第146話 救援活動への出発
「マールさまぁ、ある程度の掃除・片付けは終わりましたので、そちらの方を手伝いましょうか?」
ツヴァイが私に声をかけてくる。広間に目をやると、確かに散乱していたガラス片は片づけられたようだ。
「では、そうですね。地図を何枚か… 30枚ほど写してもらえますか? あまり細かくなくていいです。ここの館との場所の関係が分かれば十分です」
「分かりました。マールさま」
「がんばるにゃん」
ツヴァイとくるみは私の指示を受け、早速、地図の写しに取り掛かる。前に温泉館の見取り図の写しをした時に、あっという間に写しを作ってくれたので、二人なら大丈夫であろう。
「マールたん!」
そこへ転生者の一人がやってくる。
「転生者の皆さんの様子はどうですか?」
「最初の四人は今、魔力回復薬を飲ませて安静にしている、大丈夫そうだ。その四人を含めて、休息が必要なものは20人程だ。辛うじて動けるものは30人、行動に問題ないものは39人だ。10人は赤ん坊だし、カオリは…」
そこで転生者の言葉が詰まる。カオリは今、ベルクードにいるはずである。無事であればよいが…
「魔法を使えるものは?」
「いや、今の状態では殆どの者が使えない。工房で魔力回復薬を作っているが、休息が必要な者に回している。それでいいかな?」
「はい、それで結構です。では、動けるもので領内の各地を回ってもらい、領民の安否確認や、要救護者の救護を行って欲しいのです」」
転生者は私の言葉に納得して頷く。
「では、行先と名簿があれば欲しい」
「今、準備している所です。それよりも携帯魔話は私が持っている以外にも工房にありませんか? 各地を回るものに持っていて欲しいのですが」
「分かった。ちょっと確認してくる」
そういって転生者は即座に工房へと向かう。入れ替わりに広間にファルーがやってくる。
「マールお嬢様、館の方は衝撃やガラス片で怪我をしたものはいますが、死者はおりません。全員、マール様にお仕えできる状態です」
「分かりました。今後、ここは避難民を受け入れる可能性が高いです。その為の体制を整えてもらえますか? 例えば、寝具が何人分あるとか、本館には何人受け入れできるか、豆腐寮と温泉館にも何人受け入れられるか調べて下さい。また、避難民を受け入れるので、ガラス片などの危険物の掃除もお願いします。後、作り置き出来る料理もたくさん作っておいて下さい」
「分かりました!お嬢様、このファルーにお任せください!」
ファルーは意気込み高く、次の行動に取り掛かっていく。次にリソンがあまり良くない顔をしてやってくる。
「リソン、顔色が良くない様ですが、温泉館の様子はどうでしたか?」
「はい…被害状況はこことあまり大差はございません。お客様も衝撃で転がった時にぶつけた程度の怪我でございますが…」
そこでリソンが言葉に詰まる。そこから先の事は私でも分かる。同じ立場なら私でもいうだろうから。
「早く、帝都に返せと仰っているんですね?」
「はい、左様でございます…」
私でもこの様な事態に遭遇すれば、一刻も早く領地へ戻るであろう。
「リソンに気苦労をかけますが、お客様に転移魔方陣を作動させる人員は、彗星の直撃を避ける為、魔力を使い果たした。回復次第、転移いたしますのでそれまでお待ち下さいとお伝え願いますか?」
「わ、分かりました。マール様…」
リソンの立場では、貴族に対してお断りを入れるのは大変な苦労だと思うが、今、私がその様な事に時間を取られる訳にはいかない。リソンに頼むしかないのだ。
「マールさま! できました!」
ツヴァイが声をあげる。
「ありがとうございます。では次は領民台帳を写してもらえますか? これは一部でいいので手分けしてお願いします」
「はい、分かりましたにゃん!」
くるみが答える。
こういう時にこの二人は頼もしい、写しをつくるなら人間ではとても及ばない速さで行ってくれる。
「マールたん! 工房で携帯魔話を探してきた! 今、10台程あったよ!」
「分かりました。後、馬と荷馬車の準備もすぐに出せるようにしておいて下さい。それから、手の空いている者がいれば、厨房に行って先に食事を取って下さい。しばらくの間、食事を取る時間がないと思いますので、今の内にたくさん食べておいて下さい」
「分かった!すぐに取り掛かる!」
報告に来た転生者が一階に降りていき、下で動ける者に対して指示をしているのが聞こえてくる。
「厩舎に言って馬と荷馬車の準備をしておけ! やる事がない奴は厨房いって飯食ってこい! これから忙しくなるから飯食ってる暇はなくなるぞ!!」
こうして、皆、自発的に指示を出して動いてくれることは助かる。
「街やその近辺をのぞいた領民はこれで全部よ」
領民台帳を読み上げていたトーカが読み上げを終わった事を告げる。私は前のめりで地図に書き込んでいた姿勢を正し、地図から身体を離して地図全体を見渡す。地図にはトーカが読み上げていった地点に白丸が書き込まれており、これで領地全体の人口分布が分かるようになる。
「この地図を基に安否確認や救護のルートを考えないと…」
「ちょっと、結構ばらけてるわね…」
トーカが地図を覗き込んで言う。
「そうですね、ここは辺境ですから、皆、思い思いの場所で開拓を始めましたからね」
「で、これからどうするの?」
「南西の街の方向は基本、安否確認を主にやっていきましょう。被災者や家を失った人は街で受け入れてもらいましょう。問題はそれ以外の各方面ですね。本来なら全部の方向に人をやりたいのですが、人員や馬の数、連絡手段なので、絞らないといけません」
私は、道の流れや分岐、それに合わせた人口分布を見ながら考え込む。すると再び一階から転生者が上ってくる。
「一応、馬が12頭、荷馬車が5台、馬車が2台使えそうだ。他の馬は騒動で、暴れたり怪我したりで使えない」
これが今、私が使える全てか…
「では、代表に8名程連れてきてくれますか?」
転生者は頷くと一階に戻り、他の転生者に声をかけて戻ってくる。
「では馬2頭で街の方向へ向かうのが一組、街の住民の安否確認をするように街の長にお願いして下さい。それから街の方面の被災者や負傷者の受け入れもお願いして下さい」
「分かった」
「あと、荷馬車5台はそれぞれの組を作って、各地へ行ってもらいます。各自、携帯魔話を一台持つようにお願いします。何かあれば私に連絡して下さい」
転生者たちは頷く。
「残りの普通の馬車2台は?」
「その2台は重傷者などの荷馬車では運べない人を見つけた時に向かわせます。それまでは待機です」
「なるほど、分かった」
「これが領民台帳の写しと地図です。では、残りの方は直ちに出発してもらえますか?」
それぞれの転生者に資料を渡す。
「分かった。すぐに行ってくる」
転生者たちはそういうと一階へと降りていく。私も見送りの為に一緒に一階へと降りる。
一階に降りるとすでに出発の準備が出来たものが並んでおり、代表の者が合流すると、一組また一組と出発していく。
こうして転生者たちを見送りつつ、長い夜が始まったのであった。
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