第26話 VS九尾の狐 その1
「――イボ痔なのよっ!」
私の決死のカミングアウトを受けて森下大樹はバツの悪そうな顔を作った。
森下母もまた何とも言えない表情を作り、そして阿倍野輝夜ですらも「悪い事聞いちゃったな……」的な表情を作る。
室内に無言の……気まずい時間が流れたところで、森下母がパンと掌を叩いた。
「今日は大樹ちゃんの誕生日パーティーなのですー! それじゃあプレゼント贈呈の時間なのですー!」
トテトテと森下母はキッチンに引っ込んでキラキラとした包みを持ってきた。
そして阿倍野輝夜は鞄の中からラッピングされた小包を取り出した。
と、そこで私の背中に嫌な汗が走った。
ご飯食べさせてくれるって言うから何となくついてきたけど……よくよく考えてみれば誕生日パーティーに手ぶらで行くなんて非常識も良いところだ。
このままプレゼント贈呈の時間となってしまうと、私はイボ痔な上に空気の読めない残念過ぎる外国人ということになってしまう。
ヴァチカンでエリートとして養成された私としては……極東のこんな島国の民族に残念な子という認定されるわけにはいかない。
――とはいえ、プレゼントは持ってきていない。
どうしよう、どうしよう……と思っていたその時、阿倍野輝夜が小包をテーブルの上に置いてため息をついた。
「これは私とレーラ=サカグチからのプレゼントよ森下君」
「あれ? サカグチさんは俺の誕生日を事前に知ってたの?」
「そ、そ、そんなの当たり前じゃないっ!」
と、言いながらも、私は正直驚いていた。
阿倍野輝夜が自然な形で私をフォローしたという……その事実にだ。
血も涙も無い冷血女だと思っていたが……まあ、恥をかかずに済んだのだ。
ともあれ……阿倍野輝夜に対する貸しができてしまった。
――と、まあそんな感じでプレゼントを渡して誕生日会はお開きとなったのだった。
ちなみに、森下母が用意したカラフルなバースデーケーキは本物のペンキで着色されていたので森下大樹ですらも口をつけなかった。
サイド:森下大樹
誕生日の翌日の昼休み。
中庭でサンドイッチを食べていた俺に眼鏡の委員長――村山藤花が話かけてきた。
Gカップの爆乳で、身長157センチ体重52キロのちょいぽちゃのワガママボディだ。
「あの……森下君?」
「ん? どうしたんだ委員長?」
「……これ」
そう言って委員長は俺に小包を差し出してきた。
「これは?」
「お弁当。森下君の為に作ってきたの」
お? お? お?
どういうことだこれは?
「お弁当って……どうして?」
「この前のスクールジャックの時に助けてくれたからさ。そのお礼だよ。頑張って作ったから美味しいと思うよ」
「そういえば俺は委員長を貞操の危機から救ったんだったっけか」
「うん。だからそのお礼だよ」
「……」
うまく状況が飲み込めず、俺は頭をフル回転させつつ色んな事を整理していく。
そして、俺は――
――うおおおおおおお! と、心の底からのガッツポーズを作ってしまった。
そうなのだ。
なんせ、俺の人生の3大目標であるところの、爆乳からの手作りお弁当が達成されてしまったのだ。
ちなみに、阿倍野先輩からの手作り弁当は作った人の性格があまりにも残念なのでノーカンとなっている。
ともかく、これは素直に嬉しい。
「ありがとう委員長!」
「それでね森下君?」
「ん? なんだ?」
「今度の日曜日……空いてるかな?」
「空いてるけど、どうしたの?」
「あのね、そのね?」
「ん?」
「デート……してくれない?」
お?
……お?
――おおおおおおおおおおおっ!?
これは何が起きているんだと俺はほっぺをつまんでひねってみた。
うん、キッチリ痛い。
つまり、夢じゃない。
「デートって……男女がするアレのことだよな?」
「うん。そうなるね」
「そりゃあまたどうして?」
「あのね、そのね?」
「……ん?」
「スクールジャックをやっつけた時の森下君――カッコ良かったよ?」
よっしゃきたあああああああああああああああああああああ!
ついにきた!
やっときた!
苦節19年。
異世界で人を救い続けて3年――挙句にあっちの世界までも救った俺。
常々俺は不思議だったんだ。
普通、勇者って言ったらモテるって相場が決まっているもんだ。
だが、俺は童貞だった。
しかし、遂に、遂に――すべてが報われたのだ。
ようやく、俺は正当な評価を得ることができたのだ。
そう、遂に俺にも――
――モテ期がやってきたっ!
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