第123話 メイド喫茶マール店

「マールさまぁ~☆ お茶のお代わりはいかかですか?」


私はその声に、背中がぞわりとして、さぶイボが出来始める。


「いえ、結構です…」


私はそっけなく答える。


「えぇ~ では、お食事をあーん☆して差し上げましょうか?」


メイド姿をした者は、更に私への奉仕を望んでくる。


「もっと結構です!」


私は声を荒げる。


「えぇ~ マールさまぁ~つれないですぅ~ では、他の方にご奉仕してきますね☆」


「駄目です! 貴方は私の側に居なさい!!」


私は立ち上がって声を上げる。


「分かりましたぁ~ マールさま☆」


そう言って、私の声、姿、形をしたメイドはにっこり微笑む。


「どうして…こんな事になってしまったのでしょう…」


私は再び、席に着き、頭を抱える。


 私の目の前には、転生者とその転生者に奉仕する、くるみの着ていた、あのいかがわしいメイド服のメイド達が、たむろしている。どの転生者も鼻の下を伸ばしながら、メイドの奉仕を受けて食事を採っている…



 何故、このような事になっているのかと言うと、先日、メイドゴーレム完成の目途が立ったと報告があり、そして完成品の検分を行う時に、私の姿のゴーレムを発見したのである。


 私は直ぐに取り上げる事に決めた。しかし、二体作っているはずだが、一体しかいない。私は、工房の業務を全て停止させ、自らの手で工房内や豆腐寮を捜索したが、一体しかいなかった。作成した転生者が言うには、作成中に事故で喪失したそうだ…ホントならいいけど…


 私は、私の姿のメイドゴーレムを作った者に罰として、その転生者の姿のメイドゴーレムにする事を決めたが… 私は会場にいるその転生者に視線を移す。その転生者は自分と同じ姿のメイドゴーレムといちゃいちゃして、満更でもなさそうにしている…なんだか、腹が立つ…


「マールちゃん、なんだか大変ね…」


落ち込む私にセクレタさんが声をかけてくる。


「でも、許可したのは私ですから… しかし、自分の姿のメイドゴーレムを作られるとは思いませんでしたよ…」


私の姿のメイドゴーレムは私の傍で微笑んでいる。


「しかし、ホント、マールちゃんにそっくりね…」


「えぇ… 私も驚きましたよ… 最初はあのいかがわしいメイド服を着せられていたので、着替えさせようとしたら、体型まで、私とほんの少しの狂いもなく一緒だったんですよ…どうして、私の体型の寸法が知られたんでしょうね…ははは」


私は乾いた笑いをする。


「で、マールちゃん。このメイドゴーレムはどうするの?このままマールちゃん専属のメイドにするの?」


「そうですね…私の姿、私の声、私の体型…更に余計なものまで作られていますからね…他人の手に渡すことは出来ませんよ… 中身も私と同じなら、二人で仕事をする事も可能だったんですが… 中身がくるみと同じですからね… もう…なんていうか… 自分の声、姿で痛い言動をされるのが…辛くて辛くて… これは何の罰なんでしょうね…」


セクレタさんも自分が同様の事になったらと想像している様で、言葉が出ない様だ。


「…私が、この子を壊したら…私は殺人になるんでしょうか…それとも自殺になるんでしょうかね…」


 人は本当の自分を知るのが怖い、もし自分と同じ存在に出会ったら、同族嫌悪とか自己嫌悪を抱くと聞いたことがあるが、私の場合はどうなのであろう… 中身がくるみだし…


「マールはん…堪忍な…うちが事前に止める事出来へんかって…」


私の落ち込む様にカオリが謝罪の言葉を述べてくる。


「カオリさんが作ったのではないので、気に病む必要はありませんよ」


私は項垂れたまま答える。


「カオリお嬢様、お茶のお代わりはいかがですか?」


トーヤに似た魅力的な男性の声がカオリの方から聞こえる。


「いや、今、うちはマールはんと話しているから、後でええわ」


「左様でございますか、カオリお嬢様」


 私はカオリの方をチラリと見る。そこには執事服を着た男性がカオリの側に控えている。


「えっと、カオリさん…」


私は目だけカオリに向けながら声をかける。


「なに?マールはん」


「どうして、その執事ゴーレムは袋を被っているんですか?」


 カオリの執事ゴーレムの頭には、カオリが以前被っていた、にこやかなおじさんの絵が描かれた袋を被せられている。


「あぁ…やっぱりそこが気になる?」


「いや、気になるというか…不自然というか…」


多分、気にならない人はいないであろう。


「実は、うちの分もメイドゴーレム作るって話になってたんやけど…造形は自分でしろって言われてん…」


カオリはしょぼんとする。


「カオリさんが身体を作られたんですか?」


「せやで… あぁ! もちろん、へんなもんはつけてへんで」


カオリは赤面して答える。


「いや、そんな事は聞いていませんが…」


「あぁ…せやな、まぁ、話は戻るけど、うち、絵描くのやったり、物つくるの下手くそやから、美味い事つくれへんかってん… せやけど、声だけはええから噛み合わへんというか、アンバランスというか…だから、袋被せる事にしたんや」


袋を被せるのもどうかと思うが…


「そ、そうだったんですか…」


「そやねん、あいつら、作るの上手いのに、作ってくれへんかってん。…いけずやろ?」


そう言ってカオリは唇を尖らせる。


「頼んでも駄目だったんですか?」


「なんでも、メイドゴーレムの人格部分を弄るのが難しいって話で、うちの執事の人格作るので手一杯やったって言ってたな… だから、他のメイドゴーレムの中身は殆どくるみのままらしいで」


それで、私のメイドも中身がくるみなのか…


 私がカオリとそんな事を話していると、トーカも食堂に姿を現す。そして、トーカはカオリとカオリの執事ゴーレムの姿を見つけるとカオリの所へ進み、その横に腰を掛ける。


「ようこそ、トーカお嬢様。お茶は如何ですか?」


執事ゴーレムがトーヤの声で、トーカに問いかける。


 私は、勝手に兄であるトーヤの声を使われて、トーカが激高するのではないかと思っていたが、トーカはすんなりとその申出を受け入れる。


「えぇ、頂くわ」


トーカはご満悦の表情で、トーヤの声の袋を被った執事ゴーレムから奉仕を受ける。


 えぇぇ… それ、アリなんですか…


「トーカはん、頭の袋はあれやけど、声はええ感じやろ?」


カオリがトーカに話しかける。


「えぇ、お兄様に奉仕されているようで、なんだかいい気分だわ」


えぇ!トーカさん、それをうけいれちゃうんですか!


 その情景を見ていると、この状態を受け入れていないのは私だけで、皆が既に受け入れているように思える…


一体、私の館はこれからどうなっていくのであろうか…


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