第50話 日本人大好き大浴場!(混浴もあるぜよ)

「ち、ちゃうねん… マールはん、うちの話聞いてくれる?」


 採掘場跡にあった白い建物の代わりに、建っている屋根が黒くなった建物を、見上げている私に、カオリが申し訳なさそうな顔して、言葉を掛けてくる。


「えぇ、聞いてますよ」


 新しくなった建物からは屋根付きの陸橋が増設されており、門の前の道をまたいで舘の方に続き、豆腐寮へと続いている。


「こ、これはやなぁ~ うちが地下の方で監視してる間に、あいつらが勝手に…」


 私は暖簾を潜り、建物の中に入る。建物の中は綺麗に内装がされており、玄関は広間になっていた。


 私は奥に進もうとするが、足元に何かぶつかる。


「あっ マールはん。この建物は土足禁止やねん。靴脱いで、そこのスリッパに履き替えてもらえる?」


 よく見ると、玄関と広間とは段差になっており、その段差の手前ではいくつかの靴が脱ぎ棄てられていた。


「えー 変わった風習ですね…」


私は近くにあった椅子に腰掛け、靴を脱ぎ、スリッパに履き替える。


「で、採掘場はどちらですか?」


「採掘場はずっと奥にいった所にある階段を降りたらあるねん」


 スリッパに履き替えたカオリから説明を受ける。私はその説明通り、奥へ奥へと進んでいく。暫く奥に進むと、T字路になり、そこには案内板があって、右に進むと採掘場と書いてある。私は案内板に従い右へと進む。右への通路は先程までの通路とは異なり、内装が質素になり、細くなっていく。


 そして、奥に辿り着くと行き止まりとなっており、扉が一枚あるだけだ。その扉には『採掘場 関係者以外立ち入り禁止』と書いてある。


「開けてよろしいですか?」


後ろに付いてきているカオリに尋ねる。


「どうぞ、あけたって」


 私はカオリに確認を取った後、扉を開けてみる。すると地下に伸びる階段があった。私は恐る恐る、その階段を降りていく。すると又、扉があって、再び扉を開ける。


 すると一気に視界が広がり、採掘場が見渡せる。ここは採掘場の天井に近い場所にあり、全体を見渡せる場所になっているようだ。


「へぇ~ よくこんなの作りましたね。みなさんここから出入りするんですか?」


「ちゃうで、ここは管理担当の出入りする場所やで。荷物の搬入とかで、作業員が汚れてたりするやろ?せやから作業員は建物の別の場所から入るんや」


「色々、考えてあるんですね。では表の入り口はなんですか?」


私はカオリに振り返って尋ねる。


「表の入り口は一応、お客さん用やな。舘のもんは、裏口からとか二階の陸橋から入ってくるねん」


「あぁ、二階の陸橋ですか。あれは便利そうですね。見せていただけますか?」


「ええで、見たって見たって」


カオリは快く承諾し、私を二階へと案内する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 二階に辿り着くと、下から見上げていた陸橋の様子が良く見える。陸橋は道をまたいで、ずっと伸びており、豆腐寮の二階の広間へと繋がっている。陸橋の途中の門の辺り、門番の詰所が塔になっており、そこからもここに上がってこれる様だ。


「この通路、豆腐寮と繋がっとって、そのまま裏口の方にも行けるらしいで」


なるほど、仕事場への通路を作ったわけである。


 私は振り返り、建物を方を見る。するともう一階上の三階辺り広場から、水蒸気が上がっているのが見える。


「あれはなんですか?」


私は指差しながら、カオリに尋ねる。


「あれな! あれは浴場やねん! 露天風呂やねん!! 見たって!」


 私ははしゃぐカオリに手を引かれ、三階へと進む。三階に上った所は広間になっており、舘方面とその反対側に大きな引き扉があった。


「もう一つはまだ、出来てへんけど、舘側はそろそろ出来るから見たって!」


 私はカオリに背中を押されて、舘側の扉を潜る。そこは開けた空間で、空の棚がいくつもあり、長椅子や籠が幾つも置かれてある。奥にはガラス扉があって、湯気で曇ってはいるが、その向こう側に浴場があるようだ。


「おっ、マールたんとカオリン来たの?」


浴場で作業をしていた転生者が私達に気が付き、声を掛けてくる。


「えぇ、今来た所ですよ」


「大浴場完成したから。混浴だから!」


転生者が『混浴』を強調して言ってくる。


「お、お疲れ様です」


「混浴だから!」


「はい、聞こえていますよ」


私がそう返すと、ぶつぶつ言いながら通り過ぎて行くが、部屋を出る際に


「入って待ってるから!」


と大声を出して去っていった。


「はぁ~…」


「堪忍なマールはん。まだ一つしか出来てへんから、今日は混浴って事らしいわ」


「それは構いませんが… 私は今日入るつもりはありませんので」


「まぁ、今日はそやな… でも、安心して! 脱衣場とか浴場とか変な仕掛けや、のぞきが出来へんように、うちがよう監視しとったから!!」


カオリが自信満々に答える。


「へぇ~ カオリさん。ここの監視もなさっていたんですか…」


「あっ…」


カオリに表情が青くなる。


「ちゃう! ちゃうねん! マールはん! うちの話聞いてくれる!?」


「だから、聞いていますよ」


「うちは… その…」


 カオリは顔を反らせて、両手の指を組んだり解いたりし始める。そして、いきなり私に向かって土下座をする。


「マールはん… 堪忍… うちも大きなお風呂入りたかってん…」


「カ、カオリさん! 急に土下座だなんて! 顔を上げて下さい! 私、怒っていませんから!」


私は慌てて、カオリを引き上げようとする。


「ほんまに? ほんまにマールはん、怒ってへん?」


「えぇ、怒っていませんよ。ちゃんと採掘場を復旧させてくれたんですから」


 ただ、大浴場を作る前に一言、言って欲しかったとは思ったが、拗れそうなので、その言葉は黙っておいた。


「しかし、カオリさんまでが、そんなにお風呂入りたかったんですか…」


「そ、それは…元日本人の血かな?」


「元日本人?」


 思い返せば、カオリを含め転生者達は、私から見て奇抜な行動が多かった。腐った豆を食べたり、お米を喜んだり、今回みたいに皆で入る大浴場を喜んだり、玄関で靴を脱いだり…

あっ、そういえば、帰りは陸橋を通りたいと思ったけど、靴は玄関にあるから一度戻らないとダメだな…


「そういえば、混浴って言ってましたけど、カオリさんも入るんですか?」


「いやいや! 入らへん入らへん! うちはそんな事せいへんよ!」


カオリは慌てて否定する。私はその言葉に胸をなでおろす。


よかった。混浴の習慣は日本人全員ではなく、彼らだけのようである。




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