第13話 異世界仕込みのパワーレベリングを開始します 中編

「あわ……あわ……あわわ……」


 驚きのあまり、腰を抜かしてしまった私は――その場にへたりこんだのだった。

 そして、倒れこむ私に森下君は手を差し伸べてこう言った。

 

「コーヒーでも飲みに行きましょうか。お互いに色々と話すこともあるみたいですし……ね」


 


 そうして――。

 私達は近くの喫茶店で腹を割って話をすることにした。

 まあ、腹を割ると言っても、祟り神への生贄選抜関連については伏せておいた。

 メル友になって早々に、余命幾ばくも無いと知らせるのはあまりにも……と思ったのだ。

 とりあえず、その辺りについては家督争いで……親戚同士の争いで夜な夜な妖魔の討伐数の競争をしているとごまかした。



 そして彼の事情を聞いて私は驚いた。

 正直、何の冗談かと一笑に伏せようとした。

 が、そもそも私の存在自体が常人からするとファンタジーのようなものだから……と、半信半疑で真偽の判断については保留と言う事にした。







 サイド:森下大樹


 と、まあ、そんなこんなで俺は今……阿倍野先輩と喫茶店でコーヒーを飲んでいる訳だ。

 正直な話、彼女の話を聞いて思った感想は――


 ――おいおいマジかよ。


 と言うものだった。

 まさか俺たちの世界の裏側でリアル中2ワールドが広がっていただなんて……。


 いや、でもよくよく考えてみると俺の存在自体がファンタジーだし、この人たちの事を俺がとやかく言う権利はないな。

 嘘をついているようでもないし、とりあえず先輩の言ってることはマジだと判断しようか。


「ええと……阿倍野先輩?」


「何?」


「さっきの土蜘蛛って言うのは……相当に強い魔物って事で良いんですよね?」


「そうなるわね」


 うーむ……と俺は首を傾げる。

 さっきの蜘蛛はビッグスパイダーくらいの強さで、ギルドの駆け出し冒険者程度じゃあ対処できない魔物だろう。

 まあ、逆に言うとベテラン以上なら単独で簡単に対応できる程度なんだけど……。 


「阿倍野先輩? 今から貴方のステータスを鑑定したいんですが……」


「ステータス測……定?」


「そうです。嫌なら嫌、良いなら良いって思ってください。ただそれだけです。相手の同意がなければ成り立たないスキルです」


【スキル:ステータス測定が発動しました】


 一瞬だけ阿倍野先輩は目を見開いて、そして小さく頷いた。

 よしよし、どうやらステータス閲覧を許可してくれたみたいだな。


 次の瞬間に先輩のステータス情報が俺の頭の中に流れ込んでくる。

 ちなみに、俺のステータスはこんな感じだ。


名前:ダイキ=モリシタ

種族:ヒューマン

職業:勇者

状態:通常

レベル:78

HP :6455/6455

MP :1850/1850


攻撃力:4650

防御力:3209

魔力 :2700

回避 :2824



そしてこれが異世界人のレベル1の一般人のステータス。


名前:モブキャラ

種族:ヒューマン

職業:村人

状態:通常

レベル:1

HP :35/35

MP :10/10


攻撃力:35

防御力:32

魔力 :8

回避 :14


 で、これが阿倍野先輩だ。



名前:カグヤ=アベノ

種族:ヒューマン

職業:巫女

状態:通常

レベル:1


HP :352/352

MP :378/378


攻撃力:280

防御力:240

魔力 :320

回避 :240



・スキル

 阿倍野流退魔符術(レベル3)

 合気道(レベル2)

 刀術(レベル2)

 身体能力強化(レベル2)

 反射神経強化(レベル2)



 レベル1にしては驚異的なステータスであることは認めよう。

 っていうか、これはレベルアップボーナスでステータスを上昇させたんじゃなくて、訓練による努力値で叩き上げたものだろう。

 そういう意味では本当に驚愕するレベルなんだが……。



 まあ、ぶっちゃけたところ駆け出し冒険者に毛が生えた程度だ。



 冒険者のレベルで換算すると6~8程度ってところだろうか。

 他にも、阿倍野先輩のスキルも相当に貧弱だ。

 向こうの世界では自分の努力で剣術なり魔術なりのスキルのレベルアップを行う事はできる。

 が、それはあくまでも補佐的なものだ。

 スキルを鍛えるには、レベルアップに伴うボーナスでスキルレベルを上げるというのが王道であり最短距離であることは向こうの世界では常識なのだ。


「まあ、とりあえず阿倍野先輩は親戚の中では落ちこぼれで……強くなりたいんですよね?」


「森下君のようなピチクソ野郎に落ちこぼれと言われると、正直……心外ね。まあ、事実なだけに反論のしようもないけれど」


「ピチクソ? ビヂグソじゃなくて?」


「キミの力を認めて少しデレたのよ。ビヂグソからピチクソにランクアップしたわ。喜びなさい」


 デレたのか!?

 これでデレているのか!?

 まあ、確かに語感の響き的には若干……可愛らしさはアップしているな。


「で、強くならなくちゃ困るんでしょう? 遺産相続争いだか家督相続だか何だか分かりませんが、数日に一回行われている妖怪討伐大会で最下位になっちゃうと……大変なことになるんでしょうに」


「まあ、確かに貴方の言うとおりに……強くならなければ大変な事になるわね。それはもう……半端ではなく……困った事になるわ」


 俺はしばし考えて頷いた。

 店員を呼んで二人分のコーヒーの会計を終わらせる。


「それじゃあ先輩? ちょっと学校の屋上に行きましょうか」


「屋上? どうして?」


「強くなりたいんでしょう?」


「どういう……事?」


「こちらの世界ではレベルと経験値の概念がないようですね」


 そうなのだ。だから阿倍野先輩のレベルは1なのだ。

 実際、口裂け女を倒して時も土蜘蛛を倒した時も……俺への経験値の取得が行われなかったのだ。

 異世界では魔物を殺せば、死骸から淡い粒子が発生して、俺の心臓に流れ込んでくると相場が決まっている。


 その粒子は倒した魔物の魂そのものが変質した粒子だ。

 つまりは、魂そのものを取り込んで、いや、違うな。

 正確に言うのであれば、敵の魂を喰らって取り込んで自らの魂を強化させるという事が、つまりはレベルアップという現象なのだ。


「レベル……? 経験値?」


 日本では魔物を倒してもレベルアップはできない。

 けれど、異世界では魔物を倒せばレベルアップできる。

 だから俺はとんでもない次元の戦闘能力を誇っているし、恐らくは日夜修練に励んでる阿倍野先輩が……どれだけ頑張ったところで、所詮は『レベル1の割には』驚異的と言われる程度の力しかない。


 ――けれど。

 俺と異世界が特別なんじゃなくて……ただ、この世界のバケモノに経験値が無いだけだったとしたら?



 そうであれば、阿倍野先輩は――。



「任せてください。策があるんですよ。上手くいけば今より1.5倍程度には強くなれます。それも……数時間でね」






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