると思っておるか?」


「何……だと?」


俺の言葉に満足げに九尾は頷いた。


「どうやらぬしは我を近接戦闘特化タイプと思っておるようじゃの? しかしそれは違う。我は中~遠距離の呪術師タイプじゃ。そして我は最悪の呪術――絶対の防御陣を隠しておる」


そこで俺は自らの浅はかさを後悔した。

流石に……神と自称する存在だ。


――神。


つまり、下手すればこいつが向こうで言えば魔王以上の存在である可能性は、やはり未だに微粒子ながらに存在している。


【スキル:冷静沈着が発動しました】


【スキル:頭脳明晰が発動しました】


【スキル:油断大敵が発動しました】


【スキル:索敵が発動しました】


【スキル:気配察知が発動しました】


【スキル:戦況把握が発動しました】


ありがとう神の声。

おかげで心が静まってきた。で、まあ、戦況も読めてきた。


俺は猛省し、舐めプレイに過ぎたかと自らの襟を正した。

良し、俺にもう油断は無い。


コキコキと拳を鳴らしながら、俺は九尾に尋ねる。


「つまり、どういうことなんだ?」


「こういうことじゃよ」


九尾から発生する魔力が更に上昇する。

九尾はバックステップで俺から距離を取った。

その距離おおよそ30メートル。


そして、九尾は絶対の自信の笑みを浮かべた。


「ぬしという稀有なる戦力に対し、最初から本気を出さなかった愚……我も猛省せねばならん」


九尾は9字を切り、そして前方5メートルほどの距離に、青白色の半径3メートルほどの五芒星が浮かび上がった。


「これは……?」


「ほう、驚いておるようじゃのう?」


 そりゃあ驚く。

 いや、驚くも何もこれは……


「小童。教えてやろう。これぞ呪術結界じゃ。そうなのじゃ! これはいかなる攻撃も跳ね返す――最強の防御陣じゃ! この術で我は神の一柱まで上り詰めたのじゃ!」


「……」


「ほほ。驚きのあまり声も出まい」


「……」


「これより後、いかなる物理攻撃も魔術攻撃も我には通じぬ! そして我の呪術攻撃はぬしには打ち放題じゃ!」


 カッカと笑う九尾を見て、俺は絶句する。


 そうなのだ。


 俺はこの防御結界の亜種を異世界で見たことがあるのだ。


「ふふ、ほんに驚きのあまり声もでんようじゃのう? まあ、ぬしほどの実力者じゃ。むしろ、この結界の恐ろしさを初見で見抜けることに賞賛を送っておこう」


「お……おう」


 あまりの事に冷や汗を浮かべ、そして驚愕をこらえきれない。


 そして、俺は「なるほど……これが神か」と、絶句した。


「ふふ、ほんに愛い奴じゃ。やはり実力者にしか……見た目だけではこの絶対防御陣の凄さが分からん。ぬしのような……本当の強者にしかな」


「ああ、本当に驚いた。本当の本当に驚いた」


「くふふ、そうじゃろう。そうじゃろう」


 物理攻撃に対する防御結界、そして魔法攻撃に対する防御結界。

 確かに、並みの攻撃なら一切通さないだろう。

 でも……と俺は思う。



 ――ただの上位防御結界ですが。向こうなら上位プリーストなら誰でも使えますが。



 もちろん、姫さんならこのランクの結界を常時に、パッシブでパーティー全員に常にかけている。

 戦闘時限定なら2ランクは上等な奴をかけてくれる。


 魔王の攻撃を何百何千も俺がしのげたのはそのおかげだ。


「まあ、ともかく……その防御結界を俺がぶちぬけばそれで満足なのか?」


「ほう、ぬしほどの強者でも冗談を言うのじゃな?」


「冗談?」


「この防御陣を人間ごときが単独で抜けるわけがあるまいに」


「…………とりあえず、結界をブチ抜けば良いんだな?」


「まあ、できるものならな」


「ちなみにタメの時間はくれるのか?」


「ほう? 本気で我の究極防御を砕く心算か? まあ、よかろう。何分でも溜めれば良かろう。そして全力の一撃が我に通じぬことを悟った時、ぬしは我に心からの恐怖をするのじゃ。今からそれが楽しみじゃのう」


「それじゃあ、まあ、遠慮なく……いかせてもらうぜ」



【スキル:身体能力強化が発動しました】


【スキル:勇者の一撃が発動しました】


【スキル:聖闘気が発動しました】


【スキル:龍闘気が発動しました】


【スキル:魔闘気が発動しました】


【スキル:力溜めが発動しました】


【スキル:鼓舞が発動しました】


【スキル:魔戦士の最後の一撃が発動しました】


【スキル:肉切骨斬が発動しました】


【スキル:金剛神力が発動しました】


【スキル:武神が発動しました】


【スキル:加速が発動しました】


【スキル:電光石火が発動しました】


【スキル:勇者の一撃が重ねがけで発動しました】


【スキル:空前絶後が発動しました】


【スキル:覇者の一撃が発動しました】


【スキル:核熱属性付与が発動しました】


【スキル:量子分解が発動しました】


【スキル:幽子爆発が発動しました】


【スキル:絶対破壊が発動しました】


【スキル:魔術結界無効が発動しました】


【スキル:アルティメットフォースが発動しました】



 いや、だから神の声よ。そんなにスキル要らんから。

そうして、俺はスキルを発動させながら九尾へと歩を進めていく。

 そして九尾の発生させた魔術結界の直前まで歩を進める。


「良しっ!」


 そのまま、腰を深く落として防御結界の前に向き直る。

これでもかと拳を握りしめ、腰だめに拳を構える。



そして。

タメてタメてタメてタメてタメて――



 ――渾身の正拳突きを防御結界向けて放った。


 パリン。

 

 拳の着弾と同時に防御結界はガラス窓の砕け散る音のような感じと共に砕け散った。

 俺は拳をコキコキと鳴らしながら九尾に尋ねた。


「ご自慢の結界……木っ端微塵に砕いたぞ」


 九尾はパクパクパクパクパクと何度も口を開閉させる。


「で、この後……どうすんの? まだ何か技があるなら全部出せよ。全部力技で叩き潰してやっから」


 九尾かの顔が青ざめ、そして端正な顔立ち――通った鼻筋から一本太い鼻水が垂れる。

 更に九尾は白目を剥いて涎まで垂らし始め、そうして、搾り出すように声を出した。



「な、な……な……なっ……なっ……なんじゃ……なんじゃそりゃあ?」



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