第121話
「余計なお世話って奴です!」
私の言葉でリュートはクスリと笑った。
「ああ、そうだよな。コーデリア。お前ならそう言うと思ったよ。さあ、女神様? こちらの意見はまとまったぜ?」
そこで女神は物憂げな表情を作り、深くため息をついた。
「……貴方たちの意見がまとまったとして、システムの管理者である私がそれを是とすると?」
「ああ、ただの管理者……機械ならそうだろうな」
「どういうことでしょうか?」
「――だが、アンタは人間だ」
リュートの言葉で女神はギョっとした表情を作った。
「……え?」
「いや、少なくとも人間性を持っている。ひょっとするとアンタは人間をベースに作られているんじゃないか?」
「……何故にそう思うのです?」
「俺が死に戻ったとき、アンタは嬉しそうに笑って……そして限界を突破した農作物栽培スキルを授けてくれじゃないか」
そこで女神はお手上げだとばかりに方をすくめた。
「なるほど、そういうことですか。まあ、確かに私は私を作り出した開発者の一人をベースとして作られた存在ではありますね」
「それに、かつての龍族相手に……この世界の状況について、聞く耳を持ったよな?」
「ええ、この場を設けることを約束しましたが?」
「だったら、アンタにはやっぱり聞く耳もあるし、ある程度の選択肢すらあるわけだ。いや、俺とこうして話をしている時点で、アンタ自身が……迷っていることの証拠にもなるんだよ」
「……まあ、隠すつもりもありませんのでお伝えしましょうか。このシステムは何から何までがエゴで……関係者の全員が決断を先送りにした結果の産物です。開発者すらもどうして良いかわからず、ただのシステムの管理者にすぎない、私のような者にすら選択肢を与えてしまっているのですからね」
「それでアンタもずっと決断ができなかったってことだよな?」
「ええ、貴方のいうように選択肢は二つですね。一つは現状維持、そしてもう一つはステータスを捨て、システムから脱却することです。無論、武装解除も可能です」
「なら……アンタを機械ではなく、人間の心を持つ者として話をする。聞いてくれ」
「はい、何でしょうか?」
「ナノマシンの解除を行うと、後戻りのできないことになる。でも……俺に、いや、俺たちに世界の未来を委ねてほしいんだ」
「……仮に貴方たちの言うとおりにシステムの庇護なしで人類が魔物に対処できるようになったとして、そうだとして文明の行く末はどうなりますか? 科学文明の終着点は自滅です。それは変わりません」
リュートが何かを言おうとして、女神はその言葉を手で制した。
「最終的に、相対性理論……分子と原子の織り成す神の力。最後は犯罪組織の次元でその所有が可能になります。どのようにして自滅を回避できるのでしょう? 環境破壊も人が人である以上は資源の最適効率運用など不可能です。必ず大地を蝕み、そして臨界を迎えます」
何のことを言っているかは私には分からない。
リュートが黙っているところを見ると、痛いところを突かれているんだろう。
けど、私は……どうにも全てを決め付けてかかっている女神が気に食わない。
「女神様? 私たちには手足があります。考える頭もあります。私たちは必ずどんな困難だって……乗り越えてみせます。それこそ、村人からここまで這い上がったリュートみたいに。乗り越えられない壁なんてないんです」
私の言葉で女神は話にならないとばかりに首を左右に振った。
「しかし、それをするのは貴方たちの世代ではありませんよ? 結局は貴方たちも全てを先送りにして、後の世代に丸投げするだけではありませんか?」
そこで、リュートがコンとテーブルを叩いた。
「いや、俺たちだ」
「……?」
「俺たちが子を作り、その子が育ち……未来へとつながっていくんだ。無責任かもしれねーが、遥か未来のそこに俺たちの意思は必ず残す。かつての地球と同じテツは踏まないようにする……いや、踏まさせない」
「……本当に何から何まで無責任ですね。少しはこちらの気にもなってくださいな」
「あいにくだが俺はアンタじゃねえからな」
リュートの言葉で女神は困ったような顔をして、そして――
――駄目な子供を見るような何ともいえない優しい微笑を作った。
「何から何まで不完全。しかし、それでこそ人間なのでしょうね」
「ああ、不完全だからこそ俺たちには多様性がある。だから、工夫次第ではこの手で何だって掴めるはずだ」
諦めたように女神は肩をすくめ、そしてサジを投げたとばかりに両手を挙げた。
「お好きにしなさいな」
「ってことは……ナノマシンによる武装解除をやってくれるのか?」
「最後は人間らしく争って決めなさい。現状維持を望むモーゼズと、支配からの脱却を望む貴方。理想や弁論ではなく――戦って正しさを証明しなさいな。私は勝者の論理に従いましょう」
「……そういう分かりやすいのは嫌いじゃねーぜ」
「ただし、私は情にほだされたわけではありません。私に人間性という遊びを持たせた開発者と、そして龍族の覚悟を考慮しての結果です。そもそもの選択肢として、当初から……貴方達の案は予定されていた解回答の一つではありますしね」
「ああ、感謝する」
こうして――女神との会談は終わり、最後の戦いが始まったのだった。
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