第35話 委員長メイキング
「なんでこんな事になってしまったんだろう…」
私は部屋の中で呟くが、誰もそこ答えを返さない。当然である。私は今、貴族用の牢獄に閉じ込められている。貴族用と言っても申し訳程度であり、剥き出しの石壁の部屋に硬いベッドが置いてあるだけである。
もっと良い言い訳ができたのであろうか?
そもそも、転生者達が来た時からの対応が間違っていたのであろうか?
私は早々に転生者達を放逐なり追放するべきだったのか?という考えが頭の中を過ったが、転生者であった母に恩返しできなかった分を、彼らに返すと自分自身が決めた事である。しかも、私自信にも半分転生者たちと同じ血を引いている。彼らを見捨てるのは同族を見捨てるのと同義だ。だからそんな事は出来ない。
だと、するとあの審問官のトーカをなんとか説得して誤解をとかなくてはならない。その為に彼らが転生者であることを説明すれば良いのであろうか?いや、それは藪蛇のような気がする。この世界での出生の分からない人間など、隣国の工作員としか思われない。
ならどうやって説明する?
私はこの答えが見つからず、悪い結果ばかりが頭の中に渦巻く。私は頭を掻きむしりたくなって、頭に手を伸ばした時、天井すれすれにある、鉄格子のついた窓の外から物音がする。
「マールたん」
私はその言葉に、ベッドからおりて窓のしたまで駆けつける。
「はい、私です。マールです」
窓の外だけに聞こえる声の大きさで答える。
「おっ! やっぱりマールたんだ」
その言葉と同時に、女の子の絵の掛かれた袋を被った頭が次々と現れる。
「ひゃあ」
私は驚きのあまり悲鳴をあげそうになるが、すぐさま口を塞ぐ。そして、扉の外に意識を向ける。どうやら私の声はあまり響いていないようだ。
「今、俺達が助けてやるから」
窓の外から声がする。いや、それは困る。絶対に余計にややこしくなる。
「お願いですから、何もしないでください。審問官は私が説得しますから」
私はなんとか思いとどまる様に力説する。
「なるほど、その審問官が問題なんだな」
しまった!余計な情報を与えてしまった。
「だから違いますって。私がなんとかしますよ」
「ははは、任せておけマールたん」
転生者はそう言うと、いずこかへ消え去った。
☆☆☆☆☆
「帝国と帝都の平和は、私が守らなくてはならないの」
審問官のトーカは自室の執務机の前でそう呟いた。
以前から不可解な情報が寄せられている領地から、その領主が私兵を引きつれて帝都に現れた。おそらく事を起こす時の為に、下見に来たのに違いない。ただ、怪しいという状況だけで、確実な証拠が見つかっていない。
「私があの女から全てを白状させないと…」
トーカは口元に親指を寄せるが、途中で思いとどまり、静かに机の上に置く。そして、その手の横にある資料に視線が移る。
「あの女は…」
資料に目を通していると、耳が熱くなってくる。
「ひ、百人のあ、愛人なんて…なんて破廉恥な!!」
トーカは小さな頃から、清く正しく美しくあろうと生きてきた。そして、人々の先頭に立って導こうと。だから学生時代には皆をまとめる学級委員長になり、秩序を乱す者、風紀を乱す者を厳しく指導してきた。当然の事ながら風紀に触れる異性交流など許されない。
そもそも、淑女たるもの結婚するまでは貞淑であらねばならない。だから結婚するまではキ、キスどころか手も繋いではダメ。なのにあの女は愛人?それも100人も!?不潔よ!不潔すぎるわ!!
その時、窓の外から小さな物音と人の気配を感じた。
「誰!」
トーカが立ち上がり、窓の外に声を上げると、一気に気配が消えていく。
「この感じ…ただ者じゃないわね…もしかして、あの女の連れていた私兵!?」
トーカはそう考えると、すぐさまあの私兵を軟禁している部屋へ急ぐ。
「確かめてやらないと!!」
☆☆☆☆☆
「やべ!あの子、結構勘がいいぞ」
「すぐに戻らないとまずいな!」
転生者達は音を立てずに、自分たちが軟禁されていた部屋に急ぐ。そして事前に魔法で開けて置いた窓から、するりするりと入っていく。
「あれ?明かりがついてないぞ?」
「セクレタママもいない…」
部屋に戻ったばかりの転生者が、辺りを見回していると、扉が勢いよくバーンと開かれる。
「さっきの気配は貴方達ね!!」
トーカはそう声を上げると、勢いよく部屋の中へ入ってくる。
「分かってるのよ!! あっ」
そう言っている途中で何かに躓き、派手に頭から転ぶ。
ガッツん!
