第122話 第35回転生者会議
「カオリン! ここにいたのか! 緊急事態だ!」
貯蔵室でビールの試飲をしているカオリの所に、転生者の一人が駆け込んでくる。
「そないに慌てて、どないしたんやな?」
カオリはゲップが出そうなのを手で押さえる。
「緊急の転生者会議を執り行わないといけなくなった! 司会であるカオリンも早く来てくれ!!」
いつもは下らない事を話し合っているが、今日に限っては結構真剣な顔をしている。
「分かった、うちも行くわ!」
カオリは呼びに来た転生者に続いて、いつも転生者会議を行う食堂へ向かう。食堂ではカオリの到着を待つばかりになっていて、皆、カオリの姿に真剣な眼差しで注目する。
「よっこいしょっと」
カオリはいつもの上座の指定席に腰をおろし、喉を潤す為の水に手を伸ばす。
「で、今日の議題はなんなん?」
「その…女性のアレだ」
転生者は少し躊躇いがちであったがストレートに答える。その回答にカオリは口に含んでいた水をぶっと吹き出す。
「うち、今まであんたらの変な会議に付き合って来たけど、流石にこんなストレートなんは無かったわ。てか、なんでうちがこんなんの会議の司会をせなあかんの?」
カオリは咳込みながら抗議の声を上げる。
「メイドゴーレム作成の造形部から連絡があって、皆、女性のアレの形を知らないそうだ…これではメイドゴーレムを作る事が出来ない!」
カオリは頭を抱え込む。
「なんでうちが、こんな事に付き合わなあかんのや…」
「誰か見た事のある奴や、知っている奴はいないのか!」
しかし、会場の転生者達は、皆、悔しそうに項垂れて押し黙る。
「みんなええ歳して、彼女もおらへんかったんかいな…」
「クッソ! 黒塗りやモザイクが無ければ…」
「俺も断面図なら知っているのだが…」
皆、悔しがる言葉ばかりで、知りうるものが一人も声を上げない。
「こうなったら、誰かに見せてもらうしか…」
転生者の代表の言葉にカオリらの視線がうちに集中する。
「ちょっと! あんたら、なにうちを見てんの! うちはそんな事せいへんで!!」
カオリは耳まで赤くしながら、必死に声をあげる。
「…いや、カオリンのは多分、ラフレシアとか食虫植物みたいな感じなんだろ…」
「うわぁ…俺、グロいのはちょっと苦手だから…」
カオリは転生者の言葉に反論しようと口を開きかけるが、ぐっと我慢する。
『こいつら、うちの口から言わせるつもりやな…その手には乗らへんで!』
うちはムスッとした顔をして、会場のあいつらを睨みつける。
「そもそもやな、メイドさん作るのにそんな所拘らんでええやろ!」
「その…それは、時折見えるパンチラの時に…布越しに…こう食い込むというか…」
転生者は目を反らし、頬を染める。
「いや、あんたら、そもそもメイドに何求めてんねん… っていうか、マールはんのこの館をあんたらのいかがわしいメイドだらけにして、風俗店みたいにするつもりなん?」
カオリはドスの効いた声で転生者達に言う。
「そ、そんなつもりは…」
転生者達はカオリの言葉に気圧される。
『うちがここで頑張らんと、マールはんの館があいつらのいかがわしいメイドだらけになってしまう』
そこへ、鶏舎の中年転生者がバタバタと走りながら遅れてやってくる。
「いやぁ~ 済まない済まない。鶏たちが足に絡んできてね… ついてこない様にするのに手間取ってしまったよ」
「あぁ、貴方ですか… もう、会議は始まっているのでお掛けください」
代表の転生者はとりあえず、空気が変ったことにほっとしながら、着席を促す。
「よっこいしょっと、で、今日の議題は何なんだい?」
中年転生者は年相応に、汗を拭いながら、おっさん臭く座る。
「じょ、女性のアレについてだ…今後の領地の発展に必須なのだが、誰も見たことが無くて…」
「あぁ、それなら私が知っているよ」
中年転生者は意外な言葉をさらりと答える。
「…なん…だと…!?」
「知っているのか!おっちゃん!」
中年転生者の言葉に、他の転生者達は目を丸くして驚愕する。
「なんせ、こちらに来る前は妻帯者で子供も居たからね」
唯一、前世で結婚していた中年転生者が知っていた訳を話す。
「神だ! 神が降臨なされたぞ!!!」
「すげー!! 俺はSNS以外で初めて見た…」
「「神!神!神!」」
転生者達は中年転生者を取り囲み、胴上げを始める。
マールの館のこの日の日誌には、食堂に神が降臨したと記されていた。
「マールはん…ごめん… うち、館の風俗化を阻止出来へんかったわ…」
後日、工房にて。
「俺のメイドは歌うロイドのミクさんで!」
「(お姉さん風!! 巨乳!! バブみをぉぉぉ!!!)」
「分かったから。脳内に大声で言うな!」
通常業務は最低限の者だけが割り当てられ、数多くの転生者達が、工房でメイドゴーレムの造形作業に励んでいる。
彼らの恐ろしい所は、量産品の大量生産ではなく、100人もいる転生者それぞれの希望に合わせての制作である。
しかも、セクレタの指示により、作成するなら2体づつと言われているので、一品物を作ればいいという話ではない。
更に完成品はセクレタが見定め、質の良い方を館の業務や販売に回すと言っているので、どちらも手を抜く事は出来ない。
「あぁ… 館の風俗化がどんどん進んでいきよる…」
テキパキと作業が進められる風景を、カオリは呆然と眺める。
「まぁ… みな、若いからね… 仕方がないよ」
そんなカオリに中年転生者は慰めの言葉をかける。
「せやけど、おっちゃんはよかったん?」
「良かったって、何が?」
中年転生者はカオリに向き直る。
「いや…その… 奥さんのがモデルになってて、あいつらに…」
「あっ…」
カオリの言葉に中年転生者は固まる。
その後、十日の間、神と呼ばれた中年転生者は鶏舎に引き籠った。
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