第131話 メイドゴーレムは好評発売中です
「うぅ…腕が痛い…筋肉痛が…」
ペンで文字を書く度に両腕の筋肉が痛む。
「マールさまぁ~ 私がおもみしましょうか?」
ツヴァイが手をわきわきしながらやって来る。
「いえ、結構です…」
「マール…貴方、ちょっと、エアホッケーに熱を入れすぎなのよ…」
トーカは眉を顰めているが、口元には笑みを浮かべている。
「だって、カオリさんに中々勝てなくて…」
「だからって毎日毎日、あんなにやらなくてもいいのに…」
私はここ最近、ずっと入浴前にエアホッケーで遊んでいる。しかし、一度もカオリに勝てない…
「カオリさんはそろそろ、次のピンポンを作ってみようかと仰っています。なので、勝ち逃げされる前に、一度ぐらいは勝たないと…」
「まぁ、程々にね… それより、この前言っていた、競馬の申請書類出来たわよ」
トーカはそう言って、書類の束を私に渡す。
「ありがとうございます。では、これから法務局に行ってきますね。トーヤさんに何か事付けはありますか?」
私の言葉にトーカは少し考え込み、そして、暫くしてから私に向き直る。
「特にないわ、でも、疲れた時には温泉に入りに来てと伝えて於いて」
トーカさんなりの気遣った言葉であろう。
「分かりました。伝えておきます」
さて、同行させるメイドは誰にしようか…ツヴァイは置いて行こう。今日の担当はリーレンか…
「リーレン、付いてきて」
「分かりました。マール様」
リーレンは耳をピクピクさせながら答える。多分、この耳は帝都での買い食いを期待しているのであろう…ちょっとぐらいなら食べさせてもいいかな?
そうして、私が執務室から出ようとすると、丁度、執務室に入って来たセクレタさんと鉢合わせになる。
「マールちゃん、どこへいくの?」
「これから、法務局へ競馬の申請書類を出しに行くんですよ」
「あら、そうなの、丁度いいわ」
「丁度いいってなんですか?」
セクレタさんは並んで、廊下を歩き出す。
「メイドゴーレムの材料の買出しにいかなくちゃ駄目なのよ」
「えぇ!? あんなにいるのにまだ作るんですか?」
私はセクレタさんの言葉に驚いて声を上げる。
「そうよ、そろそろ入札が確定するメイドがいるから、その代わりね」
「売れたらおしまいじゃないんですね…」
「そうよ、商品としてではなく、人手としても使っているから、売れそうなら新しいのを作らないとダメなのよ」
確かに、今の温泉館であのメイドゴーレム達の人手がなくなったら、業務が回らなくなるな…
「では、いっその事、業務用のメイドを大量生産します?」
「それは私も考えたのだけど…」
セクレタさんが言葉を濁す。
「何かあるのですか?」
「転生者達が言うにはそれはダメらしいのよ」
「転生者達がですが?」
珍しい事にセクレタさんが転生者達の意見を取り入れて悩んでいる。
「私は正直、あのメイド達の良さはそんなに分からないけど、お客さんの貴族の反応を見ていると、転生者達のメイドに対する感性は間違いじゃないのよね…」
「あぁ、確かに皆さん、メイド目当てに来てますからね…」
私たちは本館を出て陸橋に出る。
「だから、メイドの作成に関しては、悔しいけどあの転生者達の意見に従うしかないのよ」
「それで、転生者達はなんて言っているんですか?」
私たちは豆腐寮の広間に入る。
「今あるメイドが売れても、同じものはよっぽどの事が無い限り作らない。その都度、新しいメイドを作らないといけないって」
「えっ?どうしてなんでしょ?人気があるなら、同じものを作ればよく売れるんじゃないですか?」
私たちは豆腐寮の広間を通り抜け、再び陸橋にでる。
「それだと希少価値が下がるそうなのよ、だから大量生産のはダメらしいわ」
私はその話を聞いて、自分自身がカメオを買う時の事を思い出す。
「あぁ、なんとなく分かる気がします。一点ものだからこそ、その時に買わなければと思いますね」
「まぁ、私も何となく理屈は分かるのだけど、それが人工物とは言え、メイドに当てはまるとは思っていなかったわ」
確かに、メイドゴーレムと知っていなければ、人身売買の様なものだし、人に対して一点ものだとか、普通は思わない。
私たちは陸橋を曲がり、転移魔法陣のある建屋に向かう。
「兎に角、近日中に10体程、売れそうだから、その分の材料を買ってきて、新たに作らせないとダメなのよ」
「へぇ~10体も売れそうなんですか」
建屋の扉を開け、中に入り、中の階段を降りていく。
「ちょっと、いいかしら、これから帝都に行くから、馬車を用意してもらえる? 買出しもするから荷馬車もお願いね」
セクレタさんが転移作業にあたっていた転生者に声をかける。
「セクレタ様、分かりました」
転生者はセクレタさんに恭しく答える。先日のくるみの件がまだ尾を引いているのか…
「しかし、10体分なら、結構な金額と量になりそうですね…」
「いえ、購入するのは20体分になるかしら」
「えっ? 倍ですか?」
私はセクレタさんに向き直って、目を丸くする。
「そうよ、作ってもらうのだから、ご褒美は上げないとね、手を抜かれても困るし」
「でも、ゴーレムの材料は結構高いんじゃないですか?」
「あら、これから売れる金額からすれば、可愛いものよ。私からすれば、粘土を買って来たら金塊になって売れる感じね」
私は、メイド達のパネルをまじまじと見ていないので知らなかったが、なんだか、そんな恐ろしい金額になっているのか…
私達がそうこう話していると、私たちの馬車がやって来る。
「では、法務局の方は時間が差し迫っているから、先に行って、その後、魔術道具屋や工房に行きましょうか」
「そうですね」
そうして、私たちは帝都に向けて転移し、先ず法務局に向かう。
法務局の受付では、トーカが書類を上手く纏めてくれていたので、順調に申請はすすんだのだが、受け付ける際、ちょっと奇妙な事があった。
私が受付に書類を提出すると、受付の男性職員が私の名前を見て、『あぁ、あのマール様ですか』と口にした。はて? 私はそんな有名になる事をしたのであろうか?
次に向かった魔法関係の店や工房に言っても、『あのマール様でございますね』と謂われる。なんで、私の名前に『あの』が付くのであろう…
極めつけは、リーレンと買い食いする為に寄った露店ですら、『あのマール様か』と謂われる始末… 一体、帝都で私についてどんな噂が流れているのであろう…
色々と思う所はあるが、結局、噂は聞けずじまいで帝都を後にする事になった。ちなみに、トーヤは忙しくしているらしく、会う事が出来なかった。
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