「痛っ!」
「ちょっ、あの娘、派手に転んだぞ」
「頭からいっとる」
「ちょっと、手を貸してやるか」
そう言って転生者達は倒れたままのトーカを取り囲む。
「いたたた…おでこぶつけたわ…」
トーカは打ち付けたおでこに手をやり、身体を起こしていく。そこで、自分の周りを取り囲む人の気配を感じて、床に腰をつけながら、その気配を見上げる。
「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そこにあったのは少女の絵が掛かれた袋を被った奇妙な男達の姿である。
ちょろ
トーカはあまりの光景に、腰を抜かし、男達を見上げたまま床にへたり込む。
「おやおや、これは腰を抜かしたようだな」
「ふむ、俺たち介抱してやらんとダメだな…」
そう言って男達がしゃがみ込み、袋を被った不気味な頭がトーカに近づく。
「や、やめて…」
腰どころか、恐怖で力も抜けているトーカは消え入りそうなか細い声をあげる。
「あれ?この娘、委員長キャラっぽくね?」
「あぁ、そうだな紛い物のカオリンと違って、国産100%の委員長キャラだわ」
「そだな、じゃあもっと見た目を委員長っぽくしようか」
「あ、貴方達なにを言っているの!?」
トーカは男達の会話が理解できず、恐怖で身体と声を震わす。
「まずは眼鏡かけさせてぇ~♪」
「ちょ、ちょっと何をするの!」
「次はおでこ出して~♪」
「や、やめて!髪を触らないで!」
「ワセリン塗ってテカテカにぃ~♪」
「い、いや!変なもの塗らないで!!」
身動きが取れず、抵抗できないトーカは男達に、眼鏡を掛けさせられたり、おでこが出る髪型にさせられたり、おでこにワセリンを塗られたりした。
「ここまで来ると、制服も着せたいよな」
「こんな事もあろうかとセーラー服持ってる」
「おぉ!すげぇ!」
「もう、着替えさせるしかないな…」
「でも、着せる為には脱がせないとダメだよな…」
「「「ゴクリ…」」」
そして、奇妙に蠢く男達の指がトーカに迫る!
「待ちなさい!」
突然、制止する声が響く。
一同が声がした扉の方に顔を向けると、そこには審問官の職員を引きつれたセクレタの姿があった。
「間に合ったようね」
セクレタの言葉を聞くと、トーカは気を取り直し、這いつくばって職員の所まで進む。そして、その手を借りて、身体を預けながら立ち上がった。
「間に合ってないわよ!私はこの男達にいかがわしい事をされたのよ!!」
トーカは男達を指差しながら、怒気を撒き散らす。
「トーカ様。いかがわしい事とは」
職員の一人が身を案じて尋ねる。トーカは一度、その声の方を向き、一呼吸して耳を赤くしながら男達に向き直る。
「眼鏡をかけさせられたわ!」
トーカが叫ぶ。
「転ばれたので、目がよろしくないのかと」
転生者の一人が答える。
「髪を触られたわ!!」
「傷口を確認しようと」
別の転生者が答える。
「お、おでこに何か塗られたわ!!」
「軟膏を塗っただけですが、なにか?」
またまた、別の転生者が答える。
「そもそも、なんで袋を被っているのよ!!」
「似たような顔に、同じ髪型なので驚かれるかと」
男達が白々と答えていく。その様子にトーカは怒りの限界に達する。
「わ、私の服を脱がせようとしたわ!!!」
トーカの言葉に、男達は一度、互いの顔を見合わせる。
そして、ゆっくりトーカの方に向き直る。
「粗相をされた様なので、お召し替えを…」
「いやぁぁー!! やめてぇぇ!!! 言わないでぇ!!!」
男達の言葉が言い終わる前に、トーカが耳と顔を真っ赤にして叫ぶ。
「してないから! してないから!!」
セクレタは安堵の溜め息をつく。
「ふぅ…どうやら誤解は解けたようね…」
トーカと男達の様子を見て、セクレタが呟く。
「わ、私! そ、粗相なんてしてないから! 誤解だから!!」
トーカが真っ赤な顔をして、手足をばたばたさせる。
「知らないわよ。そんなの」
セクレタはぽつりと答えた。
☆☆☆☆☆
「ど、どうしよう… 絶対にあの人達…何か仕出かしているはず…」
マールは青い顔をして、一人獄中で震えていた。
